キャッシュレスビジョンと日本におけるキャッシュレスの現状とは

[取材/文責]長谷川よう

日本でも、さまざまなシーンでキャッシュレス化が進んでいます。日本におけるキャッシュレス化は、実は国が以前から推進してきた事案です。国によるキャッシュレス化を考えたときに重要となるのが、キャッシュレスビジョンです。
ここでは、キャッシュレスビジョンと日本におけるキャッシュレスの現状について解説します。

そもそもキャッシュレスビジョンとは

はじめに、そもそもキャッシュレスビジョンとはどのようなものかを見ていきましょう。

キャッシュレスビジョンとは日本のキャッシュレス方針のこと

日本のキャッシュレス化は、大手企業が推進してきた側面があります。しかし、企業だけでは、キャッシュレス化を大きく進めることはできません。そこで、国もキャッシュレス化に向けて以前から取り組んできました。

キャッシュレスビジョンとは、簡単にいうと、国の定めた日本のキャッシュレス方針のことです。キャッシュレスビジョンは、今後の日本のキャッシュレス化の方向性や方針などが定義され、2018年4月に経済産業省によって策定されました。

キャッシュレスビジョンでは、大阪・関西万博の2025年までにキャッシュレス化を40%に、将来的には世界最高水準の80%にすることを目標にしています。キャッシュレスビジョンにおける、キャッシュレスとは「紙幣や硬貨などの現金を使用しなくても、経済活動ができる」ことです。

キャッシュレスの決済手段としては、電子マネー(前払い・後払い)やデビットカード・モバイルウォレット(即時払い)、クレジットカード決済(後払い)などを挙げています。

キャッシュレスビジョンが策定された背景

キャッシュレスビジョンが策定された背景には、日本が世界に比べてキャッシュレス化が遅れている現状があるためです。

日本には、そもそもキャッシュレス支払が普及しにくい背景があります。それは、日本における治安の良さや現金に対する高い信頼などにより、そもそもキャッシュレス化を望まない人が多いことです。

その一方で、少子高齢化や人口減少に伴う労働者人口の減少の時代を迎えている事実もあります。今まで以上に人手をかけられず、さまざまな場面でキャッシュレス化などの効率化が必要です。

また、キャッシュレスビジョン策定当時、インバウンド需要拡大のためにも、世界と足並みをそろえる必要がありました。

これらの要因により、日本でも、早急にキャッシュレス化が必要なため、キャッシュレスビジョンが策定されました。

世界や日本のキャッシュレス動向

キャッシュレスビジョンが策定された背景には、日本が世界に比べてキャッシュレス化が遅れている現状がありました。ここでは、世界や日本のキャッシュレス動向について見ていきましょう。

世界のキャッシュレス動向

キャッシュレスビジョンによると、2015年時点で最もキャッシュレスが進んでいるのは韓国で、キャッシュレス決済比率※は89.1%となっています。中国で60.0%、カナダやイギリス、オーストラリアで50%、スウェーデンやアメリカも45%を超えています。一方、日本では、18%程度と他の国より後れを取っています。

※キャッシュレス決済比率は、次の計算式で計算されたものです。
キャッシュレス決済比率=キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の家計最終消費支出

 

では、他の国のキャッシュレス化はなぜ進んでいるのでしょうか。韓国とスウェーデンの推進事例を見てみましょう。

・韓国のキャッシュレス事情

韓国は、主に政府の主導によりキャッシュレス化が進んできました。例えば、クレジットカードの利用により所得控除が受けられる、買い物のおつりをプリペイドカードにチャージできるなどです。

これは、東南アジアの通貨危機による急激な通貨下落の打開を目的として始められました。その結果、韓国は世界有数のキャッシュレス国になっています。

・スウェーデンのキャッシュレス事情

スウェーデンも韓国同様、主に政府の主導によりキャッシュレス化が進んできました。例えば、多くの店舗や交通機関でキャッシュの取り扱いをやめたり、個人間送金・支払サービスのアプリ「Swish」が登場し、露店でもキャッシュレスで支払いができるようになりました。

これは、防犯対策や冬の現金の輸送が難しいなど、スウェーデン特有の要因によるものです。

日本のキャッシュレス動向

次に、日本のキャッシュレス動向について見てみましょう。

日本では、キャッシュレスビジョンにより、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%まで上昇させることを目指しています。

大手企業によるキャッシュレスサービスの増加や、新型コロナウイルスの影響により、できるだけ現金に接触したくない人が増加したことにより、大きくキャッシュレス化が進みました。2015年には、18%程度だったキャッシュレス決済比率が、2021年には32.5%まで上昇しています。

内訳としては、クレジットカードが27.7%と最も多く、次いで電子マネーが2.0%、コード決済が1.8%などと続いています。

キャッシュレス決済の課題と今後

日本でも年々、キャッシュレス化が進んでいます。しかし、まだ他の国に比べるとキャッシュレス決済の比率は高くありません。ここでは、日本におけるキャッシュレス決済の課題と今後について見ていきます。

キャッシュレス決済の課題とは

キャッシュレス決済が進まない課題には、次のようなものがあります。

・詐欺被害の増加

そもそもキャッシュレス化により、現金の盗難などの犯罪を防ぐ目的もありました。
しかし、キャッシュレス化が進むにつれ、なりすましの詐欺など、新たな犯罪も増えてきたたため、キャッシュレス決済に不安を感じる人もいます。

・お店の負担増

キャッシュレス決済をするためには、商品を販売するお店に専用の機器を導入する必要があるなど、負担が増えます。しかし、キャッシュレス化が進むにつれ、専用の機器の小型化や安価になるなど、店の負担も少なくなっています。

・年齢などによるデジタル格差

キャッシュレスでは、スマホのアプリを使うなど、一定のデジタル知識が必要です。
しかし、高齢の方などデジタル知識に疎い人も多く、デジタル格差があるのも事実です。

今後もキャッシュレス決済の割合は増加する

キャッシュレス決済には課題もたくさんありますが、その利便性から今後もキャッシュレス決済の割合は増加すると考えられます。政府も「公共施設・自治体窓口におけるキャッシュレス決済導入手順書」を取りまとめたり「キャッシュレスの将来像に関する検討会」を開催するなど、最近も積極的にキャッシュレス化促進のための活動を行っています。

また、キャッシュレスに向けた店舗の負担も以前より少なくなっているため、多くの店でキャッシュレス化がさらに進むことが考えられます。

一方、大手企業では、スポーツ施設などでキャッシュレス決済のみしか利用できなくするなど、社会的な実験も行っており、今後もさらにキャッシュレス決済の割合は増加するでしょう。

まとめ

キャッシュレスビジョンとは、簡単にいうと、国の定めた日本のキャッシュレス方針のことです。キャッシュレスビジョンでは、大阪・関西万博の2025年までにキャッシュレス化を40%に、将来的には世界最高水準の80%にすることを目標にしています。

実際に、2015年には、18%程度だったキャッシュレス決済比率が、2021年には32.5%まで上昇しています。

キャッシュレス化には、多くの課題もありますが、利便性や政府の促進が続くことからも、今後も、さらにキャッシュレス決済比率が上昇していくことでしょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner