IPOの「成功確率」は1/100 上場後も成長する絵が描けるかが大事なポイントになる【後編】 | MONEYIZM
 
H2Rコンサルティング株式会社 代表取締役 小林英明氏

IPOの「成功確率」は1/100
上場後も成長する絵が描けるかが大事なポイントになる【後編】

H2Rコンサルティング株式会社 代表取締役 小林英明氏
公開日:
2024/10/09

前編は【こちら】

何のために資金調達するのか

――あえてうかがうと、先生がIPO支援をする中で、「こういう会社に上場してほしい」、あるいは「やめたほうがいいな」と感じることはありますか?

小林そうですね。上場までの道筋もさることながら、その後の成長ストーリーがちゃんと描けているか、というのは大きなポイントだと感じます。

 

例えば、資金調達はIPOの主要な動機です。しかし、資金調達の目的にもいろいろあります。調達した資金で、今の事業を大きくできる。あるいは、資金が必要な新規事業がある、ということならば、問題ないでしょう。でも、今の事業を維持するために資金調達しなくては、という会社の成長は、期待薄かもしれません。そういう意味では、資金使途が何なのかというのはけっこう大切で、成長ストーリーの裏付けにもなるのではないでしょうか。

――「今はIPOはやめるべき」と、アドバイスすることもあるのですか?

小林よほど無理なケースを除き、あからさまに止めたりはしませんよ(笑)。何か上場に向けた障害が生じたときに、それを乗り越えても上場したいのか、そのメリットがあるのか考えましょう、と話したりすることはあります。

 

ちなみに、IPOの一方で、大企業も含めた非上場化が増えていますよね。非上場なら、他の株主の意向や株式市場の評価などに左右されることなく、自由に経営することができます。IPOに当たっては、そうした非上場会社のメリットとの比較検討をしっかりやることも大事です。

必要になる上場までのロードマップ

――では、上場を成功させるためにはどうしたらいいのかに、話を進めたいと思います。IPOをやろうと決意したら、まず何から始めるべきでしょうか?

小林「この日までに上場したい」という目標を立て、そこまでのロードマップをしっかり作ることです。上場審査基準を満たすための準備スケジュールの必要性を説明しましたが、それも踏まえて、例えばいつまでにどういう人間が社内に必要なのか、あるいは証券会社や監査法人はどのタイミングまでに頼むのか。そうしたことを、具体的に決めていきます。

上場までにクリアすべき課題は、会社によって違います。例えば、内部統制の仕組みがある程度まで整っているのか、あるいはゼロから構築する必要があるのか。会計は年次でしか行っていないのか、月次である程度企業会計原則も意識して行えているのか。それらを洗い出し、優先順位を明確にします。そうやって、上場までの全体像がイメージできるようにするわけです。

――上場までの道筋は、決して同じではないんですね。

小林その通りです。上場までの資金調達や株主構成を反映した資本政策も大事になります。もちろん、これもスケジュールに乗せていく話ですが、上場する段階の株主構成をどうするのか。仮に上場前にある程度の資金調達が必要だということになると、VC(ベンチャーキャピタル)などの外部の資本を入れる必要があるのか、検討することになるかもしれません。また、上場に向けた社員のモチベーションを考えて、ストックオプションを発行しておこう、という話もあるでしょう。

――今までは、「とにかく売上を上げよう」一辺倒でもこられたかもしれませんが、上場するとなると、そこまで考えるべきことが増える。

小林VCから資金調達といいましたが、その際に重視されるのが成長性を裏付ける中期事業計画です。これが出資者のお眼鏡にかなうものでなくてはなりません。中期事業計画は上場審査においても重要視される審査対象で、単なる数値計画ではなく、環境分析に基づいた事業戦略が含まれたものである必要があります。

 

そのうえで、必要な資金を出してもらって、なおかつ株の持ち分は、自分たちで2/3を確保しておきたい、という絵を描いたとします。出資者の要求も満たしつつその比率を維持するためには、どれだけの時価総額を実現する必要があるか。そのためにはどのくらいの利益を出すことが求められるのか。それを裏付けられる事業計画が、現状で可能なのか――。例えば、そういったことをわりと早い段階から、考えておく必要があるのです。

「東京プロマーケット」に上場、という選択もある

――かつては、東証マザーズやJASDAQといったいわゆる新興市場がたくさんあって、IPOを目指す企業の多くがそれらへの上場を目指しました。今は東証グロース市場がメインのターゲットということになるのでしょうか?

小林そうですね。東証ならばグロースかスタンダード市場を目指すのが普通です。

 

一方で、東京証券取引所が運営する東京プロマーケット(TOKYO PRO Market)という市場もあって、実際に上場する会社が増えているんですよ。プロマーケットは、その名の通りプロの投資家のみが取引を行える市場で、一般投資家向けの市場に比べると、上場基準や上場維持基準が柔軟に設定されているのが特徴です。

――グロース市場より上場しやすいということですね。

小林そうです。コスト的にも、一般株式市場に上場するより割安で済みます。

 

このプロマーケットでは、上場企業としての一部のメリットを享受することができる、といえばわかりやすいでしょう。一般株式市場よりも「緩い」とはいえ、上場には審査がありますから、それをクリアすることで、非上場企業に比べて社会的な信用力はアップします。例えば、採用時に「当社は東証上場企業です」といえるわけです。

 

一方、非上場に比べて資金調達がしやすいかというと、その点はあまり期待できません。創業者利益を確保するのも難しい。そうしたニーズを満たすためには、やはりグロースなどの本則の市場に上がる必要があります。

――プロマーケットから、本則を目指す会社もあるのでしょうか?

小林ええ、たくさんあります。「本則へのステップにする」というのも、プロマーケットの1つの使い方なんですよ。プロマーケットに上場していて、本則を目指す意向を持っている会社も多いでしょう。

――上場の目的や将来プランによっては、検討の価値がありそうですね。

証券会社や監査法人は「サポート」してくれない

――お話を聞くほど、IPOの準備は一筋縄ではいきそうにありません。やはり、専門家のサポートが不可欠だと思います。

小林手前味噌になりますが、我々のようなIPO支援のプロをアドバイザーに採用してもらうのが、最も確実だと思います。あとは、他社で上場の経験を持つ人を経営企画などのポジションに入れて、動いてもらうとか。上場前にVCから資金調達というケースでは、VCのルートでアドバイスを受ける、という形になるかもしれません。

――専門のIPOコンサルタントに依頼した場合は、どんなサポートをしてもらえるのでしょう?

小林さきほどの上場までのロードマップの話を思い出してください。我々は、証券会社や監査法人が関与する前のタイミングで、そもそも上場までに何が必要なのか、という全体像をまずお出しします。そのうえで、準備を進める優先順位を一緒に決めていきましょう、というスタンスでかかわっていくわけです。スケジューリングだけではありません。具体的に何かをやるというときに、我々は手を動かすメンバーになりえます。

 

証券会社は、契約すれば上場までのスケジュールをひいたり、修正を加えてくれます。また、会社の作成したものが上場基準に照らして正しい・正しくない、こう変えるべき、という判断はしますが、一緒に作るということはやりません。監査法人も、さまざまな指摘はしてくれるものの、何か手助けをするということは、職制上できないのです。外部の力を借りたいと思ったら、我々のようなコンサルを使ってもらうのが、会社にとってもメリットが大きいのではないでしょうか。

――ただ、IPOコンサルタントにもいろんな会社があります。

小林証券会社などに近い感じで接するコンサルタントもいれば、申請書類の代行に特化しているようなところもあります。

 

会社によっては、いろいろ手を出さずにアドバイスだけくれればいい、粛々と必要な作業だけやってほしい、というケースもあるでしょう。そこは、自分たちが何を必要としているのかを考えてコンサルタントを選び、選社に向かないと感じたら、チェンジするのもOKです。

「上場に鍛えられる」覚悟も必要

――100社を超える上場準備に携わった、というお話でした。印象に残る事例を教えていただけますか。

小林前職から関わっている情報通信系の会社があります。私の関与前の話ですが、ITバブルの2000年くらいにも上場にトライしたのですが、うまくいきませんでした。ITバブルが弾けたことによる業績の悪化が原因です。投資していたVCも、ファンドの期限もあり、投資の回収に入った会社でした。

 

ところが、そこから業績を立て直して、諦めずに再チャレンジして、その後当時あった地方の新興市場にて念願の上場を果たします。それも、当初目指した東証マザーズから鞍替えし、引受証券会社も変更して、ようやくIPOを達成したのでした。

――いったんVCに「見限られ」ながら上場したというのは、すごいですね。

小林SNSの拡大という時代の流れもあったのですが、経営陣をはじめとした社内の皆さんの頑張りが素晴らしかったんでしょうね。ただ、そこからも順風満帆とはいきませんでした。何とか上場したものの、やはり業界環境もあって、株式時価総額が上場廃止基準に抵触するなど、けっこう綱渡りの時期が続いたのです。

 

しかし、紆余曲折を経て、結果的には復活を遂げます。現在は、東証プライム市場に籍を置き、なんと社員数千人規模の企業に成長しました。社員の短期離職が問題になっていたような会社が、今や社員満足度を誇れる企業になっています。

――そこまで成功できた理由は、どこにあるのでしょう?

小林ずっと浮き沈みを見てきて思うのは、この会社は上場準備や上場後のステークホルダーに鍛えられたところが多分にある、ということです。一度の失敗にめげず、上場してからも市場の要請に応えられるよう、社長や役員を中心に必死に踏ん張ったからこそ、今日の成長があるのではないでしょうか。

 

他にも、まだ上場できていませんが、是非とも上場まで支援したい企業があります。
当初は、成長性も収益性も高いものの、内部統制の面ではお世辞にもあるとは言えない会社でした。何とか統制を形づくって上場申請を目指したものの内部統制で跳ね返されました。社内交際費が多いのもその一因だったので、社内向けの交際費は原則認めない、と100%舵を切るなど、内部統制の見直しを徹底的に図っています。

――そうなんですね。

こうした会社を見るにつけ、やはりIPOというのは、そんなにすんなりいくものではない、と実感します。跳ねのけられて諦めるような覚悟では、夢の達成は難しいのかもしれません。

――本日は、経験も踏まえた貴重なお話をありがとうございました。最後に、貴社の展望をお聞かせください。

小林数値目標としては、今H2Rコンサルティングと税理士事務所を合わせて4億5,000万円ほどの売上を、2030年に10億円に持っていきたいと考えています。それが今の業務の延長線上にあるとは思っていません。特に主力のアウトソーシングでは、業務効率化、自動化が、これからのキーワードになるはずです。社内のDXも推進しつつ、更なる成長を目指したいですね。

――ますますのご活躍を期待しています。

H2Rコンサルティング株式会社 代表取締役 小林英明氏
会計分野全般を支援するパートナーとして「H2Rコンサルティング株式会社」を、税務分野を支援するパートナーとして「小林英明税理士事務所」を運営。経理や財務のアウトソーシングから、税務・決算の対応、そして株式上場(IPO)支援まで、豊富な知見であらゆるステージの企業をサポートする。
URL:https://h2r-consulting.com/
取材:マネーイズム編集部、撮影:世良武史