老人ホームか自宅か「終活」では、“終の棲家”のことも検討を

[取材/文責]マネーイズム編集部

「シニア」と呼ばれる世代になって、そろそろ「終活」を意識し始めている方もいらっしゃるでしょう。そう聞くと、漠然と身辺整理や相続をイメージするかもしれませんが、では、具体的には何をしたらいいのでしょうか? 「ここは押さえておきたい」というポイントを考えてみます。

「誰のため」「何のため」にやるのか?

「終活」という言葉が広く日本社会に広まったのは、10年ちょっと前のことです(2010年の「新語・流行語大賞」にノミネート)。高齢化が急速に進み、増加したシニア世代が「残された半生をいかに豊かに生きるのか」という意識を高めた時代でした。

 

とはいえ、終活のモチベーションを高め、成功させるためには、まずその目的をはっきりさせる必要があるでしょう。「誰のために、なぜするのか?」ということです。整理すれば、答えは次のようになると思います。

 

  • 自分のため→充実した老後の生活を送る
  • 残される家族のため→円満な相続を行う

 

これは、例えば「老後に向けて自分の持つ財産を明確にしておくことは、相続対策にもなる」というように、表裏一体のものでもあるのです。

やり方は人それぞれだけれど

ただ、「充実した老後」といっても、資産状況や住環境、家族関係や望む生活スタイルなどによって、その中身はみな違います。だからといって、手探りで行動しても、効率的とは言えないでしょう。以下に挙げるような「必ずやるべきこと」をスタンダードに、自分なりにカスタマイズした終活を目指してはいかがでしょうか。

【ポイント1】エンディングノートに書いてみる

「終活といえば、エンディングノートを書くこと」と認識されるくらい、切っても切れない関係にあります。実際、項目に従って書き進めることで、自分の終活に必要なことも具体化されてくるはず。まずは、ここから始めるのもいいでしょう。

 

家族に伝えるべきこととして、書いておくべき事項には、次のようなものがあります。

 

  • 将来認知能力が衰えた場合の介護について どのような介護を望むのか
  • 終末期医療について 延命治療を望むか否かを明確に書く。本人の意思が不明瞭になった場合は、家族がその可否を判断することになるため、特に重要
  • 葬儀のやり方、お墓について 葬儀に呼んで欲しい人の連絡先や、宗派、菩提寺など
  • 自分の財産 預貯金、現金、不動産、有価証券、保険、貴金属、価値あるコレクションなどをすべて書いておく
  • 相続についての考え方 死後、誰にどれだけの財産を渡したいのか、なぜそうしたいのかの考え方
  • 家族などへのメッセージ 感謝の気持ち、「これからも仲良く」といったメッセージなど

 

ただし、エンディングノートには、例えば財産分与について自分の意思を示すことはできますが、それに法的な拘束力はありませんから、注意してください。拘束力を持たせるためには、後述する遺言書にする必要があります。

【ポイント2】身辺にあるモノを整理する

モノを買う(増やす)から、不要なモノは整理する、に生活をシフトチェンジしましょう。計画的に進めていけば、一度に捨てるのではなく、売ったり、他人に譲ったりというふうに、選択の幅も広がるでしょう。

【ポイント3】全財産を「棚卸」してみる

あなたは、自分にどれだけの財産があるのか、しっかり把握しているでしょうか? 自分の生活資金や相続のことを考えて、預貯金だけでなく、以下のようなものについて、「いくら」になるのか、きちんと調べておく必要があります。

 

  • 自宅や所有する不動産
  • 株式などの有価証券
  • 骨とう品や貴金属など
  • 生命保険
  • 借入金やローン
  • 保証債務

【ポイント4】老後の生活資金をシミュレーション

2019年に、「高齢者で無職の夫婦には、老後資金が2000万円の蓄えが必要」という金融庁の報告書が発表になり、波紋を呼びました。実際には、生活スタイルなどによって必要額は大きく変動するのですが、現在の財政、社会情勢からみて、「老後を公的年金だけには頼れない」のは確かです。

 

「先立つもの」がなければ、どんなプランも絵に描いた餅になってしまいます。まずは、収入が年金しかなくなったら、毎月の生活費がどれくらい不足するのかを計算し、そこから自分にとって必要な貯蓄額などを割り出す必要があるでしょう。

【ポイント5】葬儀や墓をどうするか

これも、終活にとって外せないポイントです。昔と違って、そのスタイルも多様になっていますから、自分が亡くなった後どのようにしてもらいたいのかは、しっかり考えて家族に伝えておくべきです。

 

ちなみに、葬儀には、一般葬のほか家族葬、直葬(火葬のみ)、自然葬(遺灰を海や山にまく)、自由葬(しきたりにとらわれない葬儀)などがあります。また、お墓についても、先祖代々の場所に建てることもあれば、そもそも自分の墓を持たず永代供養墓、納骨堂などを利用するケースも増えています。

【ポイント6】遺言書を残す

相続で争いが起こる大きな原因が、「遺産の分け方について、被相続人(亡くなった人)の意思が明確ではないこと」なのです。「棚卸」した財産をどのように譲るのか、遺言書に残しておけば、安心できるでしょう。

 

遺言書には、公証役場で公証人に作成、保管を頼める「公正証書遺言書」、「自筆証書遺言書」などがあります。自筆の遺言書を法務局で保管してもらえる制度が、2020年7月から始まりましたからっており、それを使えば手軽に、紛失や偽造のリスクがない安全な遺言書を残すことができます。

老後をどこで過ごすのか

今は健康でも、長生きすれば介護が必要になるかもしれません。そうしたことも念頭に起き置きつつ、自宅に住み続けるのか、それとも最後は介護施設などに入所する必要があるのかも、早いうちから検討を始めれば、それだけ選択肢は多くなります。

 

老人ホームも多様化し、次のような施設があります。

 

〈民間施設〉

  • 介護付き有料老人ホーム:施設内に介護スタッフが常駐し、サービスを受けられる
  • 住宅型有料老人ホーム:介護サービスは、別途契約して利用する。自由度は高い
  • サービス付き高齢者向け住宅:高齢者向けのバリアフリー賃貸住宅。安否確認などのサービスが受けられる
  • グループホーム:認知症の人向けの専門施設。

〈公的施設〉

  • ケアハウス:家族からのサポートが困難な高齢者向け施設家族との同居が困難な高齢者向け施設。「一般型」と「介護型」がある
  • 特別養護老人ホーム:要介護3以上の高齢者が対象の施設
  • 介護老人保健施設:在宅復帰を目指してリハビリを行う施設

 

当然のことながら、設備やサービスが整い、居室の広い施設は入居費なども高額になります。予算が足りない場合には、自宅があればリバースモーゲージ(※)を活用して、資金をつくることも可能で、近年利用が増えています。

※リバースモーゲージ
自宅を担保に資金を借入れできる金融商品。死亡したときに担保となっていた不動産を処分して借入金を返済する仕組みなので、自らの持ち家に継続して住み続けることもできる。

 

まとめ

自分のため、残される家族のために、思い立ったら終活を始めましょう。今は、元気なうちから高齢者施設に入居して、必要に応じて介護サービスを受ける人が珍しくありません。「最後はどこに住むのか」も、重要な検討項目になります。

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