配偶者控除は共働きでも受けられる!配偶者控除の要件について解説

[取材/文責]奥谷佳子

政府が推進する「働き方改革」によって、職を持つ女性の割合が増えており、女性の就業人口は今後も増加すると予想されます。配偶者の所得が増えたときに影響するのが、所得税の「配偶者控除」「配偶者特別控除」です。今回は、夫婦共働きの家庭で配偶者を控除対象とすることができるかについて解説します。

「配偶者控除」「配偶特別控除」とは何か?

配偶者控除は所得税における「人的控除」の一つ

誰もが生計を立てるために仕事をして収入を得ますが、税法では仕事をすることで得た儲け、すなわち「所得」に対して所得税が課税されます。所得税は納税者が誰であっても、所得金額に対して一定の割合を乗じて計算されます。しかし、納税者によっては独身者もいれば大勢の家族を養っている方もいます。配偶者の方が専業主婦をしているケースや、生計を立てるために配偶者も共働きをしているケースなど、納税者本人の家庭事情は様々です。

所得税法では、こういった家庭事情の差から生じる経済的負担を考慮し、扶養する親族が多い家庭については所得金額を抑える措置をとっています。これは「人的控除」と呼ばれ、具体的には、次のようなものがあります。

  • 配偶者控除、配偶者特別控除
  • 扶養控除
  • 障害者控除
  • ひとり親控除、寡婦控除
  • 勤労学生控除
  • 基礎控除

 

扶養する親族が多ければ多いほど、これらの控除を受けやすくなるという仕組みです。

控除を受けると受けないでは大違い

このように「人的控除」にはいくつかありますが、控除を適用した場合、税額にどれくらいの影響があるのでしょうか?所得税の適用税率が5.105%(復興特別所得税含む)の納税者が、一般の扶養控除を受けた場合を例に計算してみましょう。

一般の扶養控除は38万円です。控除を受けることで課税される所得が38万円減少しますから当然、所得税はその分少なくなり、軽減される所得税は38万円×5.105%=19,399円となります。

これを所得税の税率ごとに比較してみましょう。

所得金額 適用税率 軽減される税額
1,000,000円 5.105% 19,399円
5,000,000円 20.42% 77,596円
10,000,000円 33.693% 128,033円

 

同じ一般の扶養控除であっても、所得が高ければ高いほど所得税が軽減される金額が多くなることが分かります。また、人数が増えた場合でも同じ割合で軽減されますから、扶養する親族が多ければ多いほど軽減される所得税は人数に応じて多くなります。同じ所得金額であっても、納税者によって課税される所得税額が異なるのは、このような「人的控除」も一つの要因となるのです。

「配偶者控除」を受けるための要件について解説

「配偶者控除」を受けるための要件とは?

いくつかある「人的控除」のなかでも、配偶者がいる納税者にとって重要なのが「配偶者控除」でしょう。「配偶者控除」とは「人的控除」のなかの一つであり、扶養する親族のうち配偶者に対して適用される控除です。納税者の所得金額に応じて最大で38万円(老人扶養に該当すれば48万円)の控除を受けることができます。

「配偶者控除」を受けるためには、「納税者の所得金額」と「配偶者の所得金額」の2つの要件をクリアする必要があります。 

1.納税者の所得金額

納税者本人の所得金額に応じて、配偶者控除の金額が異なります。また、納税者本人の所得金額が1,000万円を超えると、配偶者控除の適用がなくなりますので注意してください。

配偶者控除額
納税者の所得金額 一般控除対象配偶者 老人控除対象配偶者
900万円以下 38万円 48万円
900万円超950万円以下 26万円 32万円
950万円超1,000万円以下 13万円 16万円

配偶者の方が老人控除対象に該当する場合には、一般控除対象配偶者の控除額に対して、最大で10万円上乗せされます。

2.配偶者の所得金額

もう一つの要件として、配偶者自身の所得金額が重要になります。つまり、稼ぎが多い配偶者については、扶養する経済的負担より稼ぎによる恩恵の方が大きいため、人的控除を適用させる必要がないということです。配偶者の要件は以下の通りになります。

  • 納税者と生計を一にしていること
  • 婚姻関係があること
  • 所得金額が48万円以下であること

 

1.と2.の要件を同時に満たすことではじめて「配偶者控除」を受けることができるのです。

配偶者の所得要件が重要なハードル

「配偶者控除」を適用するとき、特に注意を要するのが「所得金額が48万円以下」という部分です。ここをクリアしないまま「配偶者控除」を適用してしまい、後で税務署から是正を受けるといったことが見受けられます。

ここでいう「所得金額」とは、給与所得は勿論のこと、不動産所得や事業所得、雑所得など、配偶者がその年分で得た全ての所得の合計額を指します。例えば給与所得と事業所得がある配偶者であれば、給与と事業の所得金額をそれぞれ別々に計算し、計算結果を合算して48万円以下の判定をします。

配偶者の場合、「配偶者控除」のほかにも「配偶者特別控除」という特別な控除が用意されていますが、「配偶者特別控除」は所得金額に応じて控除額が細かく変わってくるため、適用する際にはさらに正確な所得計算が必要です。

共働きでも「配偶者控除」は受けられる?

「配偶者控除」の適用に「専業主婦であること」という要件はない

ここまで「人的控除」と「配偶者控除」について解説してきました。では、共働きの夫婦が夫や妻を「配偶者控除」の対象とすることはできるのでしょうか?結論から言えば、前章で解説した要件さえ満たせば控除対象とすることができます。

先にも述べましたが「配偶者控除」の要件は、生計を一にしていて婚姻関係のある配偶者が所得金額48万円以下であることです。「専業主婦・専業主夫であること」「所得を得てはいけないこと」とはうたわれてはいません。つまり、共働きであっても要件さえ満たせば「配偶者控除」の対象となり得ることになります。

例えば、配偶者の方が給与所得を得ていたとしましょう。給与所得の場合、給与所得控除があるため48万円+55万円=103万円以下の収入金額であれば「配偶者控除」の適用を受けることができます。

年末調整で「配偶者控除」を受けるのを失念した場合はどうする?

前段の例のように配偶者の方が給与所得者であり、ある程度正確な所得金額を年末調整の段階で把握することができれば問題はありません。納税者本人の年末調整で「扶養控除等申告書」「配偶者控除申告書」に配偶者の氏名、生年月日、年間の所得金額を記入して会社に提出すれば「配偶者控除」を受けることができます。

しかし、配偶者の方が事業所得や不動産所得などを得ている場合、年間の所得金額を確定させるのに時間がかかるため、年末調整までに間に合わないケースが出てきます。また「配偶者控除」が適用になるギリギリのラインで確定させるのに時間を要するケースも想定されます。

このような場合には、確定申告で「配偶者控除」を受けることができます。

年末調整済みの源泉徴収票をもとに、確定申告書内で配偶者を追加し「配偶者控除」を受ければ人的控除の恩恵を受けることができます。

まとめ

仕事をしていると扶養にはなれない、といったような誤解をしている方もいるかもしれません。しかし、決してそのようなことはなく、要件さえ満たせば誰でも「配偶者控除」を受けることができます。「配偶者控除」に対する知識を習得し、人的控除の漏れがないよう充分注意しましょう。

「配偶者特別控除」についてはこちら↓
【関連記事】:就業促進?配偶者控除・配偶者特別控除の見直し【平成29年度税制改正】

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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