今年から、所得税は「年収850万円超のサラリーマン→増税」「フリー→減税」に
昨年は、初めて軽減税率が導入されたこともあって、10月の消費税率の引き上げが話題をさらいました。その陰に隠れてというと変ですが、2020年1月からは、働く人にかかわる所得税の「増減税」が、静かにスタートしています。ざっくり言うと、「収入の多いサラリーマンは増税になり、フリーや自営業者は減税になる」というその中身を、分かりやすく解説します。
サラリーマンの「所得」とは?
今回の所得税の見直しは、2018年度税制改正によるもので、2020年1月1日から実施されています。単なる増税ではなく、「働き方」によっては減税になるというのが、1つのポイントと言えるでしょう。
まず、サラリーマン(給与所得者)について説明したいと思いますが、正確に理解していただくために、その所得税がどのように計算されるのかをみておきましょう。「所得税」という名の通り、これは所得(正確には「給与所得」)にかかる税金なのですが、よく誤解されるのが「年収」と「所得」です。それは、イコールではありません。給与所得は、「年収-給与所得控除」で計算されるのです。
では、この「給与所得控除」とは、何でしょう? あとで説明する個人事業主の場合、所得は、収入から事業のために使った、例えば事務所の家賃や外注のコストといった「必要経費」を差し引いて計算されます。しかし、サラリーマンは、基本的にそのように実費を年収から差し引くことはできません(※)。とはいえ、サラリーマンもスーツやカバン、靴代などをビジネスのために支出することもありますから、その部分に「みなし経費」が認められています。それが、「給与所得者の必要経費」すなわち「給与所得控除」なのです。
所得税は、さきほどの数式で求めた給与所得から、さらに社会保険料控除、扶養控除などの金額を差し引いた「課税所得」に税率を掛けて決まる仕組みです。要するに、「給与所得控除」の金額が大きいほど、「課税所得」は下がる→納税額は少なくてすむことになります。
「年収850万円」がボーダーラインに
それでは、その「みなし経費」は、どのように計算されるのでしょうか? ここからが本題です。「給与所得控除」は、年収に応じて決められるのですが、高収入になると、控除額に上限が設けられています。すなわち、ここから上の年収の人は、どれだけ稼いでも、そこから差し引ける「みなし経費」は同額です――ということ。
その上限は、昨年まで「年収1000万円超・控除額220万円」でした。それが、今回、「年収が850万円を超えると、195万円で控除額は頭打ち」に改められたのです。
■給与所得控除額(2020年1月1日~)
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 | |
---|---|---|
1,800,000円以下 | 収入金額×40%-100,000円 550,000円に満たない場合には、550,000円 |
|
1,800,000円超 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+80,000円 | |
3,600,000円超 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+440,000円 | |
6,600,000円超 8,500,000円以下 | 収入金額×10%+1,100,000円 | |
8,500,000円超※ | 1,950,000円(上限) |
この結果、控除できる金額が最大で25万円減少しました。控除の「頭打ち年収」も引き下げられたため、より多くのサラリーマンが「増税」の影響を受けることになったわけです。
今回の見直しの結論を言うと、年収850万円を超える人にとっては、改正前に比べ増税になりました。負担増は、「年収900万円は年1・5万円程度、1000万円は年4・5万円程度、1500万円で年6・5万円程度」(「読売新聞オンライン」2019年12月29日)になるものとみられています。なお、年収が850万円以下の場合には、基本的に「影響なし」です。
同時に、今回は、新たに「所得金額調整控除」が導入されました。子育て世代や、介護をしている扶養家族がいる世帯の負担軽減を目的としたもので、年収850万円超となる人、要するに所得税増税となる人で、次のいずれかに該当する給与所得者に適用されます。
- 本人が特別障害者
- 年齢23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である生計を一にする配偶者または扶養家族がいる
適用される所得金額調整額は、「(年収-850万円)×10%」。ただし、年収1000万円以上では、一律15万円の上限が設定されています。
フリーや自営業は「減税」になる
一方、フリーランスや自営業の人は、合計所得金額が2400万円を超えなければ、減税になります。すべての納税者に一律に適用される「基礎控除」が、従来の38万円から48万円に、10万円引き上げられるからです。
ちなみに、「すべての納税者」ですから、この減税は、サラリーマンにも適用されます。ただし、これとセットで、さきほど説明した「給与所得控除」も一律10万円引き下げられました。ですから、サラリーマンにとっては、結果的に「プラマイゼロ」ということになりました。
全体として、給与所得者に「厳しい」改正ですが、背景には「税制上、サラリーマンが優遇され過ぎているのではないか」、具体的には「給与所得控除が高すぎる」という議論がありました。
いずれにしても、一定以上の収入のある家庭には、消費税とも相まって、じわじわ効いてきそうな増税です。確定申告を行う自営業者と違い、会社が年末調整してくれるサラリーマンは、自分がいくら税金を支払っているのかにも、無関心になりがち。今年は、これまで以上に、「無駄な出費」に気をつけたほうがいいかもしれません。
まとめ
増税は、消費税だけではありません。2020年1月1日から、年収850万円を超えるサラリーマンの所得税がアップしました。対象となる家庭では、場合によっては数万円の負担増になることを前提に、生活プランを見直してみては。
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