所得税の還付金はいつ頃?サラリーマンの年末調整について解説
会社勤めのサラリーマンの方は毎年、年末が近くなると「年末調整」という言葉を耳にするのではないでしょうか。サラリーマンが負担する所得税は年末調整を通じて精算されます。今回は、サラリーマンが負担する税金、「所得税」の精算業務と、精算により発生する還付金について解説します。
サラリーマンの給与所得と税金
給与所得には「所得税」がかかる
税法では一般的に、利益(所得)が生じた場合には必ず税金が課税されるような仕組みになっています。例えば、個人事業主が商品を販売して稼いだ利益(所得)、いわゆる「もうけ」が生じた場合には「もうけ」に対して所得税が課税されます。また、個人の方が土地を売却した結果、利益(所得)を得たような場合でも、同様に所得税が課税されます。
では、サラリーマンの場合はどうでしょう。
サラリーマンは労働という役務提供の対価として、会社から給与や賞与(以下、給与等)を得ます。この給与等からスーツや通勤費といった「サラリーマンの必要経費」を差し引き、残りの「もうけ」で生活していくことになります。
先にも述べましたが、税法では「もうけ」に対して税金が課税されますので、サラリーマンも例外ではありません。給与等により得た利益(所得)にもやはり所得税が課税されます。
所得税を確定精算するのが「年末調整」
サラリーマンの「もうけ」に対して所得税が課税されることを解説しました。では、課税される「もうけ」とは具体的に、どのように計算されるのでしょうか?
所得税は「その年の1月1日から12月31日の間に得た所得」に対して課税されます。これを、サラリーマンに当てはめてみましょう。サラリーマンの給与等の支給を、1カ月を超えて支払うことは労働基準法第24条で禁止されています。したがって、給与等は毎月支払われることになります。1月1日から12月31日の間に支払われる給与等の最終支払月は12月になりますので、必然的に「もうけ」は12月の給与等が支払われるまで確定することができません。
毎年12月頃に会社で年末調整をするのは、このような理由があるからです。
これに対して、所得税の源泉徴収はどうでしょう?
税法では、毎月支給する給与等からその都度、源泉徴収しなければならないとされています。つまり、確定していない「もうけ」の所得税を、毎月の支払いの中から概算額で徴収せざるを得なくなります。これはあくまで概算ですから、最終的には「もうけ」が確定する12月以後にもう一度正確に計算し、過不足額を精算しなければなりません。これが「年末調整」です。
「年末調整」の進め方について解説
所得税を確定するために必要なこととは?
所得税を確定させるためにはまず、「もうけ」を確定させる必要があります。では、計算の基礎となる「もうけ」の求め方について、さらに詳しく解説しましょう。
「もうけ」を算出するための要素は、大きく分けて次の4つに分類されます。
- 給与等の課税支給額
- 給与所得控除
- 人的控除
- 保険料控除
(税法ではさらに、政策上の観点から所得税から直接控除できる「税額控除」という制度がありますが、それは後段で解説します。)
「もうけ」は以下の算式で求めることができます。
「給与等の課税支給額」-「給与所得控除」-「人的控除」-「保険料控除」
・給与等の課税支給額
課税支給額とは、非課税通勤手当といった、所得税が非課税となる給与等を差し引いた残額を指します。課税支給額は、1月1日から12月31日の間に支払われた給与等の合計です。
・給与所得控除
給与所得控除とは、いわゆる「サラリーマンの必要経費」のことを指します。スーツや通勤費といったサラリーを得るために要した費用を前段の「給与等の課税支給額」から差し引くことが、税法で認められています。
・人的控除
人的控除とは、サラリーマンが扶養する家族や、本人の状態(障碍者、ひとり親など)といった個々の家庭事情を考慮して控除が認められるものです。年末調整では、人的控除を「扶養控除等申告書」や「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」で内容を確認します。
・保険料控除
保険料控除も、個々の家庭事情を考慮した控除です。サラリーマンが負担した生命保険料や損害保険料、国民健康保険料や国民年金といった保険料を給与等の課税支給額から控除することができます。支払額を証明する書類を「保険料控除申告書」に添付して会社に提出します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金も保険料控除の対象の一つです。その年に支払った掛金は全額「小規模企業共済等掛金」に該当しますので、「保険料控除申告書」内の「小規模企業共済等掛金控除」に金額を記載し、控除を受けることができます。なお、支払った金額についてはiDeCoの運営機関から届く払込証明書で確認することができます。
所得税精算の計算方法について
では、所得税を確定させるプロセスを順番に解説していきます。
1.給与等の課税支給額の確定
年末調整を始めるにあたって、まずは基礎となる「給与等の課税支給額」を確定させます。先に挙げた「賃金台帳」などから、各人の「給与等の課税支給額」を集計します。注意点としては、年の中途で入社した方がいる場合、前職の給与等を含めた金額で年末調整をしなければならないという点です。
2.給与所得控除の控除
1.で集計した課税支給額から「給与所得控除」を差し引きします。具体的には、課税支給額から給与所得控除を差し引きした「給与所得控除後の金額」を求め、ここから人的控除や保険料控除をすることになります。
3.人的控除の確認
従業員から提出を受けた「扶養控除等申告書」や「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の内容を確認します。配偶者控除や扶養控除には控除対象者の所得要件がありますので、少しでも気付いた箇所があれば従業員に直接確認するなど、慎重な対応が必要になります。
4.保険料控除の確認
同じく従業員から提出を受けた「保険料控除申告書」の内容を確認します。保険料控除を受けるには、支払いを証明する書類(生命保険料控除証明書など)の添付が必須となりますので、証明書の内容をよく確認するとともに、証明書未提出の場合には再発行の手続きを依頼するなどの対応が必要になります。
5. 課税給与所得金額の算出
上記1.~4.の手順により計算した金額を集計して「課税給与所得金額」を算出します。
6.所得税額の計算
5.で算出した「課税給与所得金額」を「年末調整のための算出税額の速算表」に当てはめて所得税額を確定します。ここで求めた所得税額のことを「年税額」と呼ぶこともあります。
7.住宅借入金等特別控除
住宅を新築や増改築するために金融機関等から借入をした場合、所得税が軽減される特例措置があります。これが「住宅借入金等特別控除」です。該当する場合には、年末調整で「年税額」から特別控除額を直接控除することができます。
年末調整における還付金とは何か?
所得税が過大に徴収されていると還付金が発生する
「年税額」を確定させたところで、毎月源泉徴収した所得税の合計額との比較を行います。これが年末調整の精算業務です。
前段でも述べましたが、給与等に対する所得税は、毎月の給与等から「概算額」で控除することとされています。実務的には「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて、毎月の給与等支給額から源泉徴収されますが、この概算徴収額と年末調整で確定させた年税額とを比較し過不足額を従業員との間で精算しなければなりません。
すでに徴収した所得税額が多すぎた場合には、精算業務のなかで従業員にお金を戻さなければなりません。これが年末調整の還付金です。
還付金は当然、年末調整が終わらなければ手許に戻ってきません。一般的には、12月から1月上旬にかけて年末調整をする会社が多いので、還付金が従業員に戻ってくるのは同じく12月から1月上旬にかけてになります。
還付金は必ず発生するわけではない
年末調整の還付金で、よく起こりやすい誤解が「年末調整をすれば還付金が必ず返ってくる」という点でしょう。確かに人的控除や保険料控除を受ければ、所得税が安くなりますので必ず還付金が生じると思うのも無理はありません。
しかし、年末調整の還付金はあくまで「徴収済みの所得税」と「年税額」の比較でしかありません。仮に、毎月徴収される所得税が「0円」の場合、年末調整の年税額が0円であれば0円-0円=0円ですから、還付金はないことになります。逆に、このような方で年末調整の年税額がプラスになった場合、所得税が徴収不足になりますので還付どころか徴収されるという事態も起こり得ます。
大勢の扶養親族等を付けた、高額の保険料を払った、というだけでは還付金は発生しないことに留意してください。
まとめ
年末調整は「扶養控除等申告書」のように、従業員の自己申告による部分が数多くあります。扶養の付け間違いや保険料控除の誤りの結果、税務署から扶養の是正がくることになりますので、実際に年末調整業務を行う側も慎重な対応が必要になるでしょう。
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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