中国恒大の問題で株価が全面安に!そもそもの社債の仕訳や会計処理も解説
株価はさまざまな要因でその値が動きますが、2021年9月末、世界中で株価が全面安になることがありました。その原因のひとつと言われているのが、中国の恒大問題です。中国にある恒大グループの社債問題により、株価が全面安になりました。
この記事では、中国の恒大問題の内容や、そもそもの社債の仕訳や会計処理も解説します。
世界の株価を下落させた中国恒大の問題とは
はじめに、世界の株価を下落させた中国恒大の問題とは、どのようなものなのかを見ていきましょう。
恒大グループは、中国にある大手の不動産開発会社です。この会社は急激に事業を拡大してきましたが、その手法は借入金によるものです。借入金をてこに事業を行い、企業を発展させてきたのです。
中国はご存じの通り、政府の政策が事業に大きな影響を与えることがあります。今回の中国恒大の問題も、中国政府の政策が発端となっています。中国では、日本のバブル期のように、住宅価格が高騰を続けていました。そこで、中国政府が住宅価格高騰を抑制しようと不動産会社への規制を強化しました。
「規制」は、負債に対するものです。企業の負債について一定の基準(負債比率や純負債資本倍率、短期負債倍率)を設け、その基準をクリアしない場合は、企業の翌年の借り入れを制限するものです。恒大グループは、その基準をひとつも満たしていなかったため、翌年の借り入れができなくなる可能性が高くなりました。
また、恒大グループの資金調達の方法は、金融機関からの融資などの借入金だけではありません。社債を発行し、投資家からも資金調達をしています。このことが、世界で株価を下落させる原因に繋がります。
恒大グループが発行している社債は、主に国内向けの人民元建ての社債と海外投資家向けの米ドル建ての社債の2つがあります。米ドル建ての社債は海外の投資家が多く保有していますが、海外の投資家からしてみると、翌年の借り入れができなくなると、資金不足のため、社債利息の未払いや社債の償還ができないのではないかという懸念にかられます。
そのため、恒大グループの株を売却したり、株の売却による損失を補填したりするために、保有している他の株式といった資産の売却を行う投資家が増え、結果として、多くの国で株価市場が下落することになりました。
その後、社債利息の払いは行うとの発表があり、株価は落ち着きましたが、他社による恒大グループの買収が取りざたされるなど、今後の恒大グループをめぐる展開に注目が集まっています。
社債の内容と発行パターン
世界の株価を下落させた中国恒大の問題は、社債利息の未払いや社債の償還ができないのではないかという投資家の懸念から起こったものでした。
そこで、ここからは社債とはどのようなものかについて見ていきましょう。
そもそも社債とはどんなもの?
社債とは、企業が資金調達を行う目的で発行する有価証券のことです。発行の会計処理については後で詳しく述べますが、社債は企業が資金を得るための有効な手段であるため、発行している企業は多くあります。
会社が資金調達する方法として、社債に近いものに、新株の発行があります。新株の発行では、会社に出資をしてもらった投資家に株式を発行して渡します。社債も会社の社債券を発行し、投資家から資金を集めます。
それでは、社債と株にはどのような違いがあるのでしょうか。大きな違いは、返済(償還)があるかどうかです。社債には返済(償還)がありますが、株には返済はありません。会社が社債を発行する場合には償還日を決め、その期日になったら、額面金額を返済する必要が出てきます。
一方、投資家からみると、発行した企業が倒産しない限りは、額面金額の返済が受けられることや、一定期間ごとに利息を受け取れること、条件によっては額面以下の金額で社債券を受け取れることなどがら、ローリスク・ローリターンの投資商品となります。
社債発行のパターンとは?
実は、社債の額面金額と実際の発行価額は、必ずしも一致しません。社債発行には、次の3つのパターンがあります。
・平価発行
平価発行とは、社債の額面金額と発行価額が同じ金額の発行方法です。個人向けの社債の場合は、わかりやすさを優先するため、平価発行が多いです。
・割引発行
割引発行とは、社債の額面金額よりも、発行価額のほうが低い社債の発行方法です。額面金額よりも低い価額で社債を手に入れることができるため、投資家にとって有利な社債の発行方法になります。
・打歩(うちぶ)発行
打歩発行とは、社債の額面金額よりも、発行価額のほうが高い社債の発行方法です。
一般的に発行されている社債は、平価発行もしくは割引発行が多いです。
次に、社債の発行から償還までの一般的な流れを見ていきましょう。社債の発行から償還までの一般的な流れは、基本的に、社債を発行し、償還までの期間で定期的に利息が支払われ、償還期日がくれば、額面金額のお金で償還するという流れになります。
社債の発行では、一般的に、取締役会で金額や期限、利率などを決定し、発行します。償還には、一定期間ごとに償還する社債を抽選で決める抽選償還や、社債を発行した会社が市場で社債を買い戻す買入償還があります。
社債の会計処理と具体的な仕訳例
ここでは、平価発行と割引発行における社債の会計処理と具体的な仕訳例を見ていきます。
平価発行における社債の会計処理と具体的な仕訳例
平価発行は、社債の額面金額と発行価額が同じ金額の発行方法です。
例)額面100円につき100円で合計1,000万円の社債を発行し、調達した資金は当座預金に入金された。なお、利率は3%と、償還期間は5年である。
・発行時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
当座預金 | 1,000万円 | 社債 | 1,000万円 | 社債の発行 |
実際に社債を発行する際には、取扱手数料や広告費、登録免許税など、さまざまな費用がかかります。通常、これらの費用は「社債発行費」で処理をします。
例えば、社債募集のための広告費に100万円かかった場合の仕訳は次のようになります。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
社債発行費 | 100万円 | 当座預金 | 100万円 | 広告費 |
社債発行費は、会計上は営業外費用に分類されます。ただし、繰延資産とすることも可能で、その場合の償却方法は、任意償却です。そのため、営業外費用の場合は、全額を経費に、繰延資産とする場合は、0円から社債発行費の期末現在の残高まで任意の金額を償却(経費に)することができます。
・利払時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
社債利息 | 30万円 | 当座預金 | 30万円 | 社債利息の支払 |
社債利息の金額は、1,000万円×3%=30万円です。償還までの期間、毎年、社債利息の支払が発生するので、この仕訳が必要です。
・償還時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
社債 | 1,000万円 | 当座預金 | 1,000万円 | 社債の償還 |
割引発行における社債の会計処理と具体的な仕訳例
割引発行は、社債の額面金額よりも、発行価額のほうが低い社債の発行方法です。割引発行の場合は、社債を入金額で処理する方法と額面で計上する方法があります。ここでは、より分かりやすい額面で計上する方法での会計処理を見ていきます。
例)額面100円につき98円で合計1,000万円の社債を発行し、調達した資金の980万円は当座預金に入金された。なお、利率は3%、償還期間は5年である。
・発行時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
当座預金 | 980万円 | 社債 | 1,000万円 | 社債の発行 |
社債発行差金 | 20万円 | 社債の発行 |
・利払時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
社債利息 | 30万円 | 当座預金 | 30万円 | 社債利息の支払 |
・期末の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
社債発行差金償却 | 4万円 | 社債発行差金 | 4万円 | 社債発行差金償却 |
社債の発行金額と額面金額の差額は、社債発行差金で処理します。社債発行差金は、償還期間で均等償却します。
この例の場合だと社債発行差金償却=社債発行差金20万円÷償還期間5年=4万円です。
・償還時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
社債 | 1,000万円 | 当座預金 | 1,000万円 | 社債の償還 |
まとめ
世界の株価を下落させた中国恒大の問題は、中国政府が住宅価格高騰を抑制しようと不動産会社への規制を強化したことから始まります。企業の翌年の借り入れが制限される可能性が高まり、海外投資家向けの米ドル建ての社債の利息の未払いや償還ができないのではないかとの懸念が広がり、結果として、多くの国で株価市場が下落することになりました。
しかし、社債は、企業が外部から資金を調達するために有効な手段のひとつです。社債を発行しようと考える企業は、社債のことをよく理解し、正しい会計処理も必要となることを抑えるようにしてください。
▼参照サイト
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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