不動産所得と事業所得はどう違う?違いや確定申告の方法を徹底解説!

[取材/文責]長谷川よう

個人が所有する不動産を賃貸して得られる所得は、一般的に不動産所得とされます。しかし、「ビルやアパート1棟を個人で所有して賃貸すれば、事業所得になるのでは?」と考える人もいるのではないでしょうか。
この記事では、不動産の賃貸による所得の種類や確定申告の方法について解説します。

不動産所得と事業所得の違い

個人の所得は給与所得や事業所得、不動産所得など10の区分に分かれています。まずは、不動産に関わる不動産所得と事業所得について、それぞれ所得税法でどのように定義されているか確認しておきましょう。

不動産所得の定義とその具体例

不動産業には貸付業や売買業、仲介業などがあります。このうち、不動産の貸付によって得られる所得を不動産所得といいます。具体的には以下の3つが該当します。

 

  • (1) 土地や建物の貸付け
  • (2) 不動産の上に存在する借地権などの権利
  • (3) 船舶や航空機の貸付け

 

ただし、不動産などの貸付けであっても、事業所得や譲渡所得に該当するものは除きます。不動産の貸付けであっても、アパートなどの空間だけを貸すのでなく、下宿のように食事を供する場合は事業所得とみなされます。
不動産所得の金額は以下の計算式で算出します。

 

不動産所得の金額=総収入金額-必要経費

 

「総収入金額」には家賃収入、頭金、敷金・保証金(返還しなくてもいいもの)、共益費などが含まれます。また、「必要経費」には修繕費、固定資産税、損害補償料、減価償却費、資産損失などが含まれます。

事業所得の定義とその具体例

事業所得とは、事業をすることで得た所得を指します(ただし、譲渡所得や山林所得に該当するものは除く)。ここでいう「事業」とは、農業や林業、建設業、製造業、金融業などさまざまな分野において、継続・反復、独立して提供されるモノ・サービスを指します。不動産の仲介業や売買業から得られる所得は、事業所得となります。

不動産所得における事業的規模とは

不動産の貸付けは規模にかかわらず不動産所得となります。しかし、貸付けが事業的規模で行われていると判定されることがあります。
ここでは、不動産所得における事業的規模について解説します。

事業的規模と事業所得は違う

「事業的規模」の基準については、所得税通達で「原則として社会通念上事業と称する規模で行われているかどうかによって決まる」とされ、明確な基準が示されていません。建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。

 

  • (1) アパートなどはおおむね10室以上
  • (2) 貸家はおおむね5棟以上
※貸地や駐車場について、明確な規定はありませんが、一定件数以上の土地を貸付けていると事業的規模とみなされます。詳しくは税理士や税務署に相談しましょう。

 

ここで注意したいのが、貸付けの規模は大きくなっても、所得の種類はあくまで不動産所得であり、事業所得にはならないということです。間違えないように注意しましょう。

事業的規模における不動産所得の計算方法

不動産の貸付けが事業的規模とみなされた場合、不動産所得の計算方法がそうでない場合と異なります。
不動産所得は、上記で述べたように「総収入金額-必要経費」で求めます。青色申告をしていると、さらに青色申告特別控除を受けることができます。事業的規模とそうでない場合とでは、この計算の過程で差し引ける金額に以下のような違いがあります。

 

  • (1) 青色申告特別控除
    事業的規模の場合、正規の簿記の原則による記帳を行うなどの要件を満たすと最高55万円の控除を受けることができます。さらに、電子帳簿保存またはe-Taxによる申告を行っていると、最大控除額は65万円になります。一方、事業的規模でない場合の最高控除額は10万円です。
  • (2) 青色申告の事業専従者給与または白色申告の事業専従者控除
    事業的規模の場合のみ適用されます。
  • (3) 家賃などの回収不能による貸倒損失
    事業的規模の場合、回収不能となった年分の必要経費に算入できます。一方、事業的規模でない場合は、収入に計上した年分までさかのぼり、回収不能の家賃に対応する所得はなかったものとして所得金額の計算をし直す必要があります。
  • (4) 賃貸用固定資産の取り壊しや除却などによる資産損失
    事業的規模の場合、全額を必要経費に算入できます。一方、事業的規模でない場合は、必要経費にできる金額は資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を上限とします。

不動産所得の確定申告とは

確定申告とは1年間(1月1日~12月31日)の所得金額とそこに課せられる税金を計算し、税務署に確定申告書の提出と納税を行う手続きのことです。原則、その年に家賃収入がある人は確定申告が必要です。申告・納付は翌年の2月16日~3月15日です。
確定申告の流れと必要書類を見てみましょう。

 

  • (1) 提出書類
    • 確定申告書B
      確定申告書にはAとBがありますが、不動産所得がある場合はBを使います。
    • 青色申告決算書(青色申告の場合)または収支内訳書(白色申告の場合)
      青色申告決算書・収支内訳書ともに「不動産所得用」を使います。
    • 各種控除証明書類
      生命保険料控除、地震保険料控除などの控除を受ける場合は控除証明書を添付します
    • 副業で不動産貸付業を営んでいる会社員の場合、勤務先の源泉徴収票
    • 本人確認書類
      マイナンバーカード、または以下の2種類の書類を用意します。
      マイナンバー確認書類(マイナンバー通知書または住民票)+身元確認書類(運転免許証やパスポートなど)
  • (2) 確定申告書、青色申告決算書(または収支内訳書)の作成
    収入や必要経費、所得金額、納税額を計算し、確定申告書などを作成します。
  • (3) 書類の提出
    税務署の窓口・郵送・e-Taxのいずれかの手段で提出します。e-Taxを行うには、あらかじめ届出が必要です。
  • (4) 所得税の納付
    納税が必要となる場合は、所得税を納付します。納付方法には納付書を税務署窓口や金融機関などに持参して現金で納付する方法のほか、クレジットカードやe-Tax、QRコードを使ったコンビニ納付、振替納税などがあります。

まとめ

アパートやマンションなどを一定の規模以上で賃貸している場合、事業的規模とみなされます。ただし、所得の種類はあくまで不動産所得です。事業的規模と見なされた場合、不動産所得の金額を計算する際の控除額が事業的規模ではない場合と異なります。
事業的規模とみなされる建物の目安として「アパート10室、貸し家5棟」という数字が示されていますが、これはあくまでも目安に過ぎません。ご自身が手がけている不動産貸付業が事業的規模に該当するかどうかわからない場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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