会社の資産と社長個人の資産が“ごっちゃ”になっていませんか? そのリスクと対処法を解説
主な株主が経営者(オーナー経営者)の中小企業では、会社と経営者個人の資産の線引きが曖昧になることが、ままあります。しかし、いうまでもなく両者は「別物」で、“ごっちゃ”になっていると、法に触れるばかりでなく、税務面をはじめさまざまな問題の起こる可能性があるのです。会社と個人の資産についてのチェックポイント、健全な運営のための対処法を解説します。
法人と個人事業の違い
個人事業主は、事業のための借入金や仕入先に対する買掛金などの負債があれば、その個人が責任(返済義務)を負います。これに対して、会社(株式会社、合同会社)の場合は、その負債に関して社長個人が責任を負うことはなく、たとえ倒産したとしても、個人に返済義務はありません。
正確には、社長に課せられるのは、出資の範囲で責任を負う有限責任です。債務者から見ると、債権を持つ会社が倒産した場合に返済を求める権利を行使できるのは、その出資金も含めた会社の資産に対してのみ、ということになります。
ただし、この原則は会社の資産と経営者個人の資産が明確に分離されていることが前提です。個人事業主は、基本的に儲けたお金をどのように使うのも自由ですが、会社の社長に同じ発想で経営することが許されないのは、こうしたことからも明らかでしょう。
法人の資産と個人の資産が分離されないと起こる問題
法人と社長個人の資産の区分が曖昧になっていると、次のような問題が発生する可能性があります。
法的な罪になる
説明したように、会社のお金は社長個人のものではなく、会社という「他人」のものなので、たとえ少額であっても私的な目的で使用したりした場合には、業務上横領罪や特別背任罪などの刑法責任に問われる可能性があります。ちなみに、業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」となっており、通常の横領罪よりも厳しい罰則が設けられています。
会社の資金の私的流用が罪になるのは、たとえ「1人社長」であっても同様です(法人と個人は別人格とみなされるため)。
税務調査で指摘を受ける
会社と社長個人の間で資金のやり取りがあった場合には、法人税、個人の所得税の申告で問題の生じることがあります。税務調査で申告漏れが指摘されれば、修正申告と同時に過少申告加算税などのペナルティの対象になる可能性が出てきます。
金融機関の評価が下がる
会社の資産に関する規律の乱れは、金融機関の評価にも影響を与えかねません。例えば、会社が社長に資金を貸し付ける場合には、きちんと契約書を残すなどの注意点を踏まえる必要がありますが、決算書に短期、長期の「貸付金」があるだけで、金融機関の心証はマイナスに働くでしょう。融資しても経営者に私的に使われてしまうのではないか、という疑念が生まれるからです。
会社の資金が食われていく
「会社の資産」に対する認識が希薄な場合、えてして私的な流用が常態化、長期化しがちです。そうなると、会社が利益を上げても現金・預金が蓄積できず、なにかのきっかけで資金繰りに窮するようなことになるかもしれません。
従業員のモラル、モチベーションが下がる
社長の公私混同は、多くの場合、従業員には“丸見え”です。「自分の会社の金だ」という発想で経費の私的流用などを繰り返すことは、そのモラル、モチベーションを低下させ、社内の不正や離職の原因になることも考えられます。
資産が「一体化」されやすいパターンと対処法
では、実際に会社と社長の資金の区分が曖昧になりやすいケースには、どのようなものがあるのでしょうか。それぞれの対処法と併せてみていきましょう。
会社から社長への貸し付けが行われている
会社の資金を私的に使い、すぐには返済不能の場合などには、会計上は「会社から社長への貸し付け」(貸付金)として処理することになります。また、事業用途で使ったものの、領収書などを紛失した場合にも、扱いは同じです。
さきほど述べたように、社長個人への貸し付けは、会社の事業資金の「食い潰し」を意味します。社長自身も、自分の会社からの借金とはいえ、適正な利息の支払いが求められることになります。
税務調査になった場合には、利息は適正か、契約書はあるかなどの点がチェックされます。借入金額、利息、返済条件などの具体的内容を明らかにした「金銭消費貸借契約書」を作成し、利息を決定した際の参考書類なども保存する必要があるでしょう。
仮に税務調査において、何らかの理由で貸付金だと認められなかった場合には、会社の経費には算入できません。一方、そのお金は臨時賞与の扱いとなり、社長個人にも所得税が課せられることになります。
以上のような理由から、会社からの借り入れは極力避けなくてはなりません。借入が生じたときには、報酬を減額するなどして、早期の返済を図るべきでしょう。
社長への「仮払金」が多い
貸付金と同じような性格のものに、会社が一時的にお金を用立てる「仮払金」があります。これも、社長に多額の出費が行われているにもかかわらず、計上されたままになっていると、税務署や金融機関から「私的に使われているのではないか」という疑惑の目を向けられかねません。
いち早く清算して、会社の資産に戻しておくようにしましょう。
現金管理に問題がある
個人的な流用の意図はなくても、会社の現金管理がきちんとできていないために、結果的に会社と個人の境界線が曖昧になっているケースもあります。
金庫(会社)と個人の財布を混同しない、クレジットカードは会社用を用意して、プライベートな出費と分ける、といった工夫も必要になるでしょう。帳簿(現金出納帳)と現金の残高が合致するか、毎日確認することも大事です。
車などの資産を個人で使っている
社長が会社名義の車を使用していることは、珍しくありません。法人名義の自動車については、車両の購入費のほか、自動車重量税などの税金、車検の費用や整備代、ガソリン代、自動車保険料などを経費にすることができます。
ただし、その使用は、あくまでも通勤や取引先への訪問といった会社の事業目的に限られており、社長やその家族の私的な利用は認められません。もし、税務調査で「事業目的ではない」とみなされると、上記の出費は経費とは認められず、過少申告加算税などのペナルティが課せられます。
さらには、これらが社長への役員報酬とされる可能性もあります。そうなると、社長個人の収入が膨らみ、所得税、住民税が増加して、差額分の納付を求められることになるでしょう。
そうした事態を防ぐ対策が、個人的な使用を控えることであるのは、いうまでもありません。また、使用する必要性が生じた際に、使用時間や距離などに応じた合理的な対価を会社に支払い、車の使用料として経費計上することで、税務上のリスクを回避することは可能です。
M&Aでは会社と社長の資産の分離が不可欠
会社と個人の資産が分離されていないと……
身内や従業員に後継者が見当たらない場合の事業承継の手段として、M&Aの活用が増えています。新たな人生や事業のための資金を捻出する目的で、M&Aによる自社の売却を考える社長もいます。
こうしたM&Aの際には、税務などとは違う観点からも、会社と個人の資産の分離が求められます。その点がルーズで、さきほどの貸付金が多いような財務状況だと、契約の可否や売却額に影響するでしょう。
買い手が欲しいのは事業そのもの
M&Aにおいて買い手が欲しいのは、本業の事業そのもので、多くの場合それ以外の事業や、会社に紐づいているような個人資産は「不要」とされます。例えば、会社名義の車は、売り手側で買い取るなどの対処が必要になるかもしれません。
この場合、株式譲渡契約書に買い取りの条件などを明記したうえで契約を交わし、売り手側がそれを実行した(資産を切り離した)後に、売却代金が支払われる、という流れになります。
ただ、資産の買取価格などが交渉のネックになる可能性がゼロとはいえません。将来M&Aによる会社の売却を考える場合には、資産の中身やその分離に、よりいっそう注意を払う必要があるわけです。
まとめ
会社の資産と社長個人の資産をしっかり分けないと、さまざまなリスクに見舞われる可能性があります。不明な点は、税理士などの専門家に相談するのがいいでしょう。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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