家の「リースバック」は相続対策にも有効?「リバースモーゲージ」との違いも解説

[取材/文責]マネーイズム編集部

最近、「リースバック」のテレビCMをよく目にするようになりました。「自宅を売却してまとまったお金を手にした上に、そのまま住み続けられます」というのがセールスポイントですが、具体的にはどのような仕組みになっているのでしょうか?相続対策にもなるって本当?
自宅の資産価値を生かす「リバースモーゲージ」との違いも含めて解説します。

リースバックの仕組み、メリットは?

自宅を売って賃貸住まいに

「リースバック」とは、ひと言でいえば「自宅を売却して、借り直す仕組み」です。所有者は、自宅を不動産業者などのリースバック運営会社に売却して、買い取り代金を受け取ります。普通はそれで家を引き払うことになるのですが、この仕組みを利用すると、買い取った業者に毎月リース料(家賃)を支払うことで、そこに住み続けることができます。不動産に関しては、「所有」から「賃貸」に変わります。

住宅ローンの残債がある場合、売却することでそれを完済し、売却額との差額があれば受け取ります。そこから先は、ローンが家賃に変わります。コロナ禍などにより、住宅ローンの支払いが困難になるケースが増えており、それを解決する手段としても、このリースバックは注目されています。

リースバックの8つのメリット

(1)売却後も自宅に住み続けることができる

なんといっても、売った後も住み慣れた家に住み続けられるのが、最大の魅力です。説明したように、家が所有から賃貸に変わるだけですから、従来のライフスタイルを変えたりする必要はまったくありません。子どもがいる場合には、転校を心配しなくていいのも大きなメリットです。

(2)住宅ローンの負担をなくせる

売却して受け取るお金で、住宅ローンを完済することができます。収入が減少して支払いがピンチになっているケースでは、有効な解決策の1つになるでしょう。

(3)まとまったお金をスピーディーに調達可能

普通に不動産仲介業者に頼んで自宅を売却する場合には、売買成立まで半年程度かかることが珍しくありません。しかし、買主=貸主であるリースバックを利用すれば、速やかに現金を手にすることができます。

(4)使途に制限がない

不動産を売って得たお金ですから、融資と違い、その使途に制限はありません。ローン返済やリフォーム資金、子どもの学費、老後資金、事業資金などとして自由に使うことができます。

(5)マンションでも利用できる

リースバックは、自宅が一軒家に限らず分譲マンションの場合でも使うことができます。

(6)維持のコストや税金がかからなくなる

リースバックで賃貸になると、持ち家にかかっていた維持・管理のコストや固定資産税などの負担がなくなります。マンションの場合は、管理費や修繕積立金も、新たな所有者が支払うことになります。

(7)売却を近所に知られずに済む

例えば、住宅ローンの資金を捻出するために家の売却を考えたとき、普通に仲介業者に頼むと、チラシなどを通じて売却を準備していることが近隣に知られる可能性があります。リースバックなら、そうした心配はありません。

(8)将来買い戻すことも可能

売買条件が合致すれば、売却した家を買い戻すことができるのも、リースバックの特徴です。契約時に、例えば「5年後に子ども名義で買い戻す」といった条件を付けることができます。

リースバックが相続対策になる理由

また、リースバックは、相続対策としても注目されています。

相続の際、親の持ち家を誰が相続するのかで揉め事が起こることは、少なくありません。特に不動産以外に現金などの財産が少ない場合、それを譲り受ける人と他の相続人との間で不公平が生じるためです。相続する現金が少ないと、相続税が発生した場合に、その支払いが大変になるという難点もあります。

リースバックであらかじめ不動産を売却すれば、そうした問題を回避することができます。現金化されていれば、相続人に平等に遺産を分けやすくなり、相続した人は、そのお金を相続税の原資にすることもできるでしょう。

リースバックには、条件・デメリットもある

ただし、リースバックには、次のような条件やデメリットがあることも、理解しておきましょう。

買い取り価格<住宅ローン残債では、原則利用できない>

住宅ローンが残っている場合、買い取り価格がローンの残債を下回る状態では、リースバックは利用できません。ローンが完済できなければ、融資先の金融機関の抵当権(担保)が外れない=不動産の売却はできないからです。手持ちの資金などで不足分を補うことができれば、利用は可能です。

所有権がなくなる

リースバックを行うことで、所有権が買い取り業者に移ります。維持費などの支払いがなくなる一方、自由にリフォームしたりすることはできなくなります。

家賃が発生する

住宅ローンの負担はなくなりますが、代わりに家賃の支払いが必要になります。もし滞納すると、普通の賃貸住宅同様、貸主から退去を要求されることもありますから、家賃を払い続けるための資金計画は明確にしておく必要があります。

また、リースバックの家賃は、周辺の物件の相場などとは関係なく決められることも、頭に入れておいてください。買い取り業者の利回りなどを指標に計算されるためで、年間で買い取り価格の10%前後に設定されるのが普通です。当然、買い取り価格が高いほど、家賃も上がることになります。その結果、周辺の賃貸物件よりも、家賃が割高になるかもしれません。

売却価格は、相場より安いのが一般的

一方、売却額については、市場価格よりも安くなるのが一般的です。リースバック運営会社が、借主の家賃滞納リスクや、買い戻しに応じるために自由に売買できない制約などを抱えているためです。

つまりリースバックは、さきほど述べたようなメリットを享受できるのと裏腹に、「売却額は相場よりも安い/家賃は相場よりも高い」という面から、経済的には「損」になる可能性がある、と割り切る必要があるサービスだといえるでしょう。

ずっと住み続けられるとは限らない

リースバックを利用できたとしても、必ずしも死ぬまで自宅に住み続けられるとは限りません。不動産の賃貸契約には、「普通賃貸借契約」と「定期賃貸借契約」があります。前者の場合は、貸主は正当な事由がない限り、契約の更新を拒めません。一方、後者には、更新の定めがありません。双方の合意があれば、再契約することで賃貸借契約を継続することも可能ですが、貸主が再契約を拒むことができるのです。

リースバックでは、この定期賃貸借契約の場合が多いため、注意が必要です。運営会社が、賃貸収入による利回りではなく、売却益を優先しているケースでは、数年で契約打ち切りになるリスクがあります。ただ、「売却益重視」の業者の場合、「利回り重視」に比べ、家賃は低く抑えられる傾向にあります。不動産の買い替えを前提とする場合などには、あえてそちらを選ぶということも考えられるでしょう。

買戻しができない可能性がある

買い戻しに関する契約を締結している場合などは、運営会社は買戻しに応じなければなりません。しかし、きちんとした契約を結ばなかった場合には、それを拒否される可能性もあり、家賃滞納など契約条件に違反すると買戻す権利が消失します。また、一般的にリースバックの買戻し価格は、運営会社への売却額よりも高くなることも認識しておく必要があるでしょう。

リースバック業者(運営会社)は、比較検討して選ぶ

リースバック市場の拡大とともに、それを扱う運営会社の数も増えました。利用を考える際には、各社の契約条件を比較して、自分のニーズ(「ローンを気にせず住み続けたい」「老後資金が欲しい」「相続対策にしたい」など)に見合ったサービスを提供する業者を選ぶことが大事になります。買い取り額ばかりに目が行くと、家賃や契約期間などの面で不利になる可能性がありますから、注意が必要です。

また、運営会社も民間企業である以上、倒産のリスクがゼロではありません。そうなると、想定していた生活の維持が困難になるかもしれません。業績面などに問題を抱えていないかどうかも、可能な限りチェックすべきでしょう。

リバースモーゲージとの違いは?

リバースモーゲージとは?

このリースバックと似たものに、リバースモーゲージがあります。リバースモーゲージは、自宅を担保として金融機関に提供し、その資産価値に応じて設定される融資上限額まで、定期的もしくは随時、融資を受けることができるサービスです。融資された金額は、自宅の所有者が死亡した時点で、土地建物を売却して一括返済します。

リースバックもリバースモーゲージも「住み続けながら、自宅を現金化できる」という点では同じですが、前者が自宅の「売却」と「賃貸」を組み合わせた「不動産取引」であるのに対して、後者は自宅が担保の「融資」をベースとした「金融商品」、という違いがあるのです。

リバースモーゲージのメリット

リバースモーゲージは、リースバックと違って、亡くなるまで自宅の所有権は移転しません。存命中は融資の元本の返済は不要で、利息の支払いだけでいいため、キャッシュフロー面での負担は比較的少なくてすみます。サービスを提供するのが金融機関や自治体のため、一般の企業に比べ安心感が高いというのもメリットといえます。

リバースモーゲージのデメリット

一方、デメリットとしては、利用条件に制約の多いことが挙げられるでしょう。融資であるため、資金の使途は生活費や自宅のリフォームなどに限られます。また、一般的に利用できる年齢は55歳~80歳となっており、「自宅所有者の推定相続人全員の同意が必要」といった条件が付けられます。

説明したように、リバースモーゲージでは、物件の資産価値に応じた融資限度額が設定されます。契約時から長生きした場合、亡くなる前にその上限に達し、自宅を売却せざるをえなくなる可能性もあります。また、「利息の支払いだけでいい」というのは、裏を返せば「利息は支払う必要がある」ということです。変動金利の商品の場合、途中で金利が上昇する可能性があります。担保物件の資産価値が下落すれば、融資限度額が引き下げられるかもしれません。

相続対策に使えるか?

リバースモーゲージも「自宅の現金化」ですから、相続対策として有効です。借入金を少しずつ子どもなどに生前贈与していけば、その分相続財産を減らす(=相続税を減らす)ことができます。相続時には自宅を売却しますから、リースバックと同様、平等な遺産分割がしやすくなります。

ただし、売却の手続きは相続人の仕事です。売却金額の大半が元本返済に充当された場合、生前贈与を受けていなければ、相続人はそのためのエネルギーを費やすだけで何も残らない、ということになるかもしれません。

まとめ

自宅を売却して老後資金などを確保した上で、そのまま住み続けることができるリースバックが注目されています。ただ、その仕組みには、説明したようなデメリットもあります。利用の際には、複数の業者の条件などを比較検討し、自分のニーズに合ったサービスを選ぶようにしましょう。リースバック、リバースモーゲージに詳しい専門家に相談してみるのもお勧めです。

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