国民年金の保険料納付が65歳まで延長される!?厚生労働省が検討を本格化させた制度改定の影響は
政府内で、現在60歳までとなっている国民年金保険料の納付期間を、65歳まで5年間延長する案が浮上しています。報道によれば、厚生労働省の審議会で検証を進め、2024年末までに実施するかしないかを決める予定だといいます。保険料納付期限の延長がなぜ議題に上がっているのか、実施されるとどのような影響が考えられるのかなどについて、現状で明らかになっている点を中心にまとめました。
国民年金の抱える問題
今回の方針案の背景を知るためには、国民年金の仕組みや現状を理解しておく必要があります。簡単におさらいしておきましょう。
2つの公的年金
日本の公的年金制度は、20歳以上の国民全員が加入する「国民年金」と、会社員や公務員が加入する「厚生年金」の2つが柱となっています。厚生年金加入者は国民年金にも加入しているため、国民年金のみの自営業者、非正規労働者などに比べ、多くの保険料を支払い、手厚い給付を受けることになります。
今回、保険料の納付期限延長案が出ているのは、国民年金のほうです。すなわち、実行されれば、影響は幅広く国民全体に及びます。
厚生年金加入者は、60歳を超えても雇用されている限り保険料の納付が継続されるため、国民年金の納付期間延長による追加負担はありません。
吉田健司税理士事務代表 吉田 健司(税理士・CFP)
年金がもらえるのは、原則65歳から
国民年金加入者が受給資格を得た後に受け取るのが、「老齢基礎年金」です。支給は、原則として65歳以降ですが、希望により60歳からの「繰り上げ受給」や66歳以降に受給する「繰り下げ受給」が可能となっています。
なお、要件を満たせば「障害基礎年金」(受給者は国民年金加入者)、「遺族基礎年金」(受給者は加入者の遺族)が支給されることもあります。
老齢基礎年金の受給額は「物価スライド方式」(毎年の物価の変動に応じて見直される仕組み)になっていて、2024年度の受給額は、65歳から受給した場合の満額で月額68,000円となっています。ちなみに2023年度は、同66,250円でした。
満額がもらえるのは、現在の納付期間である20歳から60歳までの40年間、保険料をフルに納めた場合です。納付期間がこれに満たない場合には、その長さに応じて減額されます。
繰下げ受給を選択するとその分年金額が増えますが、選択する人はまだ少ないようです。2022年度で選択した人は、国民年金(基礎年金のみの人)では2.0%、厚生年金では1.3%となっています。
吉田健司税理士事務代表 吉田 健司(税理士・CFP)
少子高齢化がネックに
こうした公的年金は、現役世代が、年金を必要とする高齢の世代を支える仕組みになっています。働く世代が支払う保険料は今の高齢世代のために使われ、自分たちの年金は下の年代の人たちに負担してもらうわけです。
ところが、高齢化で年金の受給者が増える一方、少子化によって支える世代の人口が急速に減っています。このため、現状では1人当たりの保険料の引き上げや、支給額の減額なしには制度の存続自体が危うくなる、という構造的な問題に直面しているのです。
こうした流れの中で表面化しているのが、今回の保険料の納付期間の延長にほかなりません。トータルの保険料負担を引き上げることで収入を増やし、不足しそうな年金支払いの原資を確保しようというわけです。
検討が始まった納付期限延長案とは
将来の受給額は3割減に?
もう少し詳しくみていきましょう。年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額と比較してどのくらいの割合になるのかを示す数値が「所得代替率」です。厚生労働省は、公的年金の将来の支給水準を5年ごとの「財政検証」で点検し、この値が50%を下回らないように調整を図っています。
前回の2019年の検証では、厚生年金のモデル世帯(サラリーマンと専業主婦の夫婦)の所得代替率は50・8%(高成長を見込む中間的なケース)で、それまでより低下するものの、50%は維持できる見通しでした。一方で、国民年金のほうは、受給額が将来的に約3割落ち込む予測が示され、課題の深刻さが浮き彫りになっていました。
「5年延長」の効果を検証
そこで厚労省は、今回の2024年の財政検証では、国民年金の保険料納付期間を現行の「20歳~60歳になるまでの40年」から「65歳になるまでの45年」に延長した場合の効果を試算する方針を固めました。今年夏に検証の結果を公表し、年末までに実施の可否を決める方針だと報じられていますが、ここまでの流れからみて納付期限5年延長は必至、という見方もあります。
このほか、今回の財政検証では、以下の項目についても検証するとしています。
- パートなど短時間労働者の厚生年金加入要件の緩和
- 厚生年金から国民年金への財源振り向け
- 65歳以降の賃金に応じて厚生年金が減る「在職老齢年金制度」の見直し
- 厚生年金で高所得者が支払う保険料の上限引き上げ
パートなど短時間労働者の厚生年金加入要件の緩和については、現在、従業員数101人以上の企業が対象とされていますが、10月1日からは従業員数51人以上の企業で働く場合に加入が義務化されます。今後、企業規模などの加入要件は段階的に撤廃される方向です。
吉田健司税理士事務代表 吉田 健司(税理士・CFP)
保険料納付額は100万円増える
では、この制度改定が行われた場合、私たちにはどのような影響があるのでしょうか?
国民年金の保険料は、2024年度は月額16,980円、2025年度は同17,510円となっています。納付期間が5年間延長(プラス)されることにより、単純計算で保険料の納付総額は、今よりおよそ100万円増えることになります。
一方、受給額のほうは、この改定によって月に数千円増える可能性がある、とされています。
ざっくりいえば、制度が変われば、保険料の支払額は確実に増加。それにより、月々もらう年金額も上積みされる可能性があるものの、どれだけ増えるのかは現状では未定。受け取る年金の総額は、何年受給するかによっても大きく変わってくる――ということになるでしょう。
防衛費や子育て支援をめぐる増税がクローズアップされていますが、年金保険料のアップも、出ていくお金が増えるという点では、増税と変わりません。実質賃金がなかなか伸びない中で、現役世代の家計にとっては、さらに「重荷」が増えることになりそうです。
さらに、仮に今回の制度改定が行われたとしても、国民年金の抱える問題が解決したとはいえないのが、悩ましいところ。公的年金制度の先が見えないだけに、今年からスタートした「新NISA」などを活用して、自助努力で老後に備えよう、という動きがさらに加速するかもしれません。
記事監修者 吉田税理士からのワンポイントアドバイス
国民年金保険料の納付期間延長による負担増には多くの反対があり、2024年7月3日、年金局長は社会保障審議会で見送りの方針を明らかにしました。同日の財政検証結果によれば、前回の検証よりも財政状況が改善したことも背景にあるようです。しかし、少子高齢化を考慮すると、将来的に延長は避けられないと思われます。
中小企業オーナー、個人事業主、フリーランス向けのお金に関する情報を発信しています。
東京国税局で主に法人税調査に27年間従事した後、独立。税理士としてクライアントに直接対応し、個々の状況に合わせて共に問題を考え、解決策を見出すことを大切にしています。また、金融機関に属さない独立系ファイナンシャル・プランナーとして、完全中立の立場でアドバイスを行っています。
事務所公式ホームページはこちら
新着記事
人気記事ランキング
-
「新型コロナ」10万円給付申請に必要な書類は?~申請・給付早わかり~
-
売上半減の個人事業主に、100万円の現金給付!中小企業も対象の「持続化給付金」を解説します
-
「新型コロナ」対策で、中小企業の家賃を2/3補助へ世帯向けの「住居確保給付金」も対象を拡充
-
「新型コロナ」対策でもらえる10万円の給付金には課税されるのか?高所得者対策は?
-
法人にかかる税金はどれぐらい?法人税の計算方法をわかりやすく解説
-
新型コロナで会社を休んでも傷病手当金がもらえる!傷病手当金の税金とは
-
増税前、駆け込んでも買うべきものあわてなくてもいいものとは?
-
法人が配当金を受け取った場合の処理方法税金や仕訳はどうなる?
-
【2024年最新版】確定申告と年末調整の両方が必要なケースとは?
-
もしも個人事業主がバイトをしたら?副収入がある場合は確定申告が必要