確定申告のよくある10の事例集!この確定申告の方法は正しい?間違い?
サラリーマンであっても個人事業主であっても、それぞれの家庭の事情によって所得税の確定申告書を出す場合や出さない場合、また、確定申告書にはどのように記載すればいいのか等々悩ましいことは多々ありますよね?この記事では身近な確定申告あるあるのうち、10個の事例を取り上げてみました。
確定申告事例1 ―申告書提出に関するあれこれ-
確定申告書を期限までに提出しない判断、これで大丈夫?
確定申告には申告期限が設けられています。特に青色申告などで申告期限後では適用が変わってきますので注意が必要です。以下の考え方は正しいでしょうか?
事例1)
私は、給与所得者ですが医療費控除の適用のため、所得税の確定申告で還付申告をします。納付ではないので、申告期限までに提出しなくてもよいと考えています。
判定)結果的には〇
医療費控除については、申告義務はありません。申告義務のない還付申告書については5年以内であれば可能であるので、その年の申告期限までに提出しなくても差し支えありません。
ただし、「納付ではないため、期限までの提出を求められない」という解釈は誤りで、あくまでも申告義務なしの還付申告書の場合は期限までの提出でなくともよいのです。
事例2)
私は、個人事業主ですが、令和2年の年末から納税時期にかけて長期入院することとなりました。身近に決算を頼める人もいないため、退院してからしか所得税や消費税の確定申告書は提出できず、他に打つ手はありません。
判定)×
事前に延長申請をすることにより、延長した期間が延滞税や加算税の対象とならずに済みます。
やむを得ない理由により申告書等の提出、納税等を期限までにできない時は、その理由がなくなった日から2ヵ月以内に限り、法定期限を延長できます。この場合は提出期限までに(入院の前など)所得税の申告等の期限延長申請書を提出します。
また、期限の延長が可能な手続きは確定申告だけではなく、更正の請求や所得税の青色申告承認申請、消費税の確定申告などについても設けられています。
事例3)
私は、昨年まで所得税の確定申告は青色申告でした。昨年の青色申告の純損失額が20万円あるのですが、今年は青色申告書が作成できず、白色申告なので残念ながら繰越控除ができません。
判定)×
翌年が白色申告でも繰越控除は可能です。
所得税法70条には、「純損失の金額は、青色申告をしている年分の純損失に限り、翌年以降3年間の所得の金額から繰越控除を受けることができる」とされています。
ポイントとなるのは「青色申告していたときの純損失」であって、3年以内であれば繰越控除できます。
なお、コロナ対応にかかる申告期限延長については、昨年度分については「確定申告期限の柔軟な取扱い」がなされたように、国税庁から対応策がでる場合があります。
お近くの税務署に問い合わせる等確認してください。納税猶予についても同様です。
確定申告書を期限までに提出するが、これで大丈夫?
次は、申告期限までに確定申告書を提出する例ですが、どうでしょうか?
事例4)
私は給与所得者で年末調整済みです。雑所得が15万円ありましたが、給与以外の所得が20万円未満なので確定申告は不要です。しかし、医療費控除の適用を受けるための還付申告をする予定ですが、申告にあたっては「給与所得のみ」記載とします。
判定)×
給与所得以外の雑所得も確定申告に含める必要があります。
所得税の確定申告は、各種の所得金額を合計して所得税額を計算する総合課税制度を採っていますので、還付申告書を提出するにあたっては、すべての所得を記載する必要があります。
事例5)
生計を一にしていた私の父が、国民年金の受給開始前に亡くなりました。遺族として受け取った死亡一時金については、一時所得として所得税の確定申告する予定です。
判定)×
国民年金の死亡一時金は非課税ですので、確定申告の必要はありません。
一定期間、国民年金等の加入者であった者の遺族が、年金の支給前に死亡した場合に受ける「死亡一時金」や、国民年金基金加入者が年金を受ける前に死亡した場合に受ける「遺族一時金」は非課税となります。
しかしながら、年金は偶数月に過去二か月分が振り込まれるため、亡くなった月の分は本人が受け取ることはできません。これを「未支給年金」と言い、生計を同じくしていた遺族が受け取ることができますが、これについては受け取った遺族の一時所得となります。
確定申告事例2 -新型コロナウイルス感染症関連や新たな控除に関するあれこれ-
新型コロナウイルス感染症関連の取り扱いとは?
次の確定申告では新型コロナウイルス感染症の影響による取扱もさまざまですので、気をつけましょう。
事例6)
私は個人事業主で、事務員を2名雇用しています。今般のコロナ対策としてテレワークのための設備を導入しましたが、「テレワーク等のための中小企業の設備投資税制」は法人しか適用できないため決算書には普通償却額だけを記載しています。
判定)×
個人事業主でも設備投資税制の適用は可能です。
新たな特例である「テレワーク等のための中小企業の設備投資税制」の対象となるのは、青色申告書を提出する「中小企業者」です。中小企業者等には、個人事業主も含まれます。税制の適用には事前に「経営力向上計画」の認定が必要ですが、取得した設備の全額を即時償却又は7%等の税額控除ができます。
事例7)
私は個人事業主で従業員を雇用しています。福利厚生の一環として毎年スポーツ観戦チケットを従業員に配付しています。コロナの影響で今年はスポーツイベントが中止になりましたが、払い戻しはしていません。このチケット代については支払はしたものの福利厚生には活かせなかったため、必要経費には入れずに確定申告する予定です。
判定)対応としては〇。しかし税額控除が可能
福利厚生とは、従業員のための給与以外のサービスのことですので、実際には社内行事として従業員へ何もできなかった場合、福利厚生費として必要経費に計上できません。
しかし、チケット代の払い戻しをしていない場合は、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに開催予定であった文化芸術・スポーツ関連行事のうち、政府の要請を受けて中止となった一定のものは寄付金控除の対象とすることができます。その場合、主催者から証明書を取得し、確定申告書に添付して提出ください。
事例8)消費税関連
私は個人事業主で売上が少なかったため、消費税はずっと免税事業者でした。しかし、コロナの影響でサービス内容を大きく変え大規模な設備投資を行ったため、取得した設備に係る消費税を取り戻したいと思います。まだ、申告前なので課税事業者を選択することはできると思っています。
判定)▲特例適用には条件あり
令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までの間のうちの連続した1か月以上の期間の収入が、前年の同時期と比べて、概ね 50%以上減少している事業者には特例の適用があります。
この期間で売上が50%以上減っていれば「特例対象事業者」となり、個人事業主は令和3年3月31日までに特例承認申請書及び消費税課税事業者選択届出書を提出することにより、課税事業者となれます。
事例9)住宅借入金等特別控除
私は給与所得者で、令和2年に住宅を新築しました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響により入居が大幅に遅れ、令和2年度中にはできそうにありません。残念ながら、住宅借入金等特別控除は受けられないと判断し、確定申告はしない予定です。
判定)×
新型コロナウイルス感染症の影響により入居が期限である令和2年12月31日に間に合わない場合でも、期日までに契約が行われていること等一定要件を満たした上で令和3年12月31日までに入居すれば、特例措置の対象となります。
新たな所得控除についての判断とは?
最後に、新たに令和2年分申告から創設された所得金額調整控除について見てみましょう。
事例10)所得金額調整控除
私は給与所得者で年収880万円程度です。年末調整が済み、年末に子どもが生まれましたが年少扶養親族は控除対象ではないので、確定申告をしなくてもよいと考えています。
判定)▲
確定申告又は再年調で所得金額調整控除が受けられます。
所得金額調整控除の適用対象者は、給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者で、かつ、次のいずれかに該当する人です。
- 本人が特別障がい者に該当する者
- 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
- 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者
この事例では、該当者となるため、次の計算による控除額が適用できます。
以下、10の事例をまとめてみました。前提条件等詳細はそれぞれ上の事例を参照ください。
質問 | 回答 | |
---|---|---|
1 | 医療費控除の適用のためだけの還付申告 | 申告期限後でもよい |
2 | 納税時期にかけての長期入院 | 延長申請を提出 |
3 | 白色申告での過去の青色欠損金 | 繰越控除できる |
4 | 医療費控除のための還付申告で雑所得を省略 | 20万円未満の所得も申告必須 |
5 | 父の死亡一時金(未支給年金ではない) | 非課税となる |
6 | テレワーク等のための中小企業の設備投資税制 | 個人事業主でも可能 |
7 | 払い戻しをしていないイベントのチケット代 | 寄付金控除の対象となる可能性あり |
8 | (消費税)申告直前に課税事業者に変更 | 要件満たせば可能 |
9 | 令和2年度中に新居への入居が難しい | 住宅ローン減税の適用要件の弾力化あり |
10 | 年末調整後に子ども誕生(年収850万円超) | 所得金額調整控除が可能 |
新型コロナウイルス感染症の影響による対応策等につきましては、最新の情報を得るようにして下さい。詳細は税務署や税理士などに問い合わせましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ここに挙げたものは、事例として多く、解決しやすい例なのかもしれません。通常の確定申告をするにあたっても多くの不明点がある中、令和2年度分では新型コロナウイルス感染症の影響によりその解釈を一層複雑にしているものもあるかもしれません。
いずれにしても早めに準備や問い合わせにより、不利な状況をつくらないことが大切です。
▼参照サイト
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/32.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kansensho/tetsuzuki.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/0020004-021_01.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12512000-Nenkinkyoku-Jigyoukanrika/a30_1.pdf
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1605.htm
- https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/pdf/tebiki_keieiryoku.pdf
- https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/sonota_oshirase/pdf/20200422_01.pdf
- https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/sonota_oshirase/pdf/20200430_01.pdf
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/shohi/index.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/keizaitaisaku/pdf/keizaitaisaku_3.pdf
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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