
「小規模企業共済」という節税術
「小規模企業共済」を活用すると、掛金が全額所得控除の対象となり、大幅な節税が可能です。さらに、共済金を受け取る際にも税制優遇があるため、老後資金の確保にも役立ちます。
本記事では、小規模企業共済等掛金控除を活用した具体的な節税対策を詳しく解説します。将来の資金を準備しながら、今の税負担を軽くしたい経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
小規模企業共済とは
小規模企業共済とは、個人事業主や会社の役員などが、廃業や退職時に共済金を受け取れる制度です。小規模企業の経営者向けの退職金制度と考えると分かりやすいでしょう。
加入要件
小規模企業共済の加入要件は以下の通りです。
- ・常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主や会社役員
- ・事業に従事する組合員が20人以下の企業組合、協業組合、農事組合法人の役員
- ・個人事業主の共同経営者(1人の個人事業主につき最大2人まで)
掛金
掛金は月額1,000円から7万円まで、500円単位で自由に設定可能です。また、掛金は半年払いや年払いにも対応しています。
掛金は増額・減額が可能ですが、減額の場合は事業経営の著しい悪化など、特定の条件を満たす必要があります。なお、掛金は全額が所得控除の対象となり、大きな節税効果が得られます。
加入手続き
小規模企業共済への加入手続きは、中小機構の委託団体(商工会議所、商工会など)や金融機関(銀行、信用金庫など)を通じて行えます。また、オンラインでの手続きも可能です。
手続き方法については、(独)中小企業基盤整備機構の共済サポート Naviで詳しく解説しています。
共済サポート navi「小規模企業共済 加入申込手続きナビゲーター」
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済には、掛金の範囲内で低金利の貸付制度を利用できるメリットもあります。貸付制度には複数の種類があり、それぞれ利用条件や金利が異なります。小規模企業の経営者にとって、状況に応じて有効な資金調達手段となるでしょう。
詳しくは中小機構のウェブサイトをご確認ください。
共済サポート navi「共済契約者貸付 | 小規模企業共済」
小規模企業共済の節税メリットは次の項目で詳しく解説します。
小規模企業共済の節税メリット
小規模企業共済は、経営者向けの退職金制度としての役割だけでなく、以下のような節税メリットを享受できます。これらのメリットを活用することで、税負担を軽減しながら効率的な資産形成が可能です。
節税メリット1 掛金が全額所得控除になる
小規模企業共済の掛金は、毎月全額が所得控除として認められ、確定申告で「小規模企業共済等掛金控除」として所得金額から差し引けます。
例えば、月額3万円の掛金を支払っていた場合、年間36万円(3万円×12ヵ月)が所得から控除され、所得税や住民税の節税が可能です。
個人事業主の場合、所得税の税率は5~45%で、所得金額に応じて節税額が異なります。仮に所得税が20%、住民税が10%の場合だと、節税額は以下の通りです。
36万円(年間掛金)×30%(所得税20%+住民税10%)=10万8,000円 |
このように、小規模企業共済を活用することで、税負担が軽減されることが分かります。
掛金の上限である月額7万円を掛けていた場合、年間84万円(7万円×12ヵ月)が所得から控除され、所得に応じて節税額は次のようになります。
掛金(年額) | 税率(所得税率+住民税率) | 節税額 |
---|---|---|
84万円 | 20% | 16万8,000円 |
84万円 | 30% | 25万2,000円 |
84万円 | 33% | 27万7,200円 |
84万円 | 43% | 36万1,200円 |
この節税額は、あくまで一例としての概算結果です。実際の節税額は、所得金額や税率、控除内容などによって異なります。また、税制変更や個々の状況によっても影響を受けるため、詳細は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
節税メリット2 受取時も税制優遇が受けられる
小規模企業共済は、共済金を受け取る際にも税制優遇が受けられる点が大きなメリットです。毎年の税負担軽減だけでなく、共済金受取時にも税制優遇を享受できます。
共済金の受け取り方には、「一括」「分割」「一括と分割の併用」があり、一括で受け取ると「退職所得」として扱われます。
退職所得は、以下の計算式で算出されます。
(収入金額(源泉徴収前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額 |
共済金から一定額が控除され、さらに1/2になるため、税負担の大幅な軽減が可能です。
例えば、月額7万円の掛金を30年間掛けた場合、年齢や勤続年数により控除額は異なりますが、仮に退職所得控除額を1,500万円(30年間の勤続年数を基準にした例)とすると、退職所得の金額は以下のようになります。
退職所得 =(2,520万円 − 1,500万円)× 1/2 = 510万円 |
この場合、2,520万円の共済金から、退職所得控除と1/2課税の優遇措置を適用できるため、合計2,010万円が非課税となります。
その結果、課税対象となるのは510万円のみとなり、大きな節税メリットが得られることが分かります。
この節税額はあくまで概算の一例です。 実際の金額は、税務署や税理士に相談することで、より正確に把握できます。
節税メリット3 節税しながら老後資金を積み立てられる
節税しながら老後の生活に必要な資金を積み立てられることは、小規模企業共済のメリットです。個人事業主や小規模企業の経営者は、会社員のような退職金制度がないことが多いため、自ら老後資金を準備する必要があります。
小規模企業共済は、そうした経営者にとって有効な制度の一つです。毎月の掛金が全額所得控除の対象となるため、税負担を軽減しながら効率的に老後資金を積み立てられる点が大きな魅力といえるでしょう。
節税メリット4 相続税対策としても活用できる
小規模企業共済の契約者が亡くなった場合、相続税対策としても活用できる点もメリットの一つです。
小規模企業共済の共済金は、相続時に相続税の対象となる「みなし相続財産」として扱われます。しかし、一定の要件を満たせば「退職手当金」として認められ、非課税部分を控除した金額が課税対象となるため、同額の現金を相続する場合よりも税負担を大幅に軽減できます。
さらに、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠を活用できるため、共済金の一部または全額が非課税になるケースもあります。 例えば、法定相続人が3人いる場合、共済金のうち1,500万円(500万円×3人)までが非課税となり、相続税の負担を抑えることが可能です。
なお、小規模企業共済と生命保険金の非課税枠は別枠で適用されるため、両方に加入していれば、より大きな節税効果が期待できます。
事業承継や相続対策として小規模企業共済を活用することで、税負担を軽減しながらスムーズな資産継承を実現できるでしょう。具体的な適用条件については、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
小規模企業共済の注意点
小規模企業共済は節税メリットがある反面、デメリットも存在します。小規模企業共済に加入する際は、以下の点に注意しましょう。
注意点1 途中解約時のリスクを理解する
小規模企業共済に加入し、12ヵ月未満で任意解約をすると、解約手当金は支給されず、掛け捨てになってしまいます。もし、掛金の上限の月額7万円を11ヵ月間掛けていた場合だと、途中で任意解約すると77万円は戻ってきません。
また、12ヵ月以上掛けていた場合でも、掛けていた金額より受け取る金額が少なくなる場合もあります。
毎月の掛金を高額にすると、毎月掛金を支払うのが負担になり、任意解約をしてしまうことがあります。掛金は月額1,000円から500円単位で自由に設定できるため、無理のない範囲内で設定することが大切です。
掛金の減額も可能ですので、支払いが難しいと感じたら、減額することも検討しましょう。
注意点2 元本割れのリスクに備える
掛金納付月数が20年(240ヵ月)未満で任意解約すると、解約金は元本割れするので注意が必要です。
ただし、法人の解散や廃業、65歳以上で退任した場合、契約者が死亡した場合などは、元本割れしません。元本割れするのは、自己都合での任意解約や、12ヵ月以上掛金を滞納した場合などに限られます。
元本割れのリスクに備えるためには、毎月の掛金を無理のない範囲内で設定することが大切です。毎月の支払いが難しくなってきたときには、掛金を最低金額の1,000円に変更することをおすすめします。ただし、掛金を減額すると、将来の共済金受取額が減る可能性があることに注意が必要です。
また、小規模企業共済には低金利の貸付制度があるため、必要に応じて貸付制度を利用することでも、任意解約を避けられます。ただし、貸付制度を利用する場合は、返済計画をしっかりと立て、無理のない範囲で借り入れを行いましょう。
この節税術に必要な心構えとは
小規模企業共済は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)という国の機関が行っている共済制度であり、信頼性や安全性は高いといえるでしょう。
節税しながら老後の生活に必要な資金を積み立てられ、低金利の貸付制度を利用できるなど、小規模企業の経営者にとっては非常に魅力的な共済制度です。ただし、小規模企業共済は、あくまでも経営者の退職金制度であることを理解しておきましょう。
注意点として、無理のない掛金設定が大切です。税制優遇を受けるために掛金を高額に設定したいと思うこともあるかもしれませんが、無理をして支払いが難しくなってしまうと任意解約や元本割れなどのリスクが顕在化します。
掛金は月額1,000円から自由に設定できるため、自分の生活に合わせた適切な金額を設定し、いつでも柔軟に変更できることを理解しておきましょう。掛金の減額も可能ですが、将来の共済金受取額が減る可能性があることに注意が必要です。
小規模企業共済は長期間の積立を前提とした制度です。短期的な節税メリットだけを追求するのではなく、長期的な観点で焦らず着実に資産を積み上げることを心がけましょう。
節税術を最大限に活用するためには、税理士などの専門家に相談することが大切です。税法や税制は年々変わることもあり、最新の情報や最適な運用方法についてアドバイスを受けることで、リスクを避けつつ最大の効果を得られます。