円安が加速!指し値オペと円安の関係について解説
外国為替市場が、春先から急激な勢いで円安に推移しています。ドルと円のパワーバランスを示す円相場が円安になることで経済がダメージを受けないか心配になるほどです。今回の円安推移に対して日銀がとった「指し値オペ」や、円安が日本経済に及ぼす影響などについて解説していきます。
まずは知りたい「指し値オペ」とは何か?
FRBの政策金利と日銀の対応
まずは、外国為替市場の円相場が大きく推移する要因となるアメリカの「FRB」と「政策金利」について解説します。
FRB(英語:Federal Reserve Board)とは、アメリカの中央銀行制度であり、日本でいうところの日本銀行のような位置づけになります。FRBの主な役割は、アメリカ国内に存在する各地方連邦準備銀行を統括しながら、政府が目指す金融政策に沿った「政策金利」を決定することです。
「政策金利」とは、民間銀行が中央銀行に準備預金を預け入れる際にかかる利息、FF金利(フェデラルファンドレート)のことを指します。FRBは政策目標を達成するために、この
FF金利が目標値に近づくような介入を行います。よって実質的にはこのFF金利が「政策金利」となります。
今回の急激な円安推移は、アメリカがインフレを抑制するために行った政策金利の引き上げが要因の一つであるといわれています。
これに対して日本では、新型コロナウイルス感染症で受けた国内経済のダメージを回復させるために大規模な金融緩和を継続していたことが、円安に拍車をかける結果となりました。
指し値オペはなぜ実施されたのか?
結論から言えば、資源輸入国である日本経済にとって円安推移は好ましい状況だといわれています。また、コロナ後の景気回復を目指して大規模な金融緩和を行っていたこともあり、日銀としては長期金利の上昇を何とか抑える必要があったわけです。
そこで、円安を抑制するための対抗策として「指し値オペ」を実施することになります。
一般的に、日銀の市場介入のことを「オペレーション」と呼びますが、「指し値オペ」とは、日銀が国債を指定した利率(指し値)で無制限に買い入れる市場介入オペレーションのことを指します。
この「無制限に」というところがポイントで、国債がどれだけ売られても「指し値」で日銀が必ず買い取ってくれますので、結果として長期金利は指し値で固定されることになります。
問題なのは「指し値オペ」を実施したことで「日本は政策金利を低く抑えますよ」と世界に意思表示したという点であり、アメリカの政策金利引き上げとは対照的な措置になりました。
同じ資産であれば、より金利が高い方に資金移動させたいというのは誰もが考えることでしょう。オペレーションの結果、金利の低い円を手放し金利の高いドルに資産を移動させる動きが加速したため「円が売られドルが買われる=円安」が進行することとなりました。
指し値オペと為替レートの関係
アメリカにおける長期金利の上昇が起因
近年、アメリカ経済は慢性的なインフレ傾向にあり、政府としてはインフレ打開のための政策を打ち出す必要がありました。そこで政策金利を引き上げ、市場の貨幣流通を引き締めることでインフレを抑制しようとしたわけです。
ドルは世界の基軸通貨である「ドル」「円」「ユーロ」のなかでも最も影響力のある通貨です。それだけに、アメリカの政策金利の動向一つが世界経済に大きな影響を及ぼすといっても過言ではありません。
市場原理として、より大きな利益を生み出すためには金利の高い方に資産を保有していたほうが有利です。ドルの金利が高ければドルで、円の金利が高ければ円で資産を保有するようになるのは必然であるといえます。
事実、今回の円安推移はアメリカの政策金利引き上げに端を発し、金融緩和を行っていた日本から資金がドルに流出していったことが大きな要因です。
円安とは文字通り「円の価値が安くなる(低くなる)」ことを意味します。通貨間のパワーバランスで、円がドルより弱くなっていることを示しています。必ずしも「円安=悪」とはなりませんが、今回の円安に限って言えば好ましい円安ではなく、日銀の金融政策の失敗を指摘する声もあります。
金融緩和、長期金利を抑制するためのオペ
金融緩和を優先する政策と、円相場を現状で維持する政策は相反するものとなります。
景気回復には企業の活発な経済活動が不可欠です。銀行や民間企業が活動資金を調達しやすくするためには、長期金利を低く抑える必要があります。これに対して、円建ての金融資産が他通貨へ流出するのを防ぐためには、金融資産に対する長期金利が他国より高くなければなりません。
日銀のスタンスとして「円安は日本経済には好ましい」ということもあり、結果として金融緩和を継続し「指し値オペ」を実施するという選択をすることになります。
しかし、予想以上に円安が加速してしまったことで日本経済にも大きな変化が起こりはじめました。
資源そのものの流通量が不足しているという要因もありますが、原油をはじめ、木材、鋼材やそれらを使った製品の輸入コストが、円安の影響で増加しつつあるのです。
円安加速で日本経済はどう変化する?
資源輸入国である日本にはデメリット
先にも述べましたが、日銀は「日本経済は円安が望ましい」というスタンスをとっています。資源の乏しい日本は経済活動にかかる資源の大半を海外からの輸入に頼っています。
輸入した資源を国内で加工し、付加価値を付けてより高く海外に販売するというスタイルで経済大国に成長してきたわけです。
一般的には、円安で輸入コストは上がりますが、付加価値を付けた製品輸出のメリットのほうがより高くなるといわれています。付加価値の分だけ円安の恩恵を受けることができるというのがその理由です。
しかし、有利というのはあくまで製品を輸出している企業の立場からみたものであり、輸入資源を消費するだけの人たちからすればデメリットでしかありません。輸出による「利鞘」がない消費者にとっては、円安による輸入コスト増加の影響をもろに受ける形となるからです。
円安の影響は身近な生活にも影響がある
円安が私たちの生活に影響を及ぼす身近な例として、電気料金を挙げてみましょう。
現在日本では、消費する電力の7割近くを火力発電により賄っていますが、ご存知のとおり火力発電所では石油が使われています。近年ではLNGも使われていますので比率は下がっていますが、今も主要な燃料であることにはかわりません。
円安によって原油調達価格のコストが増加すれば、当然、電気料金の価格にも影響があります。事実、円安が進むにつれ電気料金も上昇し家計を直撃しているのが現状です。
いまや生活必需品の一つとなった自動車の燃料も原油から精製されていますし、国内で消費されるプラスチック製品の原料も原油がなければ作ることはできません。
国内消費の製品にも輸入コストの増加は反映されてきます。ここ最近、販売価格の見直しや値上げといったキーワードをよく目にするようになりました。材料を輸入に頼っている企業が国内販売の商品を生産する場合には輸出の恩恵はありません。したがって、企業努力で吸収できないコスト増加は当然、販売価格に反映されることになります。
消費者は間接的にも円安の影響を受けることになるのです。
まとめ
金融政策は一方向だけを見て判断されるものではなく、国全体の状況を総合判断したうえで決定されるものです。日銀の「指し値オペ」が必ずしも失敗だったとはいえませんが、結果として円安推移が今後も私たちの生活に影響を与えることは間違いありません。
▼参照サイト
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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