海外で入院したり治療を受けたりした場合の医療費の扱いについて解説

[取材/文責]奥谷佳子

新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和されたことで、今後海外に行く機会が増えるかと思います。今回は、海外滞在中にケガや病気で治療を受けた際に支払う療養費について、公的保険や税法などの救済措置について解説します。

海外で支出した「海外療養費」について解説

「海外療養費」とは何か?

旅行や留学などで海外に滞在している途中に、不慮の事故や伝染病などで病院に行くケースがあります。海外で病院にかかる場合、原則として海外の社会保障制度を使えません。日本国内のような「1割負担」「3割負担」といった制度はありませんので、全額自己負担することになります。ケガや病気の治療内容によっては予想以上に高額になることもあり、海外に行かれる方は傷害保険をかけてから出国するケースがよく見受けられます。

「海外療養費」に該当するのは、国内における「保険診療」の範囲と同じであり、公的な医療保険制度が適用される範囲の医療行為を指します。

国内でも、美容整形や日常生活を送るにあたって影響のない治療(例:ほくろの除去)などは「保険診療」には該当しません。また、薬事未承認の薬を使った投薬治療や、新しい治療技術も「保険診療」の適用外となるものがあります。

「海外療養費」に該当する支出とは?

海外に滞在中に行う療養としては、次のようなものが挙げられます。

  • 自動車運転中の交通事故により骨折し、3カ月入院した際の入院費
  • 現地で疫病に罹患し、診療を受けた際の診察費
  • 歯痛を現地で治療してもらった際に負担した治療費

上記に挙げる療養は、健康保険や国民健康保険といった公的な保険制度で「保険診療」に該当するものです。特殊な治療や施術でなければ海外療養費に該当すると考えてよいでしょう。

保険診療にあたらない可能性のある代表的な治療は以下のとおりです。

  • 不妊治療
  • 性転換手術
  • 美容整形
  • 歯科治療のうち美容目的のものや矯正目的のもの

 

特に歯科治療では、保険診療外のものが多く見受けられます。例えば、歯を白く見せるための「ホワイトニング」や「セラミック」などは特別な治療として保険の適用外となります。
旅行や留学で海外に行く予定のある方は、出国前にどのような医療行為が「保険診療」に該当するのか?をある程度確認しておくことをおすすめします。

医療費の一部払戻しである「海外療養費制度」について解説

協会けんぽによる「海外療養費」の一部払戻し

「海外療養費制度」とは、協会けんぽの被保険者とその被扶養者が海外で負担した療養費の一部を協会けんぽが負担してくれるという制度です。海外で療養費を支払った後、協会けんぽに「海外療養費支給申請書」を提出し、審査にとおれば負担した療養費の一部を受け取れます。

支給金額は「日本国内で同じ治療を行った」とした場合の金額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から「自己負担額」を控除した残額となります。海外で同じ治療を行った場合、日本国内よりも療養費が割高になるケースがあります。超過した部分については、制度の対象外となりますので注意が必要です。
海外で支払った医療費を「支給決定日」現在の為替レートで円換算を行い支給します。

なお、制度の対象となる療養費は「保険診療」として認められているものに限られます。例えば、国内で保険適用外となっている美容整形費用を支払った場合は制度対象外となります。また、療養を目的として海外に渡航し療養費を支払った場合も同じく対象外となりますので注意してください。

申請期限は「治療費の支払いをした翌日から2年」となっていますので、申請忘れがないようにしましょう。

国民健康保険による「海外療養費」の一部払戻し

自営業の方のように、国民健康保険に加入されている方も「海外療養費制度」を利用することができます。海外で療養費を支払った後、各市区町村に「海外療養費支給申請書」を提出し、審査を受ければ負担した療養費の一部を受け取れます。

支給金額は「日本国内で同じ治療を行った」とした場合の金額から「自己負担額」を控除した残額となります。協会けんぽと同様に、日本国内の標準的な療養費を超過した部分については、制度の対象外となりますので注意してください。

なお、対象となる療養費も協会けんぽと同じく「保険診療」として認められているものに限られます。保険適用外となっている美容整形費用や不妊治療、性転換手術などは制度対象外となります。また、療養を目的に海外に渡航して療養費を支払った場合も同じく対象外となりますので注意してください。

申請期限も協会けんぽと同様に「治療を行った日から起算して2年以内」となっていますので、申請忘れには充分注意しましょう。

「海外療養費」と医療費控除について解説

「海外療養費」には医療費控除の対象となるものがある

納税者本人やその扶養親族が、病院で治療を受けたり入院したりした場合に負担する診療費は、所得税の計算上、控除できます。これを「医療費控除」と呼びます。

実際に「医療費控除」を受ける場合、確定申告書のなかで「医療費控除」の欄に控除額を記載し、所得金額から差し引くという手続きが必要になります(サラリーマンの方が所得税を精算する手続きとして「年末調整」がありますが、「医療費控除」は年末調整では受けられませんので注意してください)。

「医療費控除」には、国内で療養を受けたもの、という要件はありません。つまり、海外で受けた治療や療養にかかる医療費も、国内で「医療費控除」の適用を受けられます。ただし、これは「居住者」である場合に限られます。

例えば、海外旅行中にケガをして海外の病院で治療を受けたとしましょう。居住者である方が旅行先で事故に遭い、ケガをした際に治療費を負担したケースであれば、帰国後、確定申告をすることで「医療費控除」を受けられます。

また、過去に海外で「保険診療」に該当する医療費の支払いをしたにもかかわらず、確定申告をしていなかった場合にも救済措置があります。医療費の支払いをした翌年の1月1日以降5年以内であれば遡って医療費控除を受けられます。これを「還付申告」と呼びます。

医療費控除の対象外となるケースには注意

これに対して居住者でない方、いわゆる「非居住者」である場合、海外で負担した療養費については「医療費控除」の恩恵を受けられません。「非居住者」とは、国内に住所がない方、または継続して1年以上居所を有していない方を指します。具体的には、海外赴任や移住により、住所を海外に移している方などが該当します。

例えば海外に単身赴任している途中で疾患により入院を余儀なくされるといったケースでは、負担した療養費は「医療費控除」の対象になりません。

なお、医療費を負担した方の「住所」の判定について明確な基準は示されていません。客観的事実に基づき判断する、という曖昧な線引きしかありません。判断するポイントとしては、1年以上継続して国内に居住する事実があるか?という点が挙げられます。

国内に家族がいて自宅も建てている、国内で期間を定めず雇用されている等、1年以上居住していることを客観的に証明する必要があります。

まとめ

海外で使った療養費であっても救済措置があることを理解していただけたかと思います。過去の診療費であっても、5年間は還付申告により所得税の還付を受けることもできます。海外で療養費を使ったことのある方は、いま一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

【関連記事】:来たるべき海外旅行解禁に向け、免税について知っておこう

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner