都心のオフィス市場:空室率10年ぶりの高水準、大型ビル供給増が需要に追いつかず

[取材/文責]鈴木林太郎

東京都心では、大型オフィスビルの新規開業が相次いでいますが、在宅勤務の増加や外資系企業の事業見直しにより、オフィスの空室率が6%超と過去10年ぶりの高水準に達しています。一部地域では賃料が約3割下落したところも出てきました。

在宅勤務の普及が東京都心のオフィス市場に影響

都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)ではオフィス空室率が6.4%(2023年8月時点)となっており、過剰供給の目安とされる5%を31カ月連続で上回っています。
2023年秋には森ビルが手がける「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」や「麻布台ヒルズ」が完成予定であり、さらに大型ビルのオフィスが供給されるため、テナント獲得に苦戦するとの見方が有力です。

こうした状況のなか、一部の大手不動産会社は、新しいアプローチを採用しています。たとえば、森ビルは麻布台ヒルズにインターナショナルスクールや予防医療施設を導入し、外資系企業や法律事務所、コンサルティングファームを呼び込むことに成功しました。

三菱地所と三井不動産は、フロアを小規模なセクションに分割し、短期契約を受け入れ、スタートアップ企業や大手企業の新規事業部門を誘致するための施策を実施しています。
現在のようなオフィスビル需要が減っている背景には、在宅勤務の定着が影響しているとされています。東京都の調査によれば、2023年7月時点で都内の企業におけるテレワークの実施率は45%以上に達し、ピーク時の60%からはやや低下しましたが、2020年3月の新型コロナウイルス感染症拡大前の実施率である24%を大きく上回っています。このため、大手企業は出社と在宅勤務を両立させるためにオフィスを集約させているようです。

不動産開発などを手掛ける森トラストの調査によれば、東京23区内で延床面積が1万平方メートル以上のオフィスビルの供給は、2023年に前年比2.7倍の130万平方メートルに達し、3年ぶりに高水準に戻る見込みです。さらに、2025年には141万平方メートルの供給が予定されています。

また、大手不動産企業による大規模オフィススペースの新規供給により、中小規模のビルに対する需要が低下しているエリアも存在します。

不動産サービスを提供しているコリアーズ・インターナショナル・ジャパンによると、品川・港南エリアなど中小規模オフィスが多く存在する地域では、平均賃料(2023年4~6月)が3年前に比べて1坪あたり2万4800円と1万円ほど低くなっています。

テナント賃料の低下によって、これまで都心にオフィスを構えるのが難しかったスタートアップ企業にとっては、都心への移転が可能になるかもしれません。

しかし、賃料の低下が進行すれば、中小オフィスビルにとっては競争が激化し、淘汰が進む可能性もあると指摘されています。なぜなら価格競争となれば、大手不動産会社に有利な物件とテナントが集中することになるかもしれないからです。

米国では、日本よりも高い空室率の状況から、オフィスを住居へ改築する動きもあり、今後日本でも、空室率が一層上昇すれば、同様の動きが生じる可能性が考えられます。

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