個人事業主と社員の税金の違いについて所得税の計算方法を中心に解説

[取材/文責]阿部正仁

個人事業主と社員の税金のルールは違います。たとえば、個人事業主にとって税務署に確定申告書を提出するのは常識ですが、社員で確定申告をしている人は少ないでしょう。このように、誰にでも課税される所得税について両者に対するルールに差があります。そこで、個人事業主と社員の税金の違いについて解説します。

個人事業主と社員の所得税の基本的な考え方

個人事業主と社員の所得金額に対し、所得税が課税されます。まずは基本的な考え方について説明します。

所得税の計算方法について解説

個人事業主と社員は年間の収入金額をベースに所得税を計算します。具体的には次の手順となります。

(1)収入金額を計算する

個人事業主なら年間の売上高、社員なら年収が当てはまります。

(2)経費を計算する

経費とは仕事で収入を得るために支出した費用のことを指し、年間の合計額を計算します。

 (3)合計所得金額を計算する

上記(1)から(2)を差し引いた残額であり、仕事でもうけたお金のことを指します。

(4)所得控除を計算する

配偶者控除、医療費控除、生命保険料控除などの生活費に相当する所得控除を計算します。

(5)課税所得金額を計算する

上記(3)から(4)を差し引いた残額であり、税率を掛けるベースとなる金額です。

(6)年間所得税を計算する

上記(5)に所得税の税率を掛けて計算します。

(7)税額控除の金額を集計する

入金する段階で天引きされた源泉徴収税額や住宅ローン控除などの税額控除の金額を集計します。

(8)納税額を計算する

上記(6)から(7)を差し引いた残額がプラスなら納付し、マイナスなら還付(返金)されます。

所得税の税率は所得金額に比例する

そもそも所得税は累進課税制度を採用しているため、税率は所得金額に比例します。具体的には次の7段階に分けて所得税の税率を適用します。

課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 9万7,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 42万7,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 63万6,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 153万6,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 279万6,000円
4,000万円超 45% 479万6,000円

 

たとえば、課税所得金額が700万円の場合、所得税は「700万円×23%-63万6千円=97万4千円」となります。

個人事業主と社員の所得税の違いについて解説

個人事業主と社員の所得税の基本的な考え方、計算方法は同じですが、違う点も存在します。そこで、両者の所得税の違いについて解説します。

そもそも誰が所得税の計算を行うのか

個人事業主と社員では年間所得税を計算する人が違います。具体的には次の通りです。

(1)個人事業主

収入金額、経費、所得控除など所得税の計算要素を自分で計算し、税務署に確定申告を行います。そのため、年間所得税に対する税務調査の対象者は個人事業主である本人です。

(2)社員

次の条件を満たす社員は年末調整により、会社が年間所得税の計算を行います。

・会社などに1年を通じて勤務している社員

・年の中途で就職し年末まで勤務している社員(青色事業専従者も含む)

・年収2,000万円以下の社員

年間所得税に対する税務調査の対象者は社員ではなく、会社です。

社員でも確定申告が必要な人

前述の通り、年末調整の対象者は限定されているため、次の社員は確定申告が必要です。

(1)年収が2,000万円を超える社員

(2)給与所得や退職所得を除いた、副業や投資などによる雑所得、不動産所得、事業所得などの合計所得金額が20万円を超える社員

※あくまでも合計所得金額であり、収入金額とイコールではありません。たとえ副業での収入金額が20万円を超えても、経費を差し引いた残額が20万円以下なら確定申告は不要です。

(3)副業でアルバイトをしているなど2ヵ所以上から支払を受けている社員

(4)自社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている同族会社の役員

(5)災害減免法という特例制度により源泉徴収の猶予などを受けている社員

(6)源泉徴収義務のない者から源泉徴収税額を天引きされずに給与、賞与の支払を受けている社員

(7)退職金を受け取り、退職所得に対する所得税が天引きされた源泉徴収税額よりも多くなる社員

個人事業主と社員の経費の計算方法は違う

個人事業主と社員では経費の計算方法が違います。

(1)個人事業主

経費の実額+青色申告特別控除額(10万円または65万円)

(2)社員

年収をベースにした給与所得控除額という概算額を求めます。具体的には次の通りです。

年収 給与所得控除額
180万円以下 年収×40%

65万円に満たない場合には65万円

180万円超 360万円以下 年収×30%+18万円
360万円超 660万円以下 年収×20%+54万円
660万円超 1,000万円以下 年収×10%+120万円
1,000万円超 220万円(上限)

法人役員の所得税の計算方法

個人事業主が法人なりをし、役員に就任すれば、自社から給与(役員報酬)を支給する形式を採ります。そのため、たとえ同じ代表者でも個人事業主と法人役員の所得税の計算方法は違ってきます。

そもそも役員は法人の社員である

法人役員は自社から給与の支給を受けるため、社員と同じように給与所得として所得税を計算します。当然、年末調整の対象者となり得ます。

法人役員が確定申告の必要なケース

社員は給与所得と退職所得を除いた合計所得金額が20万円以下の場合、確定申告が不要です。しかし、同族会社の法人役員は違います。自社から貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている場合には、たとえ給与所得と退職所得を除いた合計所得金額が20万円以下であっても確定申告が必要です。

平成32年の所得税で個人事業主と社員の経費が改正される

平成32年の所得税から個人事業主と社員の経費の金額が改正されます。そこで、両者に分けて改正内容について説明します。

青色申告特別控除額が10万円引き下げられる

青色申告の個人事業主は平成32年から青色申告特別控除額が基本的に65万円から55万円へと10万円引き下げらます。しかし、次の条件を満たす場合は同年以降(平成32年)も青色申告特別控除額は65万円のまま据え置かれます。

(1)電子申告をすること

e-Taxという国税庁のシステムを用いて、オンライン上で確定申告を行うのが電子申告です。

(2)電子帳簿を作成する

電子帳簿保存法に対応した会計ソフトへ入力し、作成した帳簿を電子媒体で保存します。

給与所得控除額が引き下げられる

社員や法人役員の給与所得控除額は次のように引き下げられます。

(1)給与所得控除額が一律10万円引き下げられる

具体的には次の通りです。

年収 給与所得控除額
162.5万円以下 55万円

55万円に満たない場合には55万円

162.5万円超180万円以下 その収入金額×40%-10万円
180万円超360万円以下 その収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下 その収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下 その収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

(2)給与所得控除額の上限額が引き下げられる

年収が「1,000万円→850万円」、給与所得控除額の上限額が「220万円→195万円」に引き下げられます。

まとめ

個人事業主と社員では所得税の計算方法が違います。たとえば、経費を計算する場合、個人事業主は実額を集計し、青色申告特別控除額をプラスします。一方、社員は年収をベースとして給与所得控除額という概算額を求めます。また、同じ給与所得でも社員と法人役員は多少取り扱いが異なります。社員は給与所得と退職所得を除いた合計所得金額が20万円以下なら確定申告は不要です。しかし、法人役員は自社から家賃や貸付金利子を受け取っている場合、たとえ合計所得金額が20万円以下でも確定申告が必要です。この記事を機に個人事業主、社員、法人役員の所得税の違いについて、きちんと押さえましょう。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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