法人事業税の「外形標準課税」とは?課税対象や計算方法を解説

[取材/文責]橋本玲子

法人の所得に対して課税される税金の1つに法人事業税があります。資本金が1億円を超える法人については所得に対する課税の他に、企業が生み出した付加価値や資本金額に課税する「外形標準課税」が適用されます。今回はこの「外形標準課税」について課税対象や計算方法などを解説します。

法人事業税と外形標準課税の関係について解説

法人事業税とは何か?

法人事業税は都道府県が課税する地方税であり、法人に課税される税目の1つです。法人都道府県民税や法人市町村民税が法人税額を課税標準とするのに対し、法人事業税の課税は法人税と同じく「所得」に対して行われるのが特徴です。これを「所得基準」と呼びます。
税率は所得金額に応じた累進課税となっており、適用される税率は各都道府県によって異なります。例えば東京都の事業税率は以下の通りです。

所得金額 税率
年400万円以下の部分 3.5%
年400万円超800万円以下の部分 5.3%
年800万円超の部分 7.0%

 

このテーブルに当てはめて計算した法人事業税額に対して、別途「特別法人事業」が課税されます。適用される税率は、法人事業税と同様に各都道府県によって異なります。例えば東京都の特別法人事業税率は以下の通りです。

特別法人事業税=法人事業税×37%

 

都道府県によっては法人事業税を標準税率を超える超過税率で計算するところもありますが、特別法人事業を計算する際は「標準税率を適用した場合の法人事業税額」を元に計算しなければなりませんので注意してください。

外形標準課税はどこに課税される?

「外形標準課税」では前段で解説した「所得基準」にプラスして「外形基準」である付加価値割と資本割に対しても課税されます。付加価値割とは簡単に言えば給与や支払利子といった形で収益配分した部分を企業規模として判別し、規模に応じて課税するというものです。企業が事業年度内に生み出した利益は、報酬や給与、支払利子や支払地代家賃という形で外部に流出します。付加価値割ではこれらの外部流出分を「なかったもの」として単年度損益を計算し直した「付加価値額」に対して課税します。また資本割は単純に企業の資本金額の大きさに応じて課税するものです。当該事業年度の所得とは関係なく、企業の事業規模(外形)に対して課税することから「外形課税」と呼ばれています。

外形標準課税の対象となる法人について解説

基準となるのは法人の資本金額

「外形標準課税」が適用されるかの判定は、対象法人の資本金額によって行います。具体的には資本金額が1億円超のいわゆる大企業に対して「外形標準課税」が適用されます。ここで注意したいのが判定に用いる資本金額は決算書上の資本金額を指します。資本金に資本準備金を加えた法人税法上の「資本金等の額」と混同してしまいそうですが、「外形標準課税」の適用判定で用いるのはあくまで「資本金額」のみです。したがって、資本金9,000万円+資本準備金5,000万円=資本金等の額14,000万円である企業の場合、資本金が9,000万円なので「外形標準課税」の適用はありません。外形標準課税を逃れるため減資等により資本金を敢えて1億円以下に減額し、法人事業税の負担を減らすスキームも見受けられます。
付加価値や資本金等などは金額が大きくなりがちですから、それに比例して外形基準による税負担も大きくなります。また、これらの外形基準が毎年大きく変動することはあまり考えられず、毎期継続して税負担をしなければならないのも外形標準課税を回避する理由として挙げられます。政府はこの「外形標準課税逃れ」に対して資本金等の額に代わる新たな基準を追加することを検討しているようです。

判定時期は「各事業年度の末日」

では資本金額が1億円を超えるかの判定時期はどの時点で行うのでしょうか。結論から言えば「各事業年度の末日」の時点で判定します。期中において資本金を減資したことにより、期首時点では「外形標準課税」が適用される資本金1億円超の企業が、事業年度末時点で資本金額1億円以下になった場合には「外形標準課税」は適用されません。逆に、期中において増資をしたことにより事業年度末日で資本金額が1億円を超えた場合には、当該事業年度から「外形標準課税」が適用されます。法人事業税の計算をする際には十分注意が必要です。資本金1億円を超える増資を検討している場合には、外形標準課税の適用があることを踏まえて増資の金額を検討することをお勧めします。

外形標準課税の具体的な計算方法について解説

「付加価値割」と「資本割」の計算方法

1.付加価値割

付加価値割とは、企業がその年度内に生み出した単年度損益に収益の配分として支払った額を加えた金額に対して課税するものです。

付加価値割=付加価値額×1.26%

 

付加価値額は以下の算式により求めます。

付加価値額=(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料)±単年度損益※
※単年度損益=繰越欠損金控除前の法人事業税の課税所得

 

なお、単年度損益がマイナスの場合には報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料の合計額から控除することが認められています。

・報酬給与額
役員や従業員に対して支給した報酬や給与、賞与、退職金、確定給付企業年金などの合計額を指します。原則として、法人税で損金算入したものに限ります。

・純支払利子
支払った利子の合計額から受け取った利子の合計額を控除した差額を指します。

・純支払賃借料
支払った地代家賃の合計額から受け取った地代家賃の合計額を控除した差額を指します。

付加価値割は単年度損益に対しても課税されるので、所得割と重複して課税されているような印象を与えます。しかし付加価値割は、利益配分額を含めた企業規模に対して課税するという趣旨であることから、単年度損益を所得としては見ていないということになります。

2.資本割

資本割とは、税務上の「資本金等の額」に対して課税するものです。

資本割=資本金等の額×0.525%

 

ここでいう資本金等の額とは、株主から拠出された金額を指しており、決算書上の資本金額とは異なります。具体的には「資本金」と「資本準備金」を合算したものが「資本金等の額」になります。

資本金等の額=資本金+資本準備金

 

外形標準課税適用の判定で資本金額を用いることもあり、「資本金額」と「資本金等の額」を混同しそうになりますが、外形基準では「資本金等の額」を用いますので注意してください。

「所得割」の計算方法と「特別法人事業税」

「付加価値割」「資本割」の計算が終わったところで、「所得割」を加えた3つの税割合計額に特別法人事業税率を乗じて「特別法人事業税」を計算します。「特別法人事業税」は、かつてあった「特別地方法人税」が令和元年に廃止されたことに伴い創設されたものです。地方法人課税の偏りを是正するのが目的であることから「付加価値割」「資本割」「所得割」とは課税の主旨が少し異なります。しかし、実務上の税額計算や納付は法人事業税と併せて各都道府県に対して行います。特別法人事業税として各都道府県が徴収した税収は一旦国に納められ、人口比を基礎として国が地方に対して特別法人事業贈与税として地方に分配する形をとっています。

まとめ

「外形標準課税」の対象となるのは資本金1億円超のいわゆる大企業ですが、「外形標準課税」を逃れるために資本金額を1億円以下に減資し資本準備金等の他勘定に振替するケースが見受けられます。このような外形標準課税逃れに対する規制も検討されているようですので今後の動向に注意したいものです。

行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。

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