「事業用太陽光の買い取り終了」その意味するところ
中小企業の節税策の候補に挙げられるものの1つに、太陽光発電への投資があります。設備投資を経費に計上できるうえ、安定的な売電収入が得られる、というのが売り。ところが、これまで発電した電気を全量・定額で買い取ってくれた「固定価格買い取り制度」の終了に向け、国が検討を開始した、という気になるニュースがありました。なぜ今、見直しを始めるのか、今後どのようなことが考えられるのか、まとめてみました。
太陽光発電の節税メリット
太陽光発電を活用した節税対策として検討されるのが、「土地付き太陽光」への投資です(※1)。
メリットとしては、
- ①設備の取得にかかった費用やメンテナンス費用などが、経費計上できる。
- ②中小企業の場合は、固定資産税も経費計上できる。
ことに加えて、
- ③固定価格買い取り制度により、安定収入が得られる。
- ④産業用太陽光発電の買い取り期間は20年で、長期に渡って収益が確保できる。
- ⑤減価償却を終え、節税効果が小さくなったら、中古物件として売却することもできる。
ことなどが期待できる、とされています。
「高利回りの優良資産」というキャッチフレーズなのですが、それを支えているのが、③と④、要するに、「つくった商品のすべてを、20年間定額で買ってもらえる」という、他の“商売”にはちょっとない仕組みなのです。ところが、どうやらその仕組みが見直される可能性が高まりました。それを報じた記事を引用します。
「経済産業省は、太陽光や風力など再生可能エネルギーでつくった電力を、2012年以降、大手電力会社が定額で全量買い取ってきた『固定買い取り制度』(FIT)を事実上、終了する検討に入った。09年に先行した家庭用太陽光の電力買い取りは存続させる一方、売電量の大きい事業用は価格競争を促す新たな仕組みを導入(する)」(2019年6月13日付、時事ドットコム)
「固定買い取り制度」とはどういうものか?
そもそも、FITとは、どういうものなのでしょう? 太陽光発電の構造的な課題を理解するために、詳しくみていくことにします。
地球温暖化対策の目玉として、太陽光、風力といった再生可能エネルギーの普及、拡大が叫ばれるようになりました。FITは、それを促進するために2012年7月にスタートした制度で、平たく言えば「太陽光などで発電した電気については、一定価格で買い取ることを保証しますから、みなさんどんどん設備を造って発電してください」という仕組みなのです。
それでは、なぜ今になって一部廃止も含めた見直しが議論されるようになったのか? 問題は、「買い取る側の事情」です。さきほどの記事に、「再生可能エネルギーは、大手電力会社が買い取ってきた」とあります。太陽光などで発電した電気は、大手電力会社の送電網に送られますから、いったんその電力会社が買い取ります。でも、買い取りコストを彼らが負担するわけではありません。太陽光の事業者は、大手電力会社にとっては、いわばライバルです。シェアを奪われたうえに、その発電の対価を支払うというのは、経済的な整合性を欠きます。
では、負担しているのは誰なのかといえば、実は記事をお読みになっているみなさんにほかなりません。例えば、太陽光発電パネルを屋根に取り付けて売電している家も、そうでない家庭も、アパート住まいでも、電気の使用量に応じて、みんなが太陽光による発電分を「買い取って」いるのです。FITは、「地球温暖化を防ぐ再生可能エネルギーの拡大に、国民全員で協力しましょう」という仕組みでもあるわけです。
ところが、政府の想定以上に太陽光発電などの普及が進んだこともあって、その直接的な国民負担が、無視できないレベルに増加しました。各家庭の支払いは、毎月の電気料金に上乗せされる形で行われます。電気の検針票(「電気ご使用量のお知らせ」)に、「再エネ発電賦課金」(東京電力の場合)という欄があるのを、ご存知でしょうか? ここに具体的な負担額が明記されているのですが、確認すれば、すでに電気料金全体の1割程度になっていることがわかると思います。
19年度の「賦課金」の総額は2兆4000億円(※2)で、標準的な家庭で年に9200円程度になるそう。このまま負担増が続けば、再生可能エネルギーの拡大そのものへの批判が強まって、安定的な普及に支障をきたすことも考えられます。そうした現状を踏まえて、国民負担の軽減に向けた制度の見直し、具体的にはFITの終了も視野に入れた検討に入る、ということのようです。
太陽光投資の今後は?
では、今後はどうなるのか?
さきほどの記事によれば、
- 経産省は、有識者会議に大枠を示し、20年度の関連法改正を目指す。
- 再生可能エネルギーを固定価格で買い取るのではなく、卸電力市場で直接取引する競争入札制度への移行を検討する。
- 新制度移行に当たっては、卸市場で売電価格が急落し、基準となる価格を下回った場合は、国が事業者に穴埋めしているドイツの仕組みを参考に議論を進める。
という方向性が固まっている模様です。
水力を除く再生可能エネルギーの発電比率が10%に満たないという日本の現状を考えるならば、太陽光発電を普及させようというトレンド自体に変化はないでしょう。ただ、投資先としての優位性を支えていたFITが抜本的に見直されることの意味は、非常に大きなものがあると思われます。
まとめ
投資を勧めるあるサイトは、「国が20年保証してくれる、安心の投資先」とうたっています。しかし、太陽光発電投資の「高利回り」を支えていた「固定価格買い取り制度」は、大幅な見直しが確実で、少なくともその「保証」は、遠からずなくなります。太陽光春への投資は、そうした大局を踏まえて、より慎重に検討すべき時代に入ったと言えるでしょう。
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