【生命保険の活用法】解約返戻金の税金と事業経営に生かす方法を解説
「生命保険の解約返戻金」は受取額が多額になる傾向にあるため、融資に代わる資金調達法になり得ます。しかし、解約返戻金には多くの場合、税金も課税されるため、保険金の受取額から税金を差し引いた残額しか手元にお金が残りません。これらを踏まえた上で、解約返戻金の税金と事業経営に生かす方法について詳しく解説します。
解約返戻金にかかる税金とは
生命保険の解約返戻金の受取額に対して課税される税金について説明します。
解約返戻金とは
「解約返戻金」とは、生命保険の解約に伴う受取額のことを指します。一般的に終身保険、養老保険、学資保険など保険期間が長い保険や貯蓄性のある保険に解約返戻金があります。基本的には保険料のうちの貯蓄部分が受取額を算定するベースになります。入院費用など備える保障部分に対する解約返戻金は「0円」または「少額」です。
解約返戻金に課税される税金
解約返戻金の受取額に課税される税金は個人契約または法人契約によって次の通りになります。
(1)個人契約
保険料の負担者と受取人の属性によって課税される税目が決まってきます。
- ①負担者と受取人が同一人物
たとえば、ある個人事業主が生命保険料を負担し、解約返戻金を自分で受け取った場合、本人の一時所得として、所得税と住民税が課税されます。- 一時所得=解約返戻金-掛金総額
なお、課税対象は「(一時所得-特別控除50万円)×2分の1」になります。
- ②負担者と受取人が異なる(別人物)場合
保険料の負担者から受取人に対する贈与として、贈与税の対象になります。- 暦年課税:(解約返戻金-非課税枠110万円)×税率
- 相続時精算課税:解約返戻金-特別控除枠2,500万円
(2)法人契約
法人が保険料を負担し、解約返戻金を受け取った場合、法人所得として法人税、地方法人税、住民税、事業税が課税されます。
- 法人所得=解約返戻金-保険積立金として資産計上した保険料
解約返戻金の税金の具体例
解約返戻金の税金の具体例について税目別にみていきましょう。
例) かつての節税商品である長期平準定期保険、保険期間満了時における被保険者の年齢が70歳、解約返戻金(一時金)900万円、掛金総額1,000万円、95歳満期
(1)個人
①負担者と受取人が同一人物の場合:所得税と住民税
- 一時所得:解約返戻金900万円-掛金総額1,000万円<0円→非課税
②負担者と受取人が異なる場合:贈与税
- 暦年課税:(解約返戻金900万円-非課税枠110万円)×40%-125万円=191万円
- 相続時精算課税:解約返戻金900万円-特別控除枠2,500万円>0円→非課税
(2)法人
掛金は支払時に2分の1を損金計上(残り450万円を保険積立金として資産計上)をしているため、法人税などは次の税額になります。
- 法人所得=(解約返戻金900万円-保険積立金450万円)×約30%(実効税率)=135万円
法人の節税商品の解約返戻金は、個人の所得税よりも税額が多額になる傾向にあるため、生命保険の解約にはタックスプランニングを含めた出口戦略が必須になります。
法人の解約返戻金の手取り金額を増やす方法
解約返戻金の手取り金額とは、受取額から法人税などの税金を差し引いた金額を指し、タックスプランニングによって増やすことができます。
損金をできるだけ計上するのが基本
解約返戻金は法人の益金であり、受取額だけ所得金額が増額します。そのため、生命保険を解約した年度にできるだけ損金を計上し、法人税などの節税をすることで、手取り金額が増加します。たとえば、長期平準定期保険を解約し、解約返戻金を900万円受け取ったとします。解約した年度に広告宣伝費への投資や設備投資にかかる特別償却を利用して経費の前倒し計上などにより、解約返戻金と同額(900万円)を計上すれば、所得金額や法人税などは増額しないで済みます。その結果、「解約返戻金≒手取り金額」になります。
繰越欠損金を活用する
繰越欠損金とは、前年度以前の累積赤字額であり、青色申告の法人の場合、所得金額から控除することができます。そのため、累積赤字額の多い年度に生命保険を解約すれば、前述の損金に計上した場合と同じように「解約返戻金≒手取り金額」になります。
ただ、繰越欠損金として認められるのは9年前(2018年度以降の分は10年前)までの累積赤字額となるため、10年以前 (2018年度以降の分は11年前以前) の分は切り捨てられてしまいます。
役員退職金の財源にも利用できる
社長などが引退するときの役員退職金の財源に利用できるのも生命保険の特徴です。役員退職金も損金に計上できるためです。たとえば、将来の役員退職金の希望額を3,000万円とします。解約返戻金が3,000万円になるタイミングで生命保険を解約すれば、「解約返戻金(益金)3,000万円-役員退職金(損金)3,000万円=所得金額0円」になり、法人税などが課税されずに済みます。しかも、役員退職金は受け取った本人の退職所得であり、非課税枠(退職所得控除)があるので、給与所得など他の所得より多額などの優遇税制の恩恵が受けられます。
解約返戻金を企業防衛に生かす
解約返戻金は緊急資金の調達にも利用でき、企業防衛に生かすことができます。
企業防衛とは
生命保険を活用した企業防衛とは、万が一の備えを意味します。そもそも中小零細企業にとって、会社の信用は代表者の存在によって支えられている傾向にあります。そのため、代表者が長期入院などにより、経営に全く携われなくなれば、金融機関や得意先などからの信用低下を招きかねません。その結果、借入金の一括返済(前出し返済)が求められたり、得意先からの取引停止を申し出られたりするリスクがあり、資金繰りが苦しくなる要因になりかねません。
標準保障額を算定する
標準保障額とは、企業防衛に必要な財源のことを指し、生命保険の加入前に算定するのがポイントになります。具体的には、次の2つが挙げられます。
(1)運転資金の財源
得意先などからの信用不安により売上高が減少しても、販売数量に関係なく家賃や給料などの諸経費(固定費)を支払わなければ事業存続は不可能です。そのため、通常は固定費をベースに、信用回復する準備期間に応じて算定します。たとえば、月額固定費500万円、準備期間が6ヵ月の場合、標準保障額は「固定費500万円×準備期間6ヵ月=3,000万円」になります。
(2)借入金返済の財源
事業存続のためには金融機関と良好な関係の継続が大切であり、借入金返済の財源も企業防衛に必須です。たとえば、一括返済が求められる場合を想定した場合、借入金残高を見積もる必要があります。また、信用回復の準備期間をベースに算定する場合、「月額返済額×準備期間」で計算します。
納税準備資金も考慮する
標準保障額の算定は、税金を差し引いた手取り金額にしなければなりません。そのため、解約返戻金の受取額は「標準保障額+納税準備資金」に設定する必要があります。たとえば、標準保障額を2,000万円と算定したとします。法人税などの実効税率が30%と仮定した場合、解約返戻金の受取額を「標準保証額2,000万円÷(100%-実効税率30%)=2,857万円」にしなければなりません。
役員退職金をシミュレーションする
役員退職金は本人が引退後を受け取る生存退職金だけなく、死亡した場合に備えて残された家族を守るための死亡退職金の財源にもなります。そのため、解約返戻金の受取額を設定する際、役員退職金も考慮することをおすすめします。
税理士を最大限に活用する
中小零細企業の経営者が生命保険を上手に活用するためには、税理士は欠かせない存在でしょう。そこで、税理士の活用法について説明します。
活用ポイント1:タックスプランニングについて相談する
解約返戻金の手取り金額を増やすためのタックスプランニングは税理士の専門分野です。たとえば、役員退職金の損金計上は、後日税務調査で否認されるリスクがあるため、税理士と相談しながら生命保険を解約したほうが無難でしょう。
活用ポイント2:保険会社とタイアップしている税理士に相談する
税理士業界にも企業防衛という考え方が浸透しているため、保険会社とタイアップしている税理士は多く存在します。たとえば、税理士事務所の提携企業に保険会社名が明記されていれば、生命保険の加入に対応している税理士の可能性が高いといえます。
生命保険について「税金のプロである税理士」と「保険のプロである保険会社」の両方に相談できるのがメリットです。特に税理士は中小零細企業の資金繰りに精通しているため、生命保険について、保険商品を売りたい側の保険会社よりも、クライアントの立場からアドバイスすることができます。
まとめ
中小零細企業の経営者が生命保険を活用する第一歩は、解約返戻金などの保険金から税金を差し引いた手取り金額を的確に見積もることでしょう。そのためには、生命保険の解約に伴うタックスプランニングが大切になってきます。そのため、保険会社とタイアップした税理士を最大限に活用しましょう。
▼参考URL
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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