【投資家の視点から解説!】宇宙ビジネスはどの国が覇権を握るか
かつて旧ソ連(現在のロシア)の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンが1961年4月に世界で初めて有人宇宙飛行をしてから、実に62年の月日が経ちました。
近年では、イーロン・マスクが創業した宇宙開発企業スペースXがNASA(米航空宇宙局)とパートナーシップを結ぶなど、米国では多くの民間企業が宇宙ビジネスに参入しています。
また中国も米国を追い越そうと国家をあげた宇宙プロジェクトを進行中です。
そして日本も他国に負けておらず、2020年に小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」の調査終えて、貴重な天体カプセルを大気圏で燃え尽きずに地球に持ち帰る「サンプルリターン」に成功し、現在も情報解析に世界中の注目が集まっています。
日本は東と南に海が広がり、地政学的にもロケットの打ち上げに関して先進国で最も有利な条件が揃っています。
そこで今回は近年の宇宙ビジネスの変遷を辿りながら、今後、宇宙ビジネスはどの国が覇権を握り、どんな投資のチャンスがあるのかを考察したいと思います。
※記事の内容は2023年9月末時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。
2020年クルードラゴン宇宙船の成功はロシア依存からの脱却を意味する
2011年にNASAがスペースシャトルを廃止し、その9年後の2020年に民間ロケットが完成するまでの長い間、米国も日本もロシアの宇宙船ソユーズに賃金を払い「ISS(国際宇宙ステーション)」に行く必要がありました。この9年間、地球とISSの往復には1人につき「8000万ドル(日本円で約120億円)」が支払われており、ロシアから足元をみられる状況が続いていました。
もちろん、こうした状況に対してNASAも無策ではなく、2006年にスペースXとISSへの物資補給のため、打ち上げ機の設計とデモ飛行を行う輸送サービスの契約をしています。
その後、2012年5月に、スペースXのドラゴン宇宙船が民間機として初めてISSへのドッキングに成功します。そして、2020年5月30日には、ドラゴン宇宙船の後継機であるクルードラゴン宇宙船が、民間宇宙機として史上初の有人打ち上げに成功し、ISSへドッキングします。
搭乗した2名の宇宙飛行士はISSに63日間滞在後に無事帰還しました。
こうしたクルードラゴン宇宙船の成功は、ロシア依存からの脱却を意味しており、これは現在紛争中のロシアというカントリーリスクを避けることができたことに加えて、宇宙開発における民間企業の活用が、宇宙ビジネスの進化に必要不可欠であることをあらためて実感する大きな出来事となりました。
近年は宇宙ビジネスでも中国の躍進が目立つ
中国の宇宙ビジネスは米国を追い抜こうと日々進化を続けています。
1970年に人工衛星・東方紅1号の打ち上げに成功し、ソ連、アメリカ、フランス、日本に次いで世界5番目の人工衛星打ち上げ成功国となり、その後も次々と人工衛星を打ち上げています。1980年代末には、気象衛星や通信衛星などの打ち上げにも成功しています。
そして2003年、遂に中国初の有人飛行を神舟5号で実現させました。
有人飛行においてはソ連、アメリカに次いで3番目の成功国となったのです。
特に中国の宇宙開発は目覚ましく、2013年に嫦娥3号が月への軟着陸に成功し、2021年に火星探査機「天問」の着陸船が火星への着陸に成功しました。
また2022年には中国はCSS(中国宇宙ステーション)を完成させています。
このように中国の宇宙開発は国家戦略であり、本気で世界一を獲ることを目指しています。
宇宙ビジネスは日本にも勝機あり
実は日本の宇宙開発における可能性は、大きな機会があるといわれています。
なぜなら、日本が宇宙ビジネスの分野で世界一を狙えるといわれるほどの好条件が揃っているからです。
その最大の理由が、日本には米国や中国などの他の先進国にはない、ロケットの打ち上げに対する地政学的な優位性があるからです。
たとえばロケットを効率的に打ち上げるためには、打ち上げ場所が非常に重要となります。
ロケットの打ち上げは地球の自転を利用して加速するため、打ち上げ方向は東の方角が最適なのです。一方、真西の方角では、同じ能力のロケットを打ち上げることが難しく、打ち上げ可能なロケットの重量がほぼ半分まで落ちます。とはいえ、いくら東の方角が適しているといっても、その方向に広い海がない場合、ロケットの打ち上げは不可能です。
なぜなら、万が一ロケットが市街地などに落下すれば、大惨事につながるリスクがあるからです。こうした地政学的な理由から、欧州の国々は、東側に他国の領土があることから、自国内からロケットを打ち上げることが出来ません。そのため、わざわざ南米にあるフランス領ギアナなどにロケットを移動させて、打ち上げ実験をする必要があり、ロケットの移動時間やコストがその都度必要になります。
その一方、日本には他国にとって羨ましい地の利があります。
島国である日本の東側には広大な太平洋が広がっており、ロケットの打ち上げに関して理想的な条件が揃っているのです。
さらに、日本にはもうひとつの有利なポイントがあります。
通常、独自の人工衛星を事業化したい企業はロケットを所有していないため、宇宙開発企業に打ち上げを依頼します。
こうした需要の受け皿として、スペースXなどの米国の宇宙開発企業はこの需要に応じていますが、実は米国製のロケットには国際武器取引規則(ITAR)という規制がかかっています。
この規制は、ロケットがミサイルに軍事利用に転用されないようにするためのもので、複雑な手続きが必要です。
一方、日本には米国のような規制がないため、複雑な書類が必要ではありません。
そのため、欧州などの非ITAR国はロケットの打ち上げ場所を日本で行いたいという需要が高まっており、日本のロケット需要が今後成長していく可能性が高いのです。
また、世界の宇宙産業市場は年々拡大しており、2040年には110兆円に達するという予測もあります。これは2021年の宇宙産業市場が約42兆円なので、約3倍近くまで市場が拡大することを意味します。
その他にも日本のチャンスとして、宇宙空間に人や物を届ける「宇宙輸送」の供給が不足していることが挙げられます。
これまで、ロシアのロケットが世界の宇宙輸送の約2割を担っていましたが、ウクライナ戦争による経済制裁の影響で多くの国がロシアに頼れなくなりました。
これが、衛星運用企業にとって頭痛の種となっています。
ロシアに対する経済制裁が続く限り、日本に宇宙輸送の依頼が増えるのではないかとみられています。
実際、欧米の衛星運用企業から日本の宇宙開発企業への問い合わせが急増しており、この機会を最大限に活用し、日本は宇宙産業で一気に飛躍する可能性も大いにあります。
日本は、IT分野では米国や中国と比較して遅れをとっている状況ですが、ロケット産業では世界と競り合うことができます。日本の宇宙開発が急成長し、自動車産業の後継として、日本経済を牽引する新たな柱となることが期待されているのです。
今後は宇宙も地球と地続きの経済圏になる
宇宙ビジネスの進化によって、宇宙が地球の地平線上にある経済圏として捉えられています。
これは、宇宙での資源の探査や利用、宇宙観光、通信、気象予測、軍事利用など、多岐にわたる分野での機会が拡大しているためです。
そのため、「宇宙」というブルーオーシャンを巡って国際的な競争が激化しています。
たとえば、米国は長らく宇宙分野でのリーダーシップを保持していますが、NASAをはじめとする公的機関と、イーロン・マスクのスペースXやアマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスのブルーオリジンなどの民間企業の協力によって、大幅なコスト削減を実現しています。
そして、中国は急速に宇宙分野での存在感を高めています。
中国の宇宙計画は国家戦略の一環であり、月面探査や火星探査、CSS(中国宇宙ステーション)を完成させるなど、野心的なプロジェクトに取り組んでおり、米国と競り合っています。
また日本は地政学的な優位性を活かし、宇宙ビジネスにおいて一定の成功を収めていますが、米国や中国との競争においては、より大胆な投資が必要かもしれません。
特に、宇宙輸送の需要が増加するなかで、日本はその市場で一層の成長を遂げる機会があるからです。また、地球観測や環境モニタリングにおいても、日本の技術やデータ解析の能力が評価され、国際的な協力が期待されます。
まとめ
将来の宇宙ビジネスにおいて、覇権を握る国は多くの要因に影響されます。
技術力、国際協力、投資、法規制の柔軟性、リーダーシップなどが、宇宙産業の未来を形作るからです。
現在、米国、中国、日本はそれぞれ独自の強みを持ち、宇宙は新たな可能性が広がるブルーオーシャンであるため、今後も各国に多くのチャンスが待っています。
特に日本は、ガソリン車で培ってきた内燃機関の技術を宇宙産業へスキル移転させることが、日本の宇宙ビジネスにおいて重要な要素となるでしょう。
また、宇宙関連企業が今後次々と上場していく未来が予想されるため、投資家としても近い将来、宇宙への投資に大きなチャンスがやってくることを期待しています。
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