もしも個人事業主が税金を天引きする立場なら?源泉徴収について徹底解説

[取材/文責]阿部正仁

個人事業主は税金を天引きされる立場だけではありません。また、支払対象によっては税金を天引きして支払うこともあり得ます。しかし、一時的に預かった税金を運転資金などに流用して滞納してしまうケースがあります。そこで、事業活動を円滑にするために役立つ源泉徴収について徹底解説します。

源泉徴収制度とは

源泉徴収制度について天引きする個人事業主の視点から説明します。

支払側が源泉所得税を天引き・納付する制度が源泉徴収制度

支払側の立場である個人事業主が相手に対する報酬から所得税を天引きし、原則翌月10日までに納付する制度が源泉徴収制度です。天引きする所得税は、毎年3月15日までに確定申告をする申告所得税と区分するために「源泉所得税」といいます。

源泉徴収の対象となる支払いとは

「給与・賞与など給与所得者(雇用契約を結んでいる人)に対する支払い」および「税理士報酬や執筆業への原稿料など個人に対する特定の所得にかかる支払い」が源泉徴収の対象になります。

源泉徴収をしない・忘れた場合のリスク

支払側が税金を「天引きしない」または「天引きするのを忘れた」場合、源泉所得税に対して延滞税などのペナルティーが課されてしまいます。たとえば、デザイナーへの報酬100万円(税抜)に対して源泉所得税10万円を天引きし忘れた場合、最長で5年間までさかのぼって課税されてしまいます。その場合、本税である「源泉所得税10万円×5年間=50万円」はもちろん、本税50万円に対する追徴課税も負担しなければなりません。

 

また、源泉所得税は源泉徴収の対象となる支払いさえ発生すれば、たとえ赤字でも課税されます。

 

しかも、報酬などの受取側が確定申告をして源泉所得税の清算(支払い)をしても、支払側は源泉徴収義務が解消されません。たとえば、前述のデザイナーへの報酬100万円に対して、10万円の源泉所得税が発生したとします。報酬から10万円を天引きしなくても、受取側の本人が確定申告をすれば、結果的には同額10万円を納付したのと同じです。しかし、税務調査で源泉徴収漏れが指摘されれば、支払側は10万円に対するペナルティーに相当する追徴課税がかかってしまいます。

源泉所得税の滞納額はどのぐらい?

平成29年度の源泉所得税の滞納額は消費税、申告所得税に次いで3番目に多い税目になっています。原因の一つに天引きした源泉所得税を運転資金に流用していることが考えられます。しかし、源泉所得税の新規発生滞納額は減少傾向にあります。支払側が源泉所得税を減らす努力をしているためでしょう。たとえば、平成29年度の新規発生滞納額は平成5年度の約3分の1になっています。

源泉所得税を増やさないポイント

源泉所得税を天引きする金額を増やさないポイントについて説明します。

給与所得にかかる源泉所得税を減らす

天引きする源泉所得税のうち、給与所得にかかる金額が最もウェイトを占めます。平成29年度を例にすると、源泉所得税の課税額18,054,126百万円のうち、給与所得にかかる金額が10,705,441百万円と占める割合が59.2%になります。そのため、給与支給時の源泉徴収税額を減らすことが資金繰り対策につながります。

スタッフを雇用する場合のポイント

スタッフの雇用は給与の発生を意味し、源泉所得税の対象になります。そのため、同額の給与支給なら源泉徴収税額をできるだけ少なくするため、甲欄を適用 した源泉徴収税額を給与天引きすることが基本です。

 

甲欄とは、「給与所得の源泉徴収税額表」から「メインとなる勤務先(本業)からの給与」および「扶養親族等の数」を参照して求める源泉徴収税額で、申告所得税の予測額に近い値になります。

 

一方、乙欄とは、副業でのアルバイトなどメイン以外の給与にかかる源泉徴収税額であり、申告所得税の予測額よりも多めに天引きします。

 

甲欄を適用させるには、入社と同時にスタッフから「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を入手することがポイントになります。

雇用契約から外注化にシフトする

人の採用を雇用契約から外注化にシフトすることで、源泉所得税の天引き額を削減することができます。支払項目が給与所得ではなく、外注(加工)費になり、源泉徴収の対象から外れるためです。

 

たとえば、会計ソフトへの入力業務を雇用契約から出来高制(例 入力伝票枚数×単価7円)にして外注化することで、源泉所得税の削減が可能です。

 

ただ、外注費として経理処理をしても後日、税務調査で「雇用契約=給与所得」と判断され、源泉所得税がさかのぼって課税されるケースがあるため、注意が必要です。不安なら外注化をする前に専門家に相談するのも一つの手です。

源泉徴収税額の「扶養親族等の数」をもれなくカウントする

扶養親族の数が多いほど所得控除額が増えるため、源泉徴収税額は少なくなります。たとえば、月給30万円の場合、「扶養親族等の数0人の独身男性」と「扶養親族等の数4人の既婚者」を比較すると次の通りで、約4.5倍の差が生じます。

  • 独身男性:月額8,420円
  • 既婚者:月額1,890円

扶養親族等の数をもれなくカウントする方法

給与所得にかかる源泉徴収税額を減らすため、扶養親族等の数をカウントする方法について説明します。

扶養親族等の数の対象とは

扶養親族等の数とは、所得控除の対象者の数です。具体的には次の通りです。

  • (1) 配偶者
    配偶者控除と配偶者特別控除の対象者です。そのため、「配偶者の所得金額が123万円以下(パート収入なら188万円以下)」または「本人の所得金額1,000万円以下(給与収入1,220万円以下)」なら扶養親族等の数にカウントされます。
  • (2) 16歳以上の扶養親族
    控除対象扶養親族の対象者です。扶養親族の所得金額が38万円以下(アルバイト収入103万円以下)なら扶養親族等の数にカウントされます。
  • (3) その他
    所得税法には、配偶者控除・配偶者特別控除・(特定)扶養控除以外も上乗せできる所得控除が存在し、扶養親族等の数に「1人」が追加でカウントされます。
    • 給与等の支払を受ける本人の属性: (特別)障害者、(特別の)寡婦、寡夫、勤労学生の場合
    • 扶養親族(年齢16歳未満の人を含む)の属性:(特別)障害者、同居特別障害者

扶養親族等の数のカウント方法の具体例

扶養親族等の数のカウント方法の具体例について説明します。

  • (1) 配偶者の属性
    • ①配偶者控除または配偶者特別控除の対象外
      ・通常:0人
      ・配偶者が障害者の場合:1人
    • ②配偶者控除または配偶者特別控除の対象者
      ・通常:1人
      ・配偶者が障害者の場合:2人
  • (2)その他の扶養親族等の属性
    • ①独身者の属性
      ・通常:0人
      ・寡婦の場合:1人
    • ②所得金額38万以下の扶養親族等の属性
      ・16歳未満の扶養親族:通常は0人、障害者なら1人
      ・16歳以上の扶養親族:通常は1人、勤労学生なら2人

まとめ

個人事業主が源泉所得税を天引きする立場になった場合、源泉徴収の対象者を増やさない、源泉徴収税額を減らすことがポイントになります。また、源泉所得税を天引きする場合、納税準備預金を活用するなど、運転資金と銀行口座を分けることで納税資金を確保することが可能です。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner