世界長者番付とは?日本の「高額納税者公示制度」が廃止された理由とともに解説

[取材/文責]田中あさみ

アメリカのForbes誌では1年に1回「世界長者番付」を公表しています。性質は異なりますが、日本にも2005年まで「高額納税者公示制度」が存在しました。所得税の高額納税者(1千万円超)を公表する制度でしたが、なぜ廃止されてしまったのでしょうか?本記事では世界長者番付とは、2022年のトップ10、高額納税者公示制度について解説していきます。

世界長者番付とは

アメリカForbes誌「世界長者番付2022」1位はイーロン・マスク氏

世界長者番付とはアメリカの経済雑誌「Forbes(フォーブス)」が発表している長者番付(World’s Billionaires)です。
Forbesでは1986年から「世界長者番付」を公表しており、36年目の2022年はイーロン・マスク氏が1位です。

イーロン・マスク氏は電気自動車企業「Tesla」のCEOで、推定資産は2190億ドル(約26兆9100億円)と言われています。 ちなみに2021年まではAmazon.com の会長ジェフ・ベゾス氏が4年連続で首位をキープしていました。2022年は2位となっています。
3位はルイ・ヴィトンなどLVMHグループの取締役会長兼CEOベルナール・アルノー氏と一族、4位はマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏です。
ベスト10は以下のとおりです。

順位 名前 推定資産 関連企業
1位 イーロン・マスク 2190億ドル Tesla・SpaceXなど アメリカ
2位 ジェフ・ベゾス 1710億ドル Amazon アメリカ
3位 ベルナール・アルノー一族 1580億ドル LVMH フランス
4位 ビル・ゲイツ 1290億ドル Microsoft アメリカ
5位 ウォーレン・バフェット 1180億ドル バークシャー・ハサウェイ アメリカ
6位 ラリー・ペイジ 1110億ドル Google アメリカ
7位 セルゲイ・ブリン 1070億ドル Google アメリカ
8位 ラリー・エリソン 1060億ドル Oracle アメリカ
9位 スティーブ・バルマー 91.4億ドル Microsoft アメリカ
10位 ムケシュ・アンバニ 90.7億ドル リライアンス・インダストリーズ インド

※Forbes「World’s Billionaires List The richest in2022」を基に筆者作成

10位のムケシュ・アンバニ氏はインドの実業家です。天然資源開発を主要事業とするリライアンス・インダストリーズの会長で、同社の株を約50%保有しています。

世界一のお金持ち、やはり創業者が多い?

上記の長者番付トップ10を見ると、電気自動車Tesla社などのCEOイーロン・マスク氏、Amazon創業者で前CEOのジェフ・ベゾス氏など経営者が多いことが分かります。

しかし、世界長者番付の常連ウォーレン・バフェット氏は「投資の神様」とも呼ばれる機関投資家です。同氏が運営するバークシャー・ハサウェイ社は、世界最大の投資会社として知られています。他はほぼ経営者が上位を占めていますので、ウォーレン・バフェット氏は異色の存在と言えるでしょう。

エリア別で見るとトップ10はアメリカが多いですが、10位・11位はインドの実業家、17位は中国最大の飲料会社「農夫山泉」の創業者・鍾睒睒氏がランクインしています。

日本にあった「高額納税者公示制度」はなぜなくなったのか

資産番付である「長者番付」とその性質は異なりますが、かつて日本では、高額納税者を公示する制度である「高額納税者公示制度」があり、税務署が2005年まで公表していました。なぜ廃止されてしまったのでしょうか?

高額納税者公示制度は1947年から2005年まで導入された

高額納税者公示制度は前年の所得を3月末までに申告した人のうち、所得税額が1千万円を超える納税者の氏名・住所・税額を税務署で公示するものでした。

所得税は所得が増えると納税額も増える累進課税ですので、所得税を多く納めた人は「収入(所得)が多い」と推定できます。

納税額を公表することで第三者の監視機能が働き適切な申告を促すという目的で、1947年から2005年まで公示されていました。

著名人では過去に歌手の浜崎あゆみ氏、宇多田ヒカル氏、松井秀喜氏などが上位100人に入っていました。

2005年の最後の発表では、3位に「ユニクロ」などを手がける株式会社ファーストリテイリングの柳井正氏の名前があります。

犯罪や嫌がらせの誘発になること、個人情報保護の観点から廃止に

高額納税者公示制度は2006年に廃止されました。

税制調査会の「2006年度の税制改正に関する答申」で「所期の目的外に利用されている面がある、犯罪や嫌がらせの誘発の原因となっている等、種々の指摘がなされている。また、これに加え、個人情報保護法の施行を契機に、国の行政機関が保有する情報について一層適正な取扱いが求められている。このような諸事情を踏まえ、公示制度は廃止すべきである」との指摘がありました。

個人情報保護の観点や、犯罪・嫌がらせの誘発になることから2006年度の税制改正で所得税法等の改正により廃止されたという経緯があります。

高額納税者公示を避けるために所得税を過少申告した事件も

1997年には、税務署から加算税の賦課を決定された自動車学校の元理事長と妻が「高額納税者公示を避けるために所得税を過少申告した」として訴訟を起こしました。

自動車学校の元理事長らは、確定申告の際に一部の所得を故意に記載せず確定申告書を提出した後に修正申告を行いました。

税務署は過少申告として加算税を納めることを決定・通知しました。
元理事長らは裁判を起こし「高額納税者として公示されると、自動車学校の労働組合との問題が生じて困るという理由で確定申告後に修正を申告した」と述べました。

裁判では自発的に修正申告をしたことが認められ、加算税の取り消しの判決が言い渡されました。

高額納税者公示制度は、個人情報保護などの問題だけではなく経営者にとって不利となる面もあったようです。

ForbesJAPANでは「日本長者番付」を発表

高額納税者公示制度は廃止されましたが、ForbesJAPANでは2018年から国内の個人資産番付である日本長者番付を発表しています。

2022年の1位は株式会社ファーストリテイリングの社長兼会長柳井正氏、2位は株式会社キーエンスの創業者・名誉会長の滝崎武光氏、3位はソフトバンクの孫正義氏です。
国内の資産額上位50人が発表されています。
気になるかたはForbesJAPANで「日本の富豪TOP50」をチェックしてみましょう。

まとめ

Forbes誌の世界長者番付・日本長者番付では、国内外の資産家だけではなく経済情勢を知ることができます。気になるかたは、資産家が経営する企業や業種についても調べてみましょう。

大学在学中に2級FP技能士を取得、会社員を経て金融ライターとして独立。金融・投資・税金・各種制度・法律・不動産など難しいことを分かりやすく解説いたします。米国株・ETFなどを中心に資産運用中。CFP(R)の相続・事業承継に科目合格、現在も資格取得に向けて勉強中。

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