事実婚と法律婚の違いは?法的効果、相続、税金は事実婚だとどうなるの?
「多様性」という言葉が市民権を得、結婚についても必ずしも法律上の婚姻に拘らない事実婚カップルが増えてきています。
しかし日本においては法律婚により生まれる法律上の効果は少なくありません。事実婚を選択するという当人の意思は尊重すべきですが、何が認められるか認められないかは正しく知っておきましょう。
事実婚の定義と法律婚との違い
そもそも「事実婚」とはどのような状態を指すのでしょう。また「同棲」との違いはどこにあるのでしょう。以下に説明します。
事実婚はいわば「婚姻していない夫婦」
「事実婚」は、互いに結婚の意志を持ち同居しているものの、入籍の届出(結婚届)をしていない状態で共同生活を続ける「夫婦」の形態をいいます。事実婚は法律上の夫婦でなくとも、当人同士が夫婦であるという意識を持ち、カップルとしての実態も法律上の夫婦と変わりません。
一方「同棲」は、婚姻関係にないカップルが単に一緒に住んでいることをいいます。
どちらも法律上の定義ではありませんが、一般的な捉え方は以上のようになっています。
「事実婚」と「内縁」の違いは?
「内縁」もまた法律上の定義はないものの、通説においては事実婚と原則同じ形態として、判例などでもよく使用されています。
ただ内縁は、かつてはさまざまな事情でどうしても結婚できないカップルがやむなく選択する関係という意味合いがありました。一方事実婚は法律婚に障害はないが積極的に未婚状態にあるという印象を持たれることが多い気がします。
とはいえあくまでも言葉の持つイメージの問題であり、仮に事実婚カップルが裁判を起こせば、今でも書類上「内縁関係」と位置付けられます。
「事実婚」と「パートナーシップ」の違いは?
「パートナーシップ」とは一般的に「共同生活関係」にあるカップルをいいます。
男女間でなく、いわゆるLGBTs(セクシュアル・マイノリティ)のカップルが事実婚関係にある場合に使われることが多いですが、昨今は婚姻関係にありながらも配偶者のことを「パートナー」と呼ぶ夫婦も増えてきました。もちろん事実婚であっても同様であり、どのような形態であってもパートナーシップと呼んで問題ありません。
事実婚であると認められるための要件
我が国の判例では、事実婚(=内縁)にあると認められる要件を、以下のように解釈しています。
- ・ 婚姻の意思がある
- ・共同生活を営んでいる
- ・社会的にみて夫婦と認められている
- ・婚姻届が提出されていない男女
各要件を詳しくみていきましょう。
「婚姻の意思をもって、共同生活を営み」とは?
「愛し合っているからいつも一緒にいたい」だけなら単なる同棲に過ぎません。婚姻の意思とは、自分たちは籍を入れていないだけで、それ以外は法律婚の夫婦と変わるところはない、という当人同士の思いです。
また、共同生活、すなわち一緒に暮らし家計を共同管理している事実が大切です。いくら当人同士が夫婦だと思っていても、離れて暮らしていれば事実婚とはいえず、社会通念上はただの他人でしかありません。
「社会的にみて夫婦と認められる」ために必要なことは?
婚姻の意思は、客観的にも示される必要があります。
具体的には、籍は入れていなくとも結婚式やお披露目会を催したり、双方の親や親族が普通に夫婦として接していたりという例が挙げられます。
そして、二人の間に子供がおり、男性が認知をしていれば社会的に夫婦と認められる事実となります。
また、住民票に「未婚(または未届)の妻(夫)」と記載しておくことで、事実婚であることを公的に示すことが可能です。
上記記載のない住民票でも同じ住所に住んでいることの証明にはなりますが、後述する手続きで必要な証明書類として強い効果があるので、記載をしておくことをおすすめします。
以上のようなさまざまな事実を各要件に当てはめ、事実婚といえるかを総合的に判断していきます。
「事実婚」のカップルに認められること、認められないこと
法律婚と事実婚の違いは、単純に籍を入れているか否かといえそうですが、先述のように、法律婚であればたとえ離れて暮らしていても、夫婦生活が破綻していても「夫婦」と認められるところ、事実婚では自他ともに夫婦と言える状態を築いている必要があります。
そのうえで、判例は事実婚カップルにも「できる限り婚姻に準じた法的効果を付与する」としていますが、やはり認められない効果も一定数あります。
事実婚でも適用があるとされる民法上の効果
事実婚(内縁)カップルで、法律婚と同様の適用がある民法上の効果には、
同居・扶助義務(民法 (以下同)第752条)
婚姻費用の分担義務(第760条)
嫡出の推定(第772条)
などがあります。(適用条文はすべて準用の形になります)
義務の適用が多いような気もしますが、法律婚と違い「夫婦である」ことを示すのは正に「事実」しかないのですから、そのための努力は必要です。
一方、事実婚の解消時には民法の離婚に関する規定を準用して金銭上の請求ができます。
相手の浮気や一方的に出ていき生活費も渡さないという悪意の遺棄などの理由があれば、事実婚でも慰謝料請求が可能ですし、夫婦共同財産制の準用により、財産分与の請求もできます。
事実婚解消後の子の養育費を請求することも可能です。
認知をしているに越したことはありませんが、当人同士が協議合意すれば認知していなくとも養育費支払契約を交わすことは問題ありません。
事実婚に適用されない法律上の効果と税控除
事実婚カップルに適用がない法律上の効果のうち、最も影響が大きいものが「相続権」です。法定相続人の第一順位である「配偶者(第900条参考)」には婚姻届を出していないとなれません。したがって、相手方に財産を譲りたい場合は遺言書を作成しておく必要があります。
しかし遺言があっても事実婚の場合、財産はあくまでも「死因贈与」として受取ることになるので、相続税額が法定相続より2割加算されます。
また、当然ながら相続税の軽減制度である「配偶者控除」も利用できません。
たとえば相続人が配偶者一人で、相続財産が5000万円の場合、相続税は0円ですが、事実婚だと基礎控除額も法定相続人がいなければ3000万円だけとなり、300万円の相続税がかかることになります。
5000万円-3000万円(基礎控除)=2000万円
◆相続税額
2000万円×15%-50万円(控除額)=250万円
250万円×1.2=300万円
同様に所得税における配偶者控除や、医療費控除も受けられません。
さらに、二人の間に子がいても、子の親権は母親が単独で持つので、父が認知をしないと「親子」になれず、子は父の法定相続人となれません。注意しましょう。
保険や年金は事実婚でも認められる!
実社会においては事実婚カップルにいろいろな権利を認めています。
たとえば配偶者の妻(夫)として厚生年金保険の「第3号被保険者」に加入できますし(被保険者が生計を維持している、扶養される者の年収が130万円未満など、一定の条件を充たす必要があります)、相手の死亡時に事実婚であったことを証明できれば遺族年金の請求もできます。
また、生命保険金の受取人になることが可能であるなど、徐々に事実婚と法律婚の差異は縮まってきています。
しかし、保険受取り手続きの際証明書類が必要であったり、会社によっては受取人として認められなかったりと、まだ社会的に統一されているとまではいえません。事実婚でも婚姻と同様の法的権利が認められる制度があるフランスなどの欧米諸国に比べると、どうしても後追い感が否めません。より柔軟な対応が今後増えることが期待されます。
まとめ
現代社会における事実婚は、「内縁関係」と呼ばれていた時代と違い、積極的に婚姻しないという選択をしたカップルと考えられるようになってきています。
夫婦別姓でいられる、もし別れても戸籍に影響がないなどメリットもありますが、一方で親権や相続権がないなどのデメリットもあります。
事実婚を選択する際には、予め法律上の効果について当人同士で話し合い、理解を深めておくことが大切です。
行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。
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