【終活のすすめ】“おひとりさま”の終活「身元保証人」をどうする?

[取材/文責]マネーイズム編集部

配偶者に先立たれ、子どももいない“おひとりさま”が増えています。そういう方が、1人で暮らすのは難しくなりそうだから、と介護施設などへの入居を考えたとき、1つネックになるのは、施設から求められる「身元保証人」です。遠い親戚に頼むのは気がひけるし、そもそも引き受けてくれるかどうかわからない。受けてくれたとしても、予期せぬ迷惑をかけたりしないだろうか? 「失敗事例」を紹介しつつ、解決策を考えてみます。

甥に頼んで、なんとか施設に入居

3年前に夫に先立たれた、当時千葉県在住、86歳のAさんの事例を紹介しましょう。夫との間に子どもはいませんでした。膝の痛みや右手のしびれがひどく、訪問介護サービスを利用していたのですが、いよいよ症状が悪化。先行きの生活に対する不安もあって、老人ホームへの入居を検討することにしました。

 

運よく、住んでいた自宅から近く、友人との行き来も可能な場所に、施設は見つかりました。費用も蓄えと年金でなんとかなる範囲に収まる、と喜んだAさんでしたが、思わぬ壁に直面します。入居の条件として、施設から「身元保証人」をつけるよう求められたのです。

 

こういうときに、真っ先に頼りにできる子どもはいません。親族といえば、京都に住む弟と、すでに他界した妹の長男と長女、すなわち甥と姪だけでした。迷った末に、Aさんは、甥のBさんに「保証人になってほしい」と頼むことにしました。法事で顔を合わせるくらいの仲でしたが、唯一施設に比較的近い関東地方に住んでいることから、白羽の矢を立てることにしたわけです。

 

とはいえ、伯母と親密であるわけでもなく、家庭も仕事もあるBさんは、当然のように難色を示しました。そこを、「すでに葬儀の手配までしているし、金銭的な負担は絶対にかけないから」と話をして、渋々ながら承諾を得たのでした。

しかし、最後は「理不尽な相続」に

最初に問題が起こったのは、それから2年ほど経ってからのことです。ある日、Bさんは、施設から「利用料の引き落としができない」という連絡を受けました。驚いて事情を聞くと、Aさんが認知症を発症していることがわかりました。Bさんのことは認識できるものの、身の回りのことに対する記憶は曖昧。利用料の引き落としを、十分残高があり年金も振り込まれる別の銀行口座に切り替えるつもりが、その通帳がどこにあるのかさえ、わからなくなっているのでした。

 

電話で話していても埒が明かないと悟ったBさんは、Aさんの自宅まで行って通帳を探し出し、引き落とし口座の変更手続きを行いました。その後も、認知症が進むAさんに代わって役所関係の手続きをしたり、生活必需品の買い物を手伝ったり。そのたびに、「すまない、すまない」と言っていたAさんが亡くなったのは、それから3年後でした。

 

ある意味、施設に入れたAさんは幸せでした。その裏で、大変な思いをしたのが、甥のBさんだったのです。亡くなった後の施設の退去手続き、生前に手配していた葬儀屋とのやり取りなども、結局その手に委ねられることになりました。さらに理不尽に思えたのが、相続です。Aさんには、自宅の売却資金の残りなど、3,200万円の遺産がありました。

 

Aさんは、遺言書を残しませんでした。その場合、相続人が法定相続分に従って分けるのが原則。このケースでは、Aさんの弟が1/2の1,600万円、甥のBさんと姪が代襲相続(※1)で、それぞれ1/4の800万円ずつもらう、ということになります。

 

ただ、Aさんの身元保証人になり、それによって苦労もしたBさんは、遺産分割協議(相続人同士の話し合い)で、法定相続分よりも多くの取り分を求めました。他の相続人がOKすればその要求は通ったのですが、伯父が首を縦に振りません。そのため協議は難航しましたが、Aさんの1周忌を前にBさんが折れ、法定相続分での分割で決着となりました。しかし、Bさんには、「高齢、遠方」を理由に何もしなかった伯父と、結果的に大変な思いだけさせられた伯母に対する負の感情だけが、今も残っています。

 

※1代襲相続
被相続人の亡くなる前に相続人(このケースでは、Aさんの妹)が死亡していた場合に、その子や孫が代わって相続人になること。直系卑属(子や孫)と兄弟姉妹に認められる。

揉めやすい「兄弟姉妹への相続」

“おひとりさま”の場合、財産管理や身元保証、それに葬儀、死後事務、相続など、そうでない人にも比して、多くの「考えるべきこと」があります。特に「家族ではない親族」が絡む相続は、トラブルを生みやすくなることを念頭に置くべきでしょう。

 

あらためて説明しておくと、被相続人(亡くなった人)に子どもがなく、親もすでに亡くなっている場合には、相続人は兄弟姉妹になります。さらに、さきほど触れた代襲相続も認められますから、甥や姪もそこに名を連ねる可能性があるわけです。被相続人と顔を合わせたこともないような遠縁同士が集まる分割協議は、お互いが権利を主張し合ってまとまりがつかない、といったことが起こりやすくなります。

 

そんな親戚に遺産は譲りたくない、と思うことも多いはず。その場合は、遺言書が威力を発揮します。特に兄弟姉妹には、配偶者や子どもにはある遺留分(※2)が認められません。ですから、例えば「世話になったCさんに全財産を譲る」という遺言書を作成しておけば、その思いが100%叶うのです。さきほどの事例でも、Aさんが、Bさんを優遇する遺言書を残していたら、「すまない」という気持ちが、形にできたでしょう。

 

※2遺留分
被相続人の遺言書の有無、内容に関わらず、相続人が最低限受け取れる遺産額。法定相続分の1/2。

「身元保証会社」を利用する方法もある ~東京シルバーライフ協会~

このように、大きな不安のつきまとう“おひとりさま”ですが、その老後を家族の代わりにフォローしてくれる「身元保証会社」の存在をご存知でしょうか。これを利用すれば、「遠い親戚」に保証人を頼む必要はなくなります。相続についても的確なアドバイスが受けられ、実際の手続きもフォローしてもらうことができるのです。

 

例えば、司法書士や行政書士、税理士、土地家屋調査士などの国家資格者が在籍するベストファームグループが設立した高齢者支援のための法人「東京シルバーライフ協会」(東京都千代田区)は、介護施設への入居や病院への入院の際に必要条件とされる身元保証人となり、さまざまなサービスを提供しています。

■高橋卓也・東京本店マネージャーに話をうかがいました

当協会は、現在、400名を超えるお客さまの身元保証人となり、お手伝いしています。利用者が亡くなってから、ご親族の方と相続手続きの話をさせていただくことも少なくありません。

 

先日も、兄弟が8人いた方の相続をお手伝いしたのですが、調べてみると、相続人は代襲相続の甥、姪ばかり16人に上りました。今は、コロナ対策で役所も人を減らしていたり、相続人の中に転籍を繰り返している方がいたりで、戸籍収集だけで3ヵ月かかりました。相続人はいとこ同士ですが、お互い会ったこともない人も多い状況で、遺産分割協議もすんなりとはいきませんでした。

 

われわれも「士業」の立場から、遺言書の作成をお勧めしています。同じ甥、姪でも、交流があって気心の知れた間柄ならばいいのですが、そうでない場合には、「揉める可能性があります」と、率直にお話しします。実際に遺言書を作成する場合には、半分ぐらいの方がお住いの公共団体に寄付したい、とおっしゃいます。たまに、お世話になったヘルパーさんや施設に譲りたい、という方もいらっしゃいますね。

 

認知症や急病などのことを考えると、手遅れになってしまうリスクもあるわけで、お元気なうちに、お気持ちが固まったタイミングで作るのがベスト。とりあえずエンディングノートに書いておいて、考えがまとまった時点で、法的拘束力を持つ公正証書(※3)などで作成するのもいいのではないでしょうか。利用者の方には、そんなアドバイスもさせていただきます。

 

※3 正式な遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」、公証役場の公証人に作成、保管してもらう「公正証書遺言」、自分で書いて公証役場に持っていく「秘密証書遺言」がある。

 

まとめ

介護施設などに入居する際には、身元保証人が必要になります。ただし、引き受けた方はそれなりの「大変さ」を覚悟しなくてはなりません。特に“おひとりさま”の場合、相続も含めた親族間のトラブルを回避するためには、身元保証会社を利用するのも、選択肢の1つになると思います。

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