黒字なのに税金がかからない?法人税法の仕組みについて解説

[取材/文責]奥谷佳子

税法では一般的に「もうけが出たら税金を払う」というイメージがあります。しかし、法人税法では「算入」「不算入」や「繰越欠損金」という特有の制度があり、黒字でも税金がかからないケースがあります。今回は、黒字でも税金がかからない法人税の仕組みについて解説します。

法人の黒字と法人税の関係について解説

黒字になれば税金を払うのが一般的

法人税法に限らず、税法では一般的に「もうけが出たら税金を払う」のが基本です。例えば、個人事業主の方が事業によって得たもうけは「事業所得」、不動産を売却して得たもうけは「譲渡所得」になります。税法ではこれらのもうけに対して「所得税」が課税されます。また、個人が現金等の財産を贈与してもらった場合、贈与を受けた方(受贈者)は対価の支払なしに資産を得ますので、もうけが出ることになります。この場合は「贈与税」が課税されます。

法人も個人事業者や個人と同様に、事業活動の結果として得たもうけ(利益)があれば、「法人税」が課税されます。法人税は「法人税申告書」を使って計算しますが、計算するにあたって基礎となるのは「決算書上の利益」です。この利益に、法人税法上の様々な調整を行い、最終的に「税法上の所得」を求め、所得に税率を乗じて納付する法人税額を算出するという流れになります。

決算書の黒字と税法上の黒字は違う

法人の決算書における「利益」は、売上高などの「収益」から人件費や水道光熱費などの「費用」を差し引いた差額として求めることができます。

決算書上の利益  =  収 益  - 費 用

法人は収益の認識基準や費用の計上基準などを定めた「企業会計原則」に基づき、会計処理を行っています。したがって、適用する基準による差異はあるものの、決算書上の利益は「会計上の利益」として捉えられます。会計上の利益が確定しなければ法人税の計算はできません。したがって、決算処理を行う場合にはまず、会計上の利益を確定させることから始めます。

これに対して、法人税法では決算書上の「利益」に加え、法人税申告書上で法人税法に基づいた加算・減算を行い「所得」を計算し、所得に対して課税します。ここがポイントです。

法人税法上の所得 = 決算書の利益 + 加算 - 減算 - 繰越欠損金
                (法人税法上の調整項目)

決算書の利益である「会計上の利益」に対して法人税法の調整項目を加算・減算したり「繰越欠損金」を控除したりすることで、法人税法の課税所得、いわゆる「税法上の利益」を計算します。法人税はこの「税法上の利益」に対して課税されます。

法人税法上の調整項目がなければ「会計上の黒字=税法上の黒字」となりますが、実務上は調整が入ることがほとんどです。その結果、会計上の黒字と税法上の黒字にズレが生じることになります。

黒字でも税金がかからない仕組みとは?

法人税法における「所得」の計算方法

では、法人税法上の調整項目である「加算・減算」「繰越欠損金」についてもう少し詳しく解説していきます。調整項目が「会計上の利益」に対してどのような影響を与えるかは以下のとおりです。

「加 算」 会計上の利益にプラスする項目

「減 算」 会計上の利益からマイナスする項目

「繰越欠損金」 会計上の利益からマイナスする項目

会計上の利益に「加算・減算」及び「繰越欠損金」の調整を行う過程を図解してみます。

まずは会計上の利益からスタートし、「加算・減算」の処理を行い一旦所得を計算します。
ここで、減算項目が会計上の利益と加算項目の合計より多ければ所得はマイナスとなりますので、税金の対象となる所得はありません。したがって納税額は発生しないことになります。

「もうけがあるのに税金が発生しない」という不思議な現象が起こるのは、申告書のマイナス項目が黒字より多いために起こる現象なのです。

「繰越欠損金」があれば黒字でも「所得」が0円になるケースもある

次に、上図のとおり「加算・減算」により計算した所得額を上限として「繰越欠損金」を控除し「法人税法上の所得」を求めます。ここで、「加算・減算」で求めた所得より「繰越欠損金」が多ければ所得は0円となり、納税額が発生しないことになります。

「繰越欠損金」は、税務署から青色申告の承認を受けた法人が、事業年度で生じた赤字(欠損金)を最大で10年間繰り越しできる制度です。繰り越された欠損金は翌期以降の10年以内に生じた黒字と相殺できます。繰越欠損金がなければ、黒字に対して法人税を納めなければなりませんが、赤字と相殺することで黒字を減らせますので、節税に繋がります。青色申告をする法人にとって、有効な税法上の特典の一つであるといえます。

ただし、繰越欠損金制度は青色申告の承認を受けている期間だけ適用されます。したがって承認が取り消された時点で消えてしまいますので注意が必要です。具体的には、2期連続して青色申告書の提出が期限後になってしまうと青色申告の承認が取り消されてしまいます。

青色申告をする法人の方は、確定申告書の提出期限には充分気を付けましょう。

「算入」「不算入」や「繰越欠損金」が決算書に及ぼす影響とは?

決算書上は「黒字決算」となる

ここまでの解説で、黒字決算なのに納税額が発生しない仕組みについては理解できたと思います。法人税法上の「加算」「減算」や「繰越欠損金」により、法人税の計算基礎である「所得」が0円以下になった場合に、法人税の納税額は発生しません。

では、これら法人税法上の調整が決算書に及ぼす影響はあるのでしょうか?結論から言えば調整が決算書に及ぼす影響はありません。「加算・減算」や「繰越欠損金」の調整はあくまで法人税の申告書内で行うものです。調整の結果、所得が0円以下になれば法人税額も0円ですから、決算書に法人税の充当額を改めて計上する必要はありません。つまり、黒字決算のまま決算書は確定するわけです。

会計の利益と税法上の所得が必ずしも一致しないのは、このような仕組みによるものです。

「益金不算入」「繰越欠損金」で税法上の「所得」は0円以下になる

では、決算書上は黒字でも法人税法上の調整により所得が0円になるケースについて具体的に解説していきます。調整の結果、税法上の所得が0円以下になるのは「減算項目が多いケース」と「繰越欠損金があるケース」です。

「減算項目が多いケース」

先にも述べたとおり、減算とは決算書上の利益をマイナスする項目です。

  • 前期以前において充当金計上した事業税を当期に支払したその金額
  • 受取配当金の益金不算入
  • 減価償却超過額の当期認容額

 

これらの項目の金額が大きければ大きいほど、会計上の利益からマイナスする金額が大きくなりますので、所得が少なくなります。

「繰越欠損金があるケース」

・前期以前10年間(平成30年4月1日より前に開始した事業年度の欠損金は9年間)のうちに生じた赤字(欠損金)を確定申告において法人税別表7で繰り越している場合

加算・減算後の所得より多い繰越欠損金がある場合は、相殺により所得を0円とできます。相殺してなお繰越欠損金が残る場合には、繰越期限内であれば残額を翌期以降にまた繰り越せます。

まとめ

法人としては、決算書は黒字でなおかつ納税額が発生しないという、ある意味理想的な決算となります。「黒字決算で法人税額が0円」という仕組みを理解するために、まずは法人税法の知識を理解するところから始めるのをお勧めします。

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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