今話題の『103万の壁』が廃止されたらどうなる?メリット・デメリットを解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

「103万円の壁」は、多くの家庭で収入調整の基準として機能してきた制度です。しかし、この制度が廃止された場合、家計や労働環境にどのような影響が生じるのでしょう。本記事では、「103万円の壁」の仕組みとその背景をおさらいしつつ、廃止がもたらすメリット・デメリット、そして廃止後の家計管理のポイントを具体的に解説します。

103万の壁とは?制度の基本をおさらい

「103万円の壁」とは、給与収入が年103万円を超えると所得税が課されるラインを指します。アルバイトやパートで得た収入が103万円を超えた場合に、所得税が発生し始める基準となるため、多くの人にとって収入調整の目安となっています。

103万円という金額は、所得税の控除制度によって決まっており、給与所得者に適用されている控除は以下の通りです。

・基礎控除:48万円
・給与所得控除:55万円

2つの控除額を合計すると103万円になり、この範囲内であれば課税対象の所得が「ゼロ」となるため、所得税がかかりません。ただし、103万円を超えると、超過分に対して所得税が課税される仕組みになっています。

制度が設けられた背景と目的

「103万円の壁」は、1995年に基礎控除と給与所得控除の合計額が103万円へ引き上げられた際に設けられた制度です。専業主婦世帯に配慮し、共働き家庭でも節税の恩恵を享受できる仕組みとして整備されました。当時は、主に専業主婦がパート収入を得るケースを想定し、家庭の手取り収入を増やすことを目的とした設計がなされたのです。

103万円の壁が存在することで、配偶者控除が適用され、夫側の所得税や住民税が軽減される仕組みとなっています。そのため、共働きを始めた際でも世帯全体の税負担を抑えつつ、手取り収入を最大化することが可能になりました。収入を103万円以下に抑えることで社会保険料の負担が発生しない点も、家計を支える上で重要な目安となっています。

しかし、1995年当時、物価や最低賃金の水準は現在と大きく異なります。最低賃金はこの30年間で1.73倍に上昇している一方、控除額の基準は据え置かれたままです。そのため、現行の103万円の壁が現代の経済状況に適応できていないとの指摘があります。例えば、物価や賃金の上昇に合わせて控除額も引き上げられるべきという議論が進んでおり、引き上げ額の目安として「103万円×1.73=178万円」という数値が挙げられています。

2026年1月から年収103万円の壁の引き上げが予定されており、その具体的な額や段階的な導入方法については、2024年12月20日に決定された「2025年度税制改正大綱」では123万円にする方針が明記されました。一方で178万円への一括引き上げの協議は打ち切られたものの段階的な実施が有力視されています。

103万の壁が家計に与えてきた影響

「103万円の壁」は、多くの家庭における収入調整の基準として重要な役割を果たしてきました。年収が103万円を超えると所得税が発生し、扶養控除が適用されなくなるため、専業主婦や学生、パートタイム労働者などが103万円のラインを意識して働き方を調整する傾向があります。

年収が103万円を超えて配偶者控除が適用されなくなると、世帯主の所得税や住民税の負担が増加します。税金の負担が増え家計全体の手取り収入が減少し、節約や支出計画の見直しを迫られるケースが少なくありません。教育費や医療費など、固定的な出費を抱える家庭にとっては、家計管理に直接的な影響を与える要因となっています。

また、103万円の壁は、多くのパートタイム労働者やアルバイト従業員の「働き控え」という現象を引き起こしています。収入が103万円を超えた途端に課税対象となり、社会保険料の支払い義務が発生するため、結果的に手取り収入が減少するケースがあるでしょう。収入が減少する状況を避けるため、働く時間を制限する人が多く、労働市場全体にも影響を与えています。

103万の壁が廃止された場合のメリット

「103万円の壁」が廃止されると、働く側・雇用する側の双方に多くのメリットが生まれると期待されています。この壁によって収入や働き方に制約を受けていた人々が、自由に労働時間や収入を選べるようになるためです。また、家庭の収入が増え、経済全体に良い影響を与える可能性もあります。ここでは、103万の壁が廃止された場合のメリットを2つ紹介します。

パート主婦の収入増加の可能性

103万円の壁を意識して働き方を制限していた多くの主婦は、年収が103万円を超えることで発生していた税負担の増加がなくなれば、働く時間や内容を自分の意思で自由に選べるようになります。結果、より多くの主婦が収入を増やし、家計の余裕を確保できるようになると考えられます。

収入の増加は、個々の家庭だけでなく経済全体にも良い影響を及ぼすでしょう。消費活動が活発化し、小売業やサービス業を中心に需要の拡大が期待されます。また、女性がキャリアアップを目指しやすくなることで、社会全体の生産性向上にもつながるでしょう。女性が家庭と仕事を両立させながら、経済的にも自立できる環境が整うと考えられます。

雇用主側の人手不足解消効果

103万円の壁の廃止は、雇用主側にとっても大きなメリットをもたらします。これまでは、労働者が収入制限を理由にシフトを減らしていたため、多くの企業が人手不足に悩まされていました。壁がなくなることで、既存のパートタイム労働者がより長時間働くことが可能になり、人材確保の課題が緩和される見通しです。

特に、小売業やサービス業などでは、103万円の壁撤廃により労働力の柔軟な活用が期待されています。例えば、長期休暇中の学生アルバイトが集中して働ける環境が整い、繁忙期の労働力不足を補えるでしょう。また、基礎控除引き上げによる減税効果が加われば、労働者全体の意欲向上にもつながり、結果的に企業の生産性が向上します。

103万の壁廃止がもたらすデメリット

「103万円の壁」が廃止されれば、働き方の自由度が高まる一方で、労働者や家計に新たな負担をもたらす可能性もあります。これまで税金や社会保険料の負担を回避するために収入を調整していた人々が、壁の廃止によって新たな費用を負担しなければならない状況に直面するかもしれません。ここでは、103万の壁廃止がもたらす2つのデメリットを紹介します。

税負担が増える可能性

103万円の壁が廃止されれば、多くの人が働きやすくなる反面、所得税や住民税の支払いが増加する可能性があります。103万円以下に収入を抑えることで非課税の恩恵を受けていた人々は、壁の廃止により課税対象となり、手取りが減少するおそれがあります。また、扶養控除を受けていた世帯では、配偶者の収入が増えることで控除が適用されなくなり、その結果、世帯全体の税負担が増加する可能性があるでしょう。控除の適用がなくなることが、パートやアルバイトで働く主婦や学生にとって新たな経済的負担となる可能性があります。

社会保険料の負担増による影響

収入の増加に伴い、社会保険料の負担が生じる点も無視できません。壁の範囲内で働くことで社会保険料の支払いを避けていた労働者が、壁の廃止により強制的に加入しなければならなくなる可能性があります。収入が増えると、年金や健康保険などの社会保険料の負担も増えるため、実際の手取り額が期待したほど増えない場合があります。

所得税や住民税に加えて、健康保険や年金保険料の負担が発生し、結果的に手取り収入が大幅に減少する可能性があるでしょう。特にパートタイムで働く人々にとっては、社会保険料の負担が重くのしかかることが懸念されます。この負担増は、働き方の自由が広がる一方で、「どれだけ働いても収入が増えない」という感覚を与えることになり、労働意欲を削ぐ可能性もあります。

廃止後の家計管理のポイント

「103万円の壁」の廃止は、収入増加や働き方の自由度向上などのメリットをもたらしますが、税金や社会保険料の負担増という現実も伴います。そのため、廃止後は新しい収入状況や負担額に応じた家計管理が重要になるでしょう。ここでは、収入増加を見据えた家計管理の見直しや税負担への対応方法について解説します。

収入増加を見据えた家計簿の見直し

壁が廃止されると、これまで以上に働ける環境が整うため、収入が増える可能性があります。しかし、収入増加に伴い、所得税や社会保険料の負担が増えることも考慮する必要があります。そのため、増えた収入をどのように管理し、家計に活かすかがポイントです。

まず、家計簿を活用して、収入と支出のバランスを把握しましょう。収入が増えたからといって、支出も比例して増やしてしまうと貯蓄が追いつかなくなる可能性があります。増えた収入分は、教育費や老後資金などの将来的な支出に備えるための貯蓄や投資に回すのがおすすめです。また、家計簿の見直しを通じて、無駄な支出や固定費を削減することも収入増加の効果を最大化する一助となるでしょう。

税負担増に対応するための備え

収入が増えると、所得税や住民税が課されるだけでなく、社会保険料の支払いが発生する場合もあります。新たな負担に備えるためには、収入の使い方を慎重に計画することが大切です。例えば、収入の一定割合をあらかじめ「税金や保険料の支払い用」として確保することで、予期せぬ出費による家計の混乱を防げます。また、税負担を軽減するために、医療費控除やふるさと納税などの節税対策を積極的に活用することも効果的です。

さらに、社会保険料負担が増える場合には、家計の中での「保険」の役割を見直すタイミングにもなります。公的保険の保障が充実することで、民間保険の内容を見直し、無駄を削減できる可能性もあるため、一度家計全体を再評価してみましょう。

まとめ

「103万円の壁」の廃止は、働き方の自由度や収入の増加といった大きなメリットをもたらす一方で、税金や社会保険料の負担増加といったデメリットも伴います。そのため、廃止後は新しい収入状況を踏まえた家計管理が欠かせません。適切な家計簿の活用や節税対策を通じて、増えた収入を効果的に活かすことで、家計を安定させるとともに、豊かな生活を実現する第一歩を踏み出しましょう。

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