法人の資産運用は、「出口」を明確にすること
本業を忘れないことが大事【後編】
- 公開日:
- 2024/09/04
前編は【こちら】
「何もしないリスク」もある
――法人の資産運用に関して、印象に残る事例はありますか?
川名当社が設立から日が浅いこともあり、長期の目線に立って、将来に対する安心を今買っていただいている、という段階のお客さまがほとんどなので、「これをやって成功した」という話は、正直あまりないんですよ。反対に、明らかな「失敗」に遭遇したことはあります。
先代社長が急に亡くなったのですが、お子さんはサラリーマンをやっていて、会社を引き継げる状況になかった。そこで、そこの従業員だったお孫さんが、急遽事業を承継した、というパターンでした。
――それだけでバタバタした状況が伝わってきます。
川名会社の年商は、数億円ほどで、事業は赤字基調。なおかつ会社には、先代が亡くなったときに、年商を上回る金額の借金がありました。
一番の問題は、そんな状況にもかかわらず、先代が事業承継の準備を何もしていなかったことなんですよ。前編で説明した共済制度や保険への加入なども、まったく眼中にありませんでした。結果的に、新社長は大きな借金を抱えた赤字会社をいきなり任されることになってしまったわけです。
――マイナスからのスタートというのは、辛いですね。
川名先代は、目先の事業に懸命で、将来への備え、後継者のケアが疎かになってしまったのかもしれません。しかし、そのツケは大きかった。当社のクライアントになったのは、代替わりしてからなのですが、もし先代に会えて、会社の状況を把握していたら、次に引き継ぐ段階で後継者の負担を大幅に軽減できたような対策を提案できたはずです。実行していれば、状況はまったく違ったでしょう。
――資産運用によるリスク対策の大事さが、実感できる事例だと思います。新社長が承継した後、会社はどんな状況なのでしょう?
川名引き継いだ会社は、案の定、粗利の管理なども大雑把でした。先代が腕を振るった昭和の経済成長期やバブル期だったら、とにかく営業して売上を出せば、ある意味経営は成り立ったのです。でも、パイが限られた中で利益を積み上げていかなければならない今は、営業力だけでなく管理する能力がないと、勝ち残っていくことは難しい。
ですから、まずは数字の管理をしっかりやりましょう、とアドバイスして、経営改善に取り組みました。その結果、数年で事業はなんとか黒字に転換することができたんですね。とはいえ、背負っている借金は莫大ですし、今の社長には早めにリスク対策を講じるように、保険などの提案を行っているところです。
――会社を受け継いだ以上、先代と同じミスを繰り返すわけにはいきませんね。
川名会社の経営は、今がよければいいというものではありません。放っておけば、会社も歳を取ります。世代をつないで循環させていくためには、何度もいうように将来を見据えた準備は不可欠で、保険などを活用した資産運用は、いわばその武器といえます。
自社について勉強する
――資産運用に関するセミナーなども花盛りです。武器を使いこなすために、経営者ももっと勉強すべきなのでしょうか?
川名知識があるに越したことはありませんが、金融商品そのものについて、そんなに詳しくなる必要はないでしょう。そういうことは、本当に詳しい人に説明してもらえばいいですから(笑)。私が経験上思うのは、むしろ勉強すべきなのは、自分の経営する会社についてではないか、ということです。
――裏を返すと、自分の会社のことを十分理解していない経営者が少なくない。
川名ほとんどの社長は事業のことで頭がいっぱいですから、無理もないと思うのです。でも、さきほどの粗利の話のように、ある程度会社の状況をわかっていないと、必要なことが見えてきません。
将来どんな備えが要るのかと同時に、自分の“お財布事情”を正しく理解するのも大事ですね。事業がずっと赤字なのに、高い保険にいくつも入っているようなケースにも出会ったことがありますが、それでは本末転倒です。
――将来に備える前に、会社がなくなってしまうかもしれません。
川名なにか特別なことをしましょう、と言っているわけではないんですよ。毎月、自社の数字と向き合うだけで、例えば月当たりの運転資金がどれだけ必要なのかがわかります。そうすれば、余剰資金も見えてくる。その中から、どれくらいを運用に回せるのかも、明確になるわけです。
あらためて法人の資産運用で考えるべきこと
――ここまでのお話の中にもありましたが、あらためて法人が資産運用を行う際の心構え、注意点を挙げるとすると、どんなことになるでしょう?
川名当然ながら、本業あっての投資、資産運用であることを忘れないようにしてほしいと思います。まずは、毎期の黒字を確保する。そして、会社にお金が貯まったら、さらなる事業の成長のために、どんどん設備や人などへの投資を行っていく、というのが経営の大原則です。
そのうえで、事業に投資した後も会社に余剰資金が潤沢にあって、将来の備えも万全というのならば、極論すれば、何をやってもいいでしょう。反対に、リスク対策などのための資金が不足するならば、どうやって確保するのかを考える必要があると思います。いずれにせよ、この順番を間違えないようにしましょう、ということです。
そうした資金の状況を正確に見ていくためには、自分の会社をどんな姿にしたいのか、事業承継はどうするのか、といった将来に向けた計画作りも大事になります。
――それによって、事業への投資額なども変わってくるわけですね。
川名そうです。例えば、当社も直近10年で20名規模の事務所にしたい、というプランを持っていて、そこまでに必要な売上やコストを計算しています。それを年単位、月単位とかに落としていくと、さきほども述べた毎月使える金額などが明確になるわけですね。
そのように詰めていって実感したのは、実は資産運用などに回せる余裕は限られている、ということです。これからのことを考えれば、怖くて無駄遣いはできない、ということもリアルにわかってきました。
――おそらく、多くの中小企業は同じような状況なのではないでしょうか。そうした実情を理解する意味は、やはり大きいと感じます。
法人の資産運用は顧問税理士に相談すべき理由
――とはいえ、おっしゃるように多くの中小企業経営者は多忙で、資産運用については「素人」です。アドバイスを受けるとしたら、誰がいいのでしょうか?
川名最初の窓口としては、顧問税理士一択ではないでしょうか。自分がその立場にあるからというだけではなく、客観的に見て最適任だと思うからです。
顧問税理士は、担当する会社や社長の財布の中身を、誰よりもよく知っています。ずっとお話ししてきた投資の余力や、将来考えられるリスクなどについても熟知しているはずです。
例えば、飛び込みで来た保険会社のセールスマンには、商品の説明はできても、社長のニーズに即した話をするのは困難でしょう。まずは、会社の内側をわかっている人に相談してみるべきです。
――あえていえば、顧客と税理士の関係もさまざまで、先生がそこまで深入りしていないケースもあると思います。
川名個人的には、それは非常にもったいない話だと思います。会社の生の数字は、まさに“宝の山”で、そこからいくらでも仕事が生まれますから。
現実問題として、顧問税理士に資産運用の話をしても納得できるアドバイスが受けられない場合には、別の専門家を探してみましょう。
――今回は、法人の資産運用の必要性、注意点などについて貴重なお話をいただきました。最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
川名経営者の最良のパートナーになるというのが一番の目標で、2代目、3代目と顧問契約を続けていけるというのが、私たちの夢なのです。そのためにも、泥臭く、親身のサポートを継続していきたいですね。それをやれば、売上などの結果は自ずとついてくると思っています。
――ますますのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
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