不動産の絡む相続税申告 円滑に進めるには
「トータルで見る」視点が必要になる【後編】
- 公開日:
- 2024/09/19
前編は【こちら】
分けにくい不動産をどう分けるのか
――相続財産に不動産がある場合、価値が明確で割り切れる現金などと違い、その分け方が問題になることが少なくありません。できるだけスムーズに分割を行うために、必要なことは?
表谷まず前提として、私たちは弁護士ではありませんので、遺産分割で争いが発生した場合、それをまとめるようなことはできません。ただ、揉めているわけではないけどどう分ければよいか迷っているという方は多く存在します。そのような場合は、時間をかけてお話を聞かせていただきます。相続人の皆さんもお話をする中で「こうしたい」という考えがまとまってくるものです。そうなるまで粘り強くお話を聞かせていただくというスタンスでやっています。
そのうえで、どう分けるかについては、ケースバイケースというのが、「正解」だと思います。例えば、複数ある収益物件をどう分けるのかで悩んでいる、先祖代々の土地は長男に譲りたいが、他にこれといった財産がない――など、置かれた状況はさまざまだからです。不動産以外の相続財産、特に現金がどれだけあるかも重要な点です。
――現金があれば、それで調整することが可能です。
表谷よくあるのが、「相続財産は、都内など大都市圏の自宅と現役時代に貯めた預金のみ」というパターンですね。例えば、相続人は長男、次男の兄弟。土地が値上がりしているため、長男に家を相続させると、弟の相続分とのバランスが取れなくなってしまう。
このように、不動産の分割がネックになる相続で選択肢になるのが、現物をもらう人が他の相続人に不足分のお金を支払って分割協議をまとめる「代償分割」や、不動産を売却して現金を分ける「換価分割」、不動産を相続人の共有名義にする「共有分割」です。
――教科書的には、「後々問題になりかねない共有はやめましょう」「家を残したいなら、代償分割という方法があります」という説明をされることが多いように思います。
表谷共有になると、その不動産を売りたいと思っても、名義人全員の合意がないとできません。誰かが亡くなると、子どもなどがその持分を相続しますから、共有者が増えるだけでなく、それぞれの関係も複雑になっていきます。だから、親の不動産を子どもたちの共有にするのは絶対NGだ、というわけですね。
そこで代償分割という話になるのですが、これもよくできたスキームに見えて、誰もが使えるものではありません。さきほどの例でいえば、自宅を相続する兄に代償金を用意できるだけの資金力がある場合、という条件が付くのです。
仮に自宅が4,000万円、親の残した預金が1,000万円だとすると、弟が預金をすべてもらったとしても、兄は1,500万円の現金を渡さないと「公平な相続」にはなりません。兄の生活に余裕がないといった状況では、そもそも無理な相談です。
――実際には、そういうケースも少なくないように感じます。
“共有NG”も、ケースによる
表谷そうなると、やはり「とりあえず兄弟の共有にしておこう」というのが選択肢になるというか、そうせざるをえないこともあるでしょう。
初めにデメリットから説明しましたが、共有分割には、公平な遺産分割がスムーズに行える、という大きな利点があります。私は「とりあえず共有」というのが、いつも悪いとは思わないんですよ。
分け方が難しい不動産は、「争続」の種でもあります。相続税が発生する場合、申告期限は相続発生から10ヵ月しかありません。状況によっては、共有という形で最終的な分割の話をいったん棚上げして、少し時間をかけて着地点を探していくというのも、1つの方法だと思うのです。
――結論を急いだ結果、揉めてしまうよりは、先送りして考えていくほうがいい、ということですね。
表谷不動産の共有を、そのように使うこともできるのです。もちろん、あくまでも棚上げしただけで、デメリットを回避するために、いつかの時点では共有を解消するなり、売却するなりのアクションが必要になります。そこは、共有人が合意の形成に粘り強く努力していくしかないのですが。
――そういうお話を聞いただけで、不動産の相続の難しさが理解できます。
表谷さらにいえば、今のは財産の分け方、要するに「お金」の話です。ただ、特に不動産の相続には、先祖代々の土地を守らなければ、という「気持ち」が大きくかかわってくることもあります。
代償分割は、資金がないから無理。土地を売って現金化すれば、お金の面ではみんなが納得する相続ができるものの、先祖から引き継がれてきた土地を自分の代で手放すわけにはいかない。それで、他の相続人と折り合いがつかず、堂々巡りになったりするんですね。
――そうなると、解決の糸口を見つけるのがなかなか大変そうです。相続人としてはどのように対応すればよろしいのでしょうか?
表谷そうですね。自戒の意味も込めていえば、とかく税理士は、すぐにテクニカルな税金の話を始めがちです。しかし、相続人としては、今のような気持ちの問題も含めてさまざまな要素が絡み合う相続をトータルに見て判断していく、という視点が不可欠だと思うのです。
複雑な相続ほど、答えは1つではありません。相続人としてどうしたいかをしっかり意識する、ほかの相続人の意見もしっかりヒアリングするということも大事になるでしょう。そうした作業を通じて、最善の落としどころを探していく、というイメージでしょうか。総論的な話で、申し訳ないのですが。
――最終的な結論は、やはり個々の案件によって違ってくるということですね。
表谷税理士がこんなことをいうと怒られるかもしれませんが、相続において税金は“枝葉の話”かな、と考えるんですよ。もっと大事なのは、家族のつながりとか、今の先祖代々の土地に対する思いだとか。繰り返しになりますが、そういうものをトータルにすくい上げて、できる限りみんなが納得できる方策を考えるのが相続人としては大事なことになると思います。
遺言書は「漏れなく書く」ことが大事
――自分の思いを実現するためにも、生前の対策が重要になりますね。
表谷相続が発生したらまず遺言書を探す、という話をしました。逆にいえば、親は遺言書を残すべきです。自らの意志を実現すると同時に、手続きをスムーズに進め、子ども同士の無用な争いを避けるうえでも、それは大きな武器になりますから。不動産を持っているのなら、なおさらです。
――遺言書を作成するときの注意点はありますか?
表谷意外に起こるのが、記載漏れです。例えば、みずほ銀行の預金は誰、三井住友は誰、と書かれているのに、ゆうちょは抜けているとか(笑)。そうなると、遺言書に記載のない分については、遺産分割協議で決める、ということになります。せっかく遺言書があるのに、やっぱり相続人全員のハンコが必要になってしまう。
――それが争いの元になったら、目も当てられません。
表谷遺言書の最後に、1行「上記以外の財産は誰々に」と書いておいてもらえば、漏れる心配はなくなります。細かなことですが、注意を払っていただければ、と思います。
あと、最近子どものいない“おひとりさま”が増えているのですが、そういう人こそ必ず遺言書を残してほしいと思うんですよ。高齢で、それなりの財産を持っているような人です。
子どもがいなければ、相続の権利は第2順位の親に移ります。でも、自分が高齢なのだから、親は亡くなっているでしょう。そうすると、相続人は、第3順位の兄弟姉妹ということになります。しかし、兄弟たちも高齢で、すでに亡くなっていることも多いはず。その場合は、代襲相続といってその兄弟たちの子どもが、要するに被相続人から見て甥、姪が相続人ということになるんですね。
甥や姪にしてみれば、突然おじの遺産が降ってくる、という話です。しかも、同じ境遇の人間が、へたをすると10人以上いる。
昔は兄弟の数が多かったですから、その子どもとなると……。まとめるのは、相当大変そうです。
――それが争いの元になったら、目も当てられません。
表谷遺言書がなければ、何度もいうように、全員の実印をもらわなくてはなりません。それこそ不動産があったりしたら、収拾がつかない公算大です。ですから、子どものない人ほど、例えば「この財産は姪の誰々に譲る」といった遺言書を書いてもらいたいのです。
――これから、そういう境遇の人が増えていくはずです。他人ごとと思わずに、対策を考える必要がありそうです。
サポート役は相性が大事
――相続に詳しい税理士について、どのように探せばよいのでしょうか。
表谷事務所のホームページで先生の経歴などをチェックすれば、ある程度の専門性がわかると思います。
税理士を選ぶ場合には、その能力などと同時に、相性が合うか合わないかが重要なファクターです。これは相続に限らず、税務顧問などでも同じなのですが。正確な申告、節税のためには、財布の中身を明らかにする必要があります。気が合わない人間に、それができるでしょうか?
――確かに、それは難しそうです(笑)。
表谷自分に合う税理士かどうかは、実際に会って話を聞いてみればわかるはずです。複数の税理士の中から選んでいく、というスタンスがいいと思いますよ。
――本日は、貴重なお話をありがとうございました。最後に、事務所の今後の展望をお聞かせください。
表谷今回は相続の話でしたけど、最初にも述べたように、税務顧問のほか幅広くお客さまのニーズやお困りごとに対応する「町のクリニック」を目指したいと思っています。展望と呼べるようなプランはないのですが、1つひとつの仕事を丁寧にやっていけば、自ずと結果はついてくるのかな、と。そういう流れの中で、将来的には法人化も視野に入ってくると考えています。
――40歳という若さも武器だと思います。今後のますますのご活躍を期待しています。