【初心者向け】原油高で注目された「トリガー条項」をわかるやすく解説「凍結解除」が生活に与える影響は?

[取材/文責]マネーイズム編集部

原油相場のさらなる高騰が懸念される中で、与党が「トリガー条項」の凍結解除に向けた検討を開始した、という報道がありました。このトリガー条項とはどういう仕組みで、その扱いは、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか? わかりやすくまとめました。

そもそもトリガー条項とは?

ガソリン税を引き下げる仕組み

「トリガー(trigger)」とは、拳銃などの「引き金」のことです。ひとことで言えば、国民生活に大きな影響があるガソリンの価格が一定の基準以上に値上がりした場合には、自動的にそれにかかるガソリン税を引き下げて(=引き金を引いて)、価格の安定化を図る仕組みがトリガー条項です。導入されたのは、2010年の税制改正時でした。

ガソリン税は、正確には「揮発油税」(国税)と「地方揮発油税」(地方税)のこと。現在の税率分は、揮発油税が1ℓ当たり48.6円、地方揮発油税が同5.2円の、合わせて53.8円となっています。ただし、これは本則税率分(28.7円)に特別税率分(25.1円)を上乗せした「特例税率」です。

トリガー条項が発動されると、今の特別税率分25.1円が課税されなくなります。ガソリン1ℓ当たりの税金が、約54円から約29円に引き下げられるわけですから、価格の引き下げ効果は「かなりある」とみるべきでしょう。

発動の条件は?

では、どんな基準で引き金が引かれるのでしょうか? 指標になるのは、レギュラーガソリン価格の全国平均で、それが「1ℓ160円を3ヵ月連続で超えた場合」に発動されることになっています。その後、同じ指標が「1ℓ130円を3ヵ月連続で下回った場合」には、再び特例税率に戻ります。

トリガーが「凍結」されているのはなぜ?

しかし、現在は、仮に今の基準を満たしたとしても、トリガー条項は発動されません。条項導入の翌年、2011年に発生した東日本大震災の復興財源を確保するため、というのがその理由です。ちなみに、大震災後には「復興特別所得税」(基準所得税額×2.1%)が創設され、2037年までの予定で課税されています。

トリガー条項凍結解除が議論される背景は?

上がり続けるガソリン価格

今回、ある意味復興財源を削ってまでトリガー条項の凍結解除が必要ではないか、という議論が浮上した背景には、政府の想定を超えた燃料価格の高騰があります。資源エネルギー庁の発表によれば、3月14日時点のレギュラーガソリンの店頭小売価格(全国平均、消費税込み)は、1ℓ175.2円で、10週連続で前の週を上回りました。

火に油を注いだ「ウクライナ戦争」

国内のガソリン価格の高騰が、その原料である原油価格の上昇にリンクしたものであるのは、論を待ちません。もともと新型コロナの鎮静化で世界的に景気が回復し、需給がタイトになったことなどから上昇基調にあった原油相場ですが、突然のロシアのウクライナ侵攻が、それに拍車をかけることになりました。

エネルギー大国ロシアからの原油や天然ガスの輸出が、欧米による経済制裁などにより、大幅に削減されるのではないかという思惑の下、2月末には原油の代表的な指標となる米国産WTI先物相場が、2014年7月以来の1バレル100ドルをつけ、3月に入って一時130ドルに迫る局面もありました。その後、いったん急落したものの、3月半ばには再び100ドルラインを突破するという、「乱高下」の状況になっています。

政府の補助金は上限に

このような状況を踏まえて、政府は石油元売りに対して1ℓ当たり5円の補助金を支給していましたが、3月10日にはその額を上限25円に設定し、原油価格の動向に応じて対応していく方針を決めました。ところが、それから2週間しか経っていない17日には、補助額がこの上限25円に達してしまいました。

なお、この政府補助金を織り込んだ小売価格が175円ということは、市場の実勢価格は、2008年の史上最高値(185.1円)を更新していたことを意味します。今回の燃料高がいかに大幅なものなのかが、分かると思います。

ガソリンをはじめとする燃料高は、単に燃料費の家計支出が増えるという話にとどまりません。製造業や農業、漁業、加えて物流などのコストアップにつながるため、すでに食品や日用品を含む幅広い商品の価格に影響が及びつつあります。

トリガー条項凍結解除が与える影響

ガソリン1ℓ当たり25円の減税効果

トリガー条項が凍結解除になれば、ガソリン1ℓ当たり約25円の減税となります。そもそも、ガソリン価格高騰時の対策として導入された条項ですから、その発動による価格引き下げ効果は大きいといえるでしょう。

デメリットもある

「今こそトリガー条項の発動を」という意見が高まるのは当然とも言えますが、一方で簡単に踏み切れない事情、問題点もあるようです。

▼1兆5,700億円の税収減
最大の問題は、税収です。国の試算では、トリガー条項を発動した場合には、国と地方を合わせて1年間で1兆5,700億円の税収減が見込まれています。この間、新型コロナ対策で出費がかさんだ国庫をさらに痛めることになるかもしれません。また、このうち5,000億円は地方の「減収」分。地方自治体の財政にとっては、さらに厳しい状況が予想されます。このような税収の減少は、住民サービスの低下に結びつきかねないこともみておく必要があるでしょう。

▼灯油や重油は対象外
原油高は、家庭用をはじめとする灯油や燃料などに使われる重油の高騰も招いていますが、石油元売りへの補助金支給でカバーされているこれらの燃料は、トリガー条項の対象外です。

▼「買い控え」や「駆け込み」による混乱
皮肉なことに、価格の引き下げ効果が大きな対策であるために、発動前には値下がりを見込んだ買い控えが起こる可能性があります。解除前には逆の現象も予想され、給油所近くに長蛇の列ができるような状況になるかもしれません。燃料の安定的な配送も懸念材料となっているのです。

▼「脱炭素」に逆行?
地球温暖化対策としての「脱炭素」に向けた取り組みが各方面で進められている中、補助金やトリガー条項発動による化石燃料の「買い支え」が長期化すれば、結果的にそれに逆行しかねない、という指摘もあります。

凍結解除には法改正が必要

政府与党がトリガー条項発動の方針を固めても、すぐに実行できるわけではありません。凍結解除のためには、法改正が必要だからです。必要な場合には速やかに手続きが進められるよう、検討を進めることが求められています。

まとめ

ガソリン税を大幅に引き下げるトリガー条項凍結解除の検討が行われています。生活に直結する燃料高騰を抑制する施策が実行されるのか、議論の行方を注視したいと思います。

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