始まった商品やサービスの「総額表示」義務化ところで、対象となる取引とは?罰則は?
スーパーなどに買い物に行って、「物が値上がりした」と感じた人もいるでしょう。2021年4月1日から、消費者向けに商品やサービスの価格を提示する場合には、消費税を含めた「総額表示」にすることが義務づけられました。それまでの「税抜き表示」との価格差が、そのように“錯覚”させたわけですが、この表示方法義務化は、すべての取引に適用されるのでしょうか? 従わないでいると、どうなるの? わかりやすく解説します。
実は「総額表示」が原則だった
衣料品販売のユニクロが、「総額表示」への移行に合わせて商品の本体価格(税抜き価格)を値下げした、というニュースがありました。例えば、従来税抜き1,000円で表示していた商品は、総額表示だと10%の消費税を含めた1,100円にしなくてはなりません。そのことによる客離れを防ぐために、本体価格のほうを引き下げて、表示の1,000円(税込み)をキープした、というわけです。
従来、店舗やネットショップなどの価格表示は、このように消費税抜きのケースがほとんどでした。売る側には、やはり「値上げの印象を避けたい」という心理が働いていたのでしょう。一方、買うほうにとっては、「9800円のジャケットを持ってレジに行ったら、支払いが1万円を超えた」といった「割り切れなさ」があったのは事実です。
こうした齟齬を解消し、「消費者が値札や広告により、商品・サービスの選択・購入をする際、支払金額である『消費税を含む価格』を一目で分かるようにし、価格の比較も容易にできるよう」(財務省)実施されたのが、総額表示です。
この総額表示は、2004年4月に一度義務化されました。しかし、消費税率を5%から8%に引き上げる前の2013年10月に、消費税の円滑な転嫁を図り、また事業者の値札の貼り換えなどの事務負担に配慮する目的で施行された「消費税転嫁対策特別措置法」によって、条件付きで税抜き価格のみの表示も認められたのでした。その法律が今年3月31日に失効することから、再び総額表示が義務づけられることになったのです。
表示の対象、表示方法は?
では、実際にどのように「変わる」のか、みていきましょう。
総額表示の義務づけは、不特定多数の消費者に対して商品やサービスを販売する事業者が行う価格表示を対象とするもので、それがどのような表示媒体によるものであるかを問いません。
例えば、
- 値札、商品陳列棚、店内表示、商品カタログ等への価格表示
- 商品のパッケージなどへ印字、あるいは貼付した価格表示
- 新聞折込広告、ダイレクトメールなどにより配布するチラシ
- 新聞、雑誌、テレビ、インターネットホームページ、電子メール等の媒体を利用した広告
- ポスター
などが該当する、とされています。
また、「価格表示の方法は、商品やサービスによって、あるいは事業者によってさまざまな方法があると考えられますが、例えば、税抜価格9,800円の商品であれば、値札等に消費税(10%)相当額を含めた『10,780円』を表示することがポイントになります。」(同)として、次のような例が示されています。
〇総額表示に該当する
- 10,780円
- 10,780円(税込)
- 10,780円(うち税980円)
- 10,780円(税抜価格9,800円)
- 9,800円(税込10,780円)
×総額表示に該当しない
- 9,800円(税抜)
- 9,800円(本体価格)
- 9,800円+税
「税込価格が明瞭に表示されていれば、消費税額や税抜価格を併せて表示することも可能」(同)とされていますが、裏を返せば、「税込価格が不明瞭」な場合、例えばその文字が税抜価格に比べて極めて小さかったりすれば、「総額表示に当たらない」とみなされることになります。
「見積書」「請求書」も総額表示が必要?
以上が総額表示義務化の概要ですが、実務面では「こういう場合はどうなるの?」という問題が少なくありません。
例えば、
- 見積書や請求書などの価格も総額表示にする必要があるのか?
- 商品本体のパッケージに付いている税抜き価格は、全部貼り換え?
といった疑問です。
財務省ホームページにある「主な質問」から抜粋してみましょう。
Q)見積書や請求書などは、総額表示義務の対象か?
総額表示の義務づけは、不特定かつ多数の者に対し、あらかじめ価格を表示する場合を対象としており、見積書、契約書、請求書等は総額表示義務の対象にはならない。ただし、広告やホームページなどにおいて、あらかじめ“見積り例”などを示している場合は、これに該当する。
Q)「100円ショップ」などの看板は総額表示の対象になるか?
「100円ショップ」などの看板は、店の名称(屋号)と考えられるため、総額表示義務の対象には当たらない(「110円ショップ」に改める必要はない)。ただし、店内における価格表示は、消費税額を含んだ支払総額にする必要がある。
なお、「1万円均一セール」といった販売促進イベントなどの名称についても、考え方は同様。具体的な対応方法については、単に「総額表示義務違反となるか、ならないか」という視点だけではなく、“消費者からどのように受けとめられるか”、“消費者に誤認を与えてトラブルの原因とならないか”という点を十分に踏まえていただきたい。
Q)事業者向けの事務用機器を販売しているが、このような場合にも、店頭や広告などにおける価格表示を税込価格にする必要があるのか?
総額表示の義務づけは、不特定かつ多数の者に対する価格表示を対象としており、「事業者間取引」は、その対象にはならない。
Q)商品1つ1つに税込価格を表示しなければならないのか?
総額表示の義務づけは、消費者が商品やサービスを購入する際に、「消費税相当額を含む支払総額」を一目で分かるようにするためのものである。したがって、個々の商品に税込価格が表示されていなくても、棚札やPOPなどによって、その商品の「税込価格」が一目でわかるようになっていれば問題ない。
なお、この総額表示に関しては、法律は罰則を定めていません。ただし、政府は、違反が見つかった場合には、税務当局などが改善を求めて指導を行うこともあり得る、としています。
まとめ
4月から、消費者がモノやサービスを購入する際に表示される価格を、消費税込みの総額表示にすることが義務づけられました。消費者の負担は、基本的に以前と変わりありません。関連する事業者は、その対象などを正しく理解し(例えば、事業者間の取引は対象外)、適切な対応を図りましょう。
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