個人事業主の税金の計算で重要となる基礎控除とはどんなもの?
個人事業主は毎年、その年の収入や経費、所得や税金を計算する必要があります。税金の計算をするために必要なものは所得です。しかし、正しい税金を計算するためには、さまざまな控除も忘れてはいけません。控除のなかで最も基本的なものが基礎控除です。ここでは、税金の計算で重要となる基礎控除について解説します。
確定申告に向けて、まずは所得税の基礎を知ろう
確定申告とは 青色申告と白色申告
基礎控除について見ていくためには、まず個人事業主の確定申告や青色申告・白色申告のことについて理解する必要があります。
日本の所得税では、個人事業主が自ら収入や経費、所得や税金を計算し、国にその申告と税金の納付を行う申告納税制度を採用しています。
収入や経費、所得などを計算するためには、日々の売上や仕入などの取引を帳面に付けて残しておく必要があります。
間違いやすいのが、個人事業主の原則は白色申告であるということ。青色申告は、あくまで特典です。白色申告とは簡単にいうと、青色申告の特典を受けていない申告のことです。そのため、青色申告の特典を受けるまでは、すべての個人事業主は白色申告となります。
事業の規模が大きくなれば大きくなるほど取引の数は増え、複雑になっていきます。そのため、より厳密で正しい帳簿付けが必要になります。そこで、国は、個人事業主が正しい帳簿付けなどをする場合には青色申告の特典をつけ、正しい申告をすることを推奨しています。
青色申告の特典には、青色申告特別控除や損失の3年間繰越しなどさまざまなものがあります。
所得って何?その計算方法とは
所得税とは所得に対して課される税金のことです。では、所得とは何でしょうか。
簡単にいうと所得とはもうけのことです。1年間に得たもうけに対して所得税がかかります。
もうけと聞くと、収入から経費を差し引いたものを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、個人事業主やサラリーマン、年金受給者や株などの投資をしている人など、個人にもいろいろな収入を得ている人がいるため、そのすべてに一律の所得(もうけ)の計算方法をあてはめることができません。
そこで所得税では、収入を種類に応じて事業所得や給与所得、雑所得などの10の所得に区分し、それぞれで所得の計算方法を定めています。
個人事業により得た収入は事業所得に該当します。事業所得の所得金額の計算方法は次の計算式で求めます。
青色申告をしている場合は、最大65万円までの青色申告特別控除を受けることができます。
例えば、1年間の売上が1,500万円、仕入や水道光熱費などの必要経費が1,000万円、青色申告特別控除が65万円の場合の所得金額は次のとおりです。
その年の総収入金額1,500万円-必要経費1,000万円-青色申告特別控除額65万円=435万円
実際に所得税を計算してみよう
基礎控除は誰もが受けることができる控除
ここまでは、所得の計算方法について見てきました。ここからは基礎控除について見ていきましょう。
所得税は所得に対して課される税金です。しかし、配偶者や子供がいる人、医療にお金がかかる人など、同じ所得を得ている個人でも、その人によってさまざまな事情があります。そこで、その個人的な事情に考慮するために設けられたのが所得控除です。
所得控除には配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除などがありますが、所得控除で基本となるのが「基礎控除」です。基礎控除とは誰もが受けることができる控除で、その金額は38万円です。
扶養家族がいなかったり、保険料の支払いがない場合でも受けることができるので、所得税の計算をする場合に、必ず忘れないようにしなければなりません。
所得税を計算してみよう
では、実際に所得税の計算をしてみましょう。所得税は、所得が高くなればなるほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。所得税の税率は次のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
所得税の金額は以下の計算式で求めます。
例)所得金額435万円、所得控除は基礎控除38万円の場合
課税される所得金額397万円を上の表にあてはめると、「330万円を超え 695万円以下」の欄に当てはまるため、税率は「20%」控除額は「427,500円」です。所得税の金額は次のとおりです。
課税される所得金額397万円×税率20%-控除額427,500円=366,500円
基礎控除が改正される 平成30年税制改正とは
2020年から基礎控除の金額が改正される
所得税は、その時の経済状態や世情などを反映させるため、毎年のようにいろいろな改正が行われています。
その中で、平成30年度の税制改正は、今までにない所得税の根本に切り込んで改正しようという意図が見えるものでした。その背景に働き方改革があります。
日本では、政府の政策や国民の価値観の変化などから、昔に比べていろいろな働き方をする人が増えてきました。現状の税法でその変化にきちんと対応できていないところもあるため、大幅な改正が行われています。
その改正の1つが基礎控除の金額の改正です。現在の基礎控除額は誰でも一律で38万円です。今回の改正では、基礎控除の金額を一律10万円上げるとともに、高所得者には所得金額に応じて少しずつ基礎控除額を減額していくというものです。改正後の基礎控除の金額は次の表のとおりです。
個人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 |
2,450 万円超 2,500 万円以下 | 16万円 |
2,500 万円超 | 0円 |
基礎控除の金額は、2020年から適用されます。
その他の平成30年税制改正とは
平成30年度の税制改正では、基礎控除以外にも大きな改正があります。ここではその他の税制改正について見ていきましょう。
①給与所得控除額の見直し
個人は収入によって所得金額(もうけ)の計算方法が異なります。上述したとおり、事業所得の場合は、総収入金額から必要経費を差し引いて求めます。会社員などの給与所得の場合、必要経費に該当するのが給与所得控除です。
会社員は原則、経費計上が認められていないため、1年間の給料の金額に応じて、一定の給与所得控除を差し引く制度になっています。
平成30年度の税制改正では、この給与所得控除の金額を一律10万円下げることになりました。また、給与所得控除には上限があり、一定の給料収入以上の場合は上限額のみ控除されますが、その上限額と上限が適用される一定の給料収入額がともに引き下げられました。
つまり上述した基礎控除額を一律10万円引き上げ、給与所得控除額を一律10万円引き下げることで、税収面での調整を測りつつ、会社員以外の働き方を応援する制度となっています。
②公的年金等控除額の見直し
一定の年齢になると受け取れる公的年金。実は公的年金にも税金がかかります。
公的年金についても、給与所得控除のように公的年金収入額に応じて、一定の公的年金控除額を差し引く制度になっています。
平成30年度の税制改正では、この公的年金控除の金額を一律10万円下げることになりました。また、公的年金等の収入金額が 1,000 万円を超える場合の控除額について、上限を設けることになりました。
つまり、上述した基礎控除額を一律10万円引き上げ、公的年金控除額を一律10万円引き下げることで、税収面での調整を測りつつ、高齢者が働きやすい環境づくりを応援する制度となっています。
給与所得控除額や公的年金等控除額の見直しも、2020年から適用されます。
まとめ
基礎控除は、所得税を計算するうえでとても重要な事項の1つです。所得税の金額を正しく計算できるだけでなく、個人の働き方にも影響を与える可能性がでてきます。確定申告時に基礎控除を忘れないように注意するとともに、今後の改正などの動きにも注意しましょう。
参照サイト
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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