法人の資産運用は、「出口」を明確にすること 本業を忘れないことが大事【前編】 | MONEYIZM
 
税理士法人レガフィット パートナー・社員税理士 川名雅斗氏

法人の資産運用は、「出口」を明確にすること
本業を忘れないことが大事【前編】

税理士法人レガフィット パートナー・社員税理士 川名雅斗氏
公開日:
2024/08/28

資産運用に対する関心が高まる中、法人が事業戦略として取り入れるケースも増えている。では、中小企業オーナーが実際にできること、やるべきことには、どのようなものがあるのだろうか?数多くの経営者と月次監査で向き合い、さまざまな相談に乗ってきた税理士法人レガフィットの川名雅斗パートナー・社員税理士に、そのポイント、注意点などについて聞いた。
記事では、「前編」で法人の資産運用の基本的な考え方や、やるべきことについて、「後編」で運用を成功させるための注意点などを中心に、話をうかがった。

法人の資産運用は「ローリスク」が基本

――最初に貴社の概要をお聞かせください。

川名(敬称略)法人を設立してからは4期目で、所属メンバーは7名、うち税理士は3名という体制です。事務所の収益の柱は顧問業で、毎月お客さまのところに足を運んで、数字をチェックさせていただく月次巡回監査を基本にしています。その対象が現在100件くらいで、そのうち90%が法人、残りが個人のお客さま、というイメージです。

 

クライアントの業種などには特にこだわりはなく、多種多様な業種があります。規模もさまざまですが、年商1億円~5億円、従業員10名前後の法人が最も多くなっています。

――本日は、「法人の資産運用」について、うかがっていきたいと思います。

川名わかりました。まず、法人といってもいろいろありますが、我々が日々お手伝いをしているのは、「株主と、経営者が一致している中小企業」ですので、それを前提に、私の考えをお話しさせていただきます。

 

一般論でいえば、法人が資産運用をしようとする場合、「ローリスク」が基本の考え方になるでしょう。勝負をかけてキャッシュが消滅するような事態は、あってはならないことですから。その点は、個人なども変わらないのですが、社会や地域への影響力が大きく、従業員も抱える企業の経営は、何よりも継続性が求められます。当然、投資して得るものも「ローリターン」になることが多いと思います。

――そこは、ある程度割り切って考えることが必要だということですね。

川名新しいNISA(少額投資非課税制度)が始まったこともあって、世の中では投資、資産運用がブームになっていますよね。でも、短期間に安全・確実に儲かる方法があれば、それこそみんながこぞってやっているはずです。そもそも法人が税制面で有利にお金を増やせるような仕組みは、基本的にないと思ってください。私が知り得る限り、課税の繰り延べです。

通常、個人が株式投資などで得た利益は、申告分離課税(※)になります。法人の場合は、売却すれば売却益に対して法人税が課税となりますし、売買目的で上場株式などを持っていれば、決算期に含み益に課税されたりもしますから、気をつけなくてはなりません。

※申告分離課税 給与など他の所得とは区別して税額を計算し、確定申告により納税する課税方法。株式などの譲渡所得には、年間の譲渡益の合計に対し20%(所得税15%、住民税5%)の税率が適用される。

自分の「リスク対策」が出発点になる

――「顧客に対しては月次監査が基本」とおっしゃいましたが、その際、資産運用の相談を受けることはありますか?

川名経営の話をする中で、話題になることはあります。例えば、「コンサルに海外不動産への投資を勧められたのだけど、どうだろうか?」とか。会社の状況をみながら、こちらから必要だと思われるものを提案することも少なくありません。

――中小企業にとっては、具体的にどんなことが必要になるのでしょう?

川名第一に考えなくてはならないのは、社長自身のリスク対策だと思うんですよ。経営者が突然いなくなったら、残された従業員や家族はどうなるのか。不測の事態に備えて、死亡保険に入っておく。事故や病気で働けなくなったときのことを考えて、必要な保障をカバーしておく。そのようにして、まずは将来のリスクを埋めるわけです。

 

この場合、会社が契約して保険料を支払い、被保険者である社長に万一のことがあった場合でも経済的に困らないように、残された人が保険金を受け取る形になります。どんな場合に、いくらくらい必要になるのかは、会社の規模や状況、社長の家族構成などによって異なるでしょう。そうした点を個別に検討していくことで、加入すべき保険や保険料の金額が決まります。

――なるほど。会社が保険に加入して将来に備えるというのも、立派な資産運用なのですね。

川名その通りです。そうやってリスクを埋めたら、私が次に検討を提案するのは、社長本人や従業員の退職金の原資の確保です。例えば、今お話しした死亡保障が掛け捨てになっている場合、「65歳以上で解約返戻金がピークを迎えるような、積み立て系の保険に切り換えたらいかがですか」とアドバイスしたりもするんですね。当然、保険料負担は増えますが、そうやって老後の生活についての不安を取り除いておくことには、大きな意味があります。

 

中小のオーナー企業の資産運用は、まずは以上のような会社や従業員、自分自身の将来に対する備えを目的としたものを考える。事業が軌道に乗り、そこからさらに資金的な余裕が生まれてきたら、その段階で“プラスα”の何かをやるかやらないか検討する、という順番だと思うのです。

――必要なものからお金を振り分ける、というイメージですね。

川名なお、リスク対策という点で、取引先事業者の倒産に備える「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」や、小規模企業の経営者や役員などのための積み立てによる退職金制度である「小規模企業共済制度」などへの加入も、優先的に検討すべきでしょう。

長期戦略で「出口」を考えておく

川名いずれにせよ、会社のお金を何かで運用するなら、「出口」がどうなるのかを明確にしておくことが大切だということ。このことは強調しておきたいと思います。

資金が余ったからとりあえず何かに投資しよう、という発想で始めると、結果的に「火傷」を負うかもしれません。もちろん、運よく大儲けできる可能性をすべて否定はしませんが(笑)。

――「出口」というのは?

川名例えば、節税のために資産運用を考える経営者も少なくありません。ただし、当座の節税にはなっても、実際には課税の先送り=「繰り延べ」になっているだけのケースが多くあります。さきほどの保険の活用でも、法人が支払う保険料は経費になり、法人税の節約につながるものの、返戻金を受け取った際には、雑収入として課税されることになるわけです。

 

しかし、それがまったく無意味かというと、そうでもありません。その返戻金を退職金の支払いに充てるよう設計しておけば、収入と損失で“プラマイゼロ”になり、法人税が発生しないようにすることもできるんですね。そういうことも含めて、出口戦略をはっきりさせておきましょう、ということです。

――そのように考えれば、何のために資産運用するのか、という目的もよりはっきりするように感じます。

川名そうですね。さきほどNISAの話をしましたが、今年8月初めに急に為替が円高に振れて、株価が暴落したために、新しく始めた人たちが大きく動揺した、というニュースがありました。でも、NISAは何十年か先の老後資金をつくるのが目的ですよね。だったら、始めて半年ぐらいであたふたするのは、おかしいと思うのですよ。

――デイトレードではないのですから。

川名基本的には、投資は長い目で見てどう運用していくのか、というスタンスで臨むものです。経営者が短期的な変動に一喜一憂していては、事業の運営に影響が出かねないでしょう。

 

株式投資などには、結果的に元本割れなどのリスクがあります。保険金や返戻金の支払いがが確約されている保険などとは、違うのです。一般の人や法人が、大きなリスクを負いながら、「100か0か」のような勝負をしたりする必要はないのではないか、というのが私の基本的な考えです。

“プラスα”の資産運用は、ケースバイケース

――では、さきほどおっしゃった“プラスα”の資産運用には、どのようなものが考えられますか?

川名一般的には、投資にはリスク分散のメリットがあります。例えば、不動産はインフレの影響を受けにくい資産です。賃貸物件を購入し、子どもなどのために残すというのは、資金的な余裕があれば、検討の余地があるでしょう。

 

相続対策などとして、資産管理会社をつくるのが有効な場合もあります。資産管理会社は、不動産や株式などの資産を所有・管理することを目的として設立する法人です。例えば、資産管理会社をつくって社長の不動産を買い取り、不動産収入が資産管理会社に入るようにします。同時に資産管理会社の株主や役員を子や孫にしておけば、彼らに役員報酬という形でお金を渡す(支払う)ことができます。また、不動産の所有者が法人となるため、相続の心配がなくなります。

 

通常、年間110万円を超える財産を家族に渡すと、贈与税が発生しますが、役員報酬は贈与税の課税対象ではありません。役員報酬に課税されるのは、贈与税よりも税率が低い所得税や住民税です。そのため、資産管理会社を活用すると、贈与税を気にせずに資産を移していくことが可能になります。

 

当社の顧客で、本業で欠損金を抱えていた一方、個人でやっているFX(外国為替証拠金取引)や株式投資では利益を上げていた社長がいらっしゃったんですね。このケースでは、株などを資産管理会社の所有にして、その利益と本業の欠損金を相殺する、という提案をしました。

――資産管理会社というのは、いろいろな使い方ができるわけですね。

川名ただし、これらはあくまでも1つの例にすぎません。資金に余裕がある場合の資産運用についても、やはり会社や社長の現状、将来設計などによってケースバイケースと言うことができるでしょう。一般論で「これがいい」というのは困難なんですよ。

――オーダーメイドの世界です。

川名まさにそうです。だからこそ、的確なサービスを提供するためには、社長の話をしっかり聞いて、ニーズや置かれた状況をきちんと把握することが必要になるわけです。

 

「後編」では、法人の資産運用の成功のカギはどこにあるのかについて、引き続き話をうかがいます。

税理士法人レガフィット パートナー・社員税理士 川名雅斗氏
「毎月の月次巡回監査」「お客様ごとにオーダーメイドのサービス」「法務・労務・登記などもワンストップで解決」にこだわり、信頼できるパートナーとして、企業の成長を全力でサポートするプロフェッショナル集団。税務・会計だけではなく、経営支援、創業支援、相続・事業承継まで経営者のお悩みに幅広く対応する。
URL:https://www.legafit.co.jp/
取材:マネーイズム編集部、撮影:世良武史