自前のシステムを生かし、
NTTドコモ、イオン銀行と相次ぎ提携
新NISAになっても大事なことは投資教育、投資情報の充実
インターネット証券大手のマネックス証券を含むマネックスグループ。創業から四半世紀、会社を引っ張ってきた松本大氏が会長に就き、清明祐子氏が社長としてリーダーシップを発揮している。金融グループで初の女性社長が担うのは、新NISAのスタートで始まる「貯蓄から資産形成へ」の転換だ。NTTドコモとの資本業務提携、イオン銀行との業務提携などマネックス経済圏を拡大しながら、新NISAの普及にも取り組む。次々と提携できるのは、苦労して構築した自前のシステムがあるからだ。「内製化したシステムを生かし、投資情報、投資教育の質量の強みを生かしていきたい」と清明社長は力説する。
八木美代子(以下、八木) ビスカスは税理士の紹介ビジネスを主要業務にしていますが、企業のオーナーの方々は資産をどう守るか、増やすかに関心が強いです。ですので、当社としては投資教育にも力を入れています。今日は、清明社長に投資教育のお話も伺えるので、とても楽しみにしてきました。
清明祐子(以下、清明) どうぞよろしくお願いします。 先にお聞きしますが、八木社長はどういう投資教育をされているのですか。
八木 YouTubeで「恵比寿の八木社長【3分でわかる税金】」というチャンネルをやっています。ほかの人に聞けそうで聞けない基本的な情報を3分間にまとめてお伝えしています。 例えば、NISAをやってる方がいますよね。そういう方から「NISAと新NISAと両方できるんですか」という疑問をお持ちいただくと、それにお答えする、という形です。
清明社長に登場いただく経営情報メディア 「マネーイズム」は、税金情報、節税情報に限らず、おカネにまつわる様々な情報を提供しています。毎月100万人から150万人ぐらいの方が訪問しているサイトです。
清明 八木社長が初歩的な質問にお答えをされている気持ちはよくわかります。投資はこれからという方から「清明さん、NISAはどこで買えるのか」と聞かれるけど、「違います、違います。NISAは投資に関する非課税制度のことですよ」というお返事をしています(笑)。
デフレからインフレの時代の転換にタイミングよくスタートする新NISA
八木 中小企業のオーナーの方は、実は投資はあまりやっていなくて、投資初心者という方が意外と多いのです。いろいろ聞いてみたいけど恥ずかしいとか、投資の話は難しくてわかりにくいという声をよく聞きます。
さて、2024年1月から新NISA(少額投資非課税制度)がスタートしました。現在、株価も好調ですし、いろいろな金融機関が新NISAを宣伝しているためか、子どもでも「新NISAが始まるんだよね」なんて言ったりするぐらいです。日本で長年課題だった「貯蓄から資産形成へ」と大きく舵を切る機会となるのかどうか。清明社長はどう見ていますか。
清明 新NISAは、すごいタイミングで生まれたという印象です。今は、30年続いたデフレの時代がようやく終わって、インフレの時代に入るタイミングです。タイミングを計ったわけではないけど、経済環境の変化に合わせて新NISAの制度が始まるわけです。
新NISAはインフレの時代に入る絶好のタイミングで始まりましたね
デフレの時代はモノの値段が落ちていくので、キャッシュ、現金が一番の価値を持っていました。貯蓄から資産形成への転換が課題と言われてきましたが、デフレの時代は貯蓄で良かった、賢かったのですよ。
八木 インフレの時代に入ると、モノの値段が上がっていきます。
清明 そうです。インフレの時代は、キャッシュで持っていても、価値が下がるだけです。だから、お金をモノに変えておいたほうが価値が上がるわけです。キャッシュの価値を下げないように成長するものに投資をすることが大事です。
そのタイミングで、新NISAという税優遇の制度スタートするのは、投資環境にとっては大きなプラスになります。プロパガンダではなくて、貯蓄から資産形成の時代に入ったと心底思います。
非課税期間が無期限、上限が1800万円などメリット多い新NISA
八木 新NISAのメリットはいろいろあるとは思いますが、清明社長は、「新NISAで特に魅力的なことは何ですか」と聞かれたらどう説明されますか。
私も、ほかの人に聞けそうで聞けない基本情報をYouTubeで発信しています
清明 3つあるんですね。1つは、非課税期間が5年間といった期間限定ではなくなるということ。2つ目は、生涯で投資できる上限額が1800万円に増えること。3つ目は、売ったら投資の枠が復活することです。
今までのNISAは5年間の時限措置みたいな制度です。具体的に言えば、「一般NISA」の口座で年間120万円の範囲内で購入した金融商品から得た利益(配当金、譲渡益など)に5年間税金がかかりませんでした。「つみたてNISA」は、最長20年が非課税でしたけれども、「一般NISA」か「つみたてNISA」かどちらかを選ばなければいけません。
新NISAになると、5年間や20年間の非課税期間の制限がなくなり、金額が増えます。非課税枠の上限金額も大きく増える上に、売ったらまた次の年以降に生涯非課税枠が復活することは魅力的です。(※年間の上限額は決まっているので、1800万の生涯非課税枠の上限に達するまでは単年での非課税枠は増えません)
八木 新NISAは投資の初心者でも取り組むべきでしょうか。
清明 制度なのでどんな人でも利用をしたらいいとは思いますが、制度が整うということと、投資で勝つということは、別のことです。非課税枠が増えるからといって、みんながみんな、資産を増やせるわけではなく、上手に投資しないといけないわけです。
新NISAという制度の中でどういう投資をしたいのかをしっかり考えないと駄目だと思います。ハイリスクハイリターンの投資を狙いに行く人もいれば、目先の利益ではなく長期的な投資がいい人もいる。私の考えでは、新NISAは期間がなくなるので、投資初心者の方は長期の積み立てがいいと思っています。長期投資は、投資対象を分散させることによって、リスクをある一定程度、コントロールするような形にしたらいかがでしょうか。
年間360万円の枠があるので長期積み立てが有利になる新NISA
八木 従来のNISAのときも、長期積み立てにして分散投資するのがいいと言われましたが、新NISAになっても長期投資のメリットは増すのでしょうか。
清明 投資枠の金額が増えますから、メリットは増します。従来の「一般NISA」の場合は枠が120万円でした。「つみたてNISA」は新規投資額が毎年40万円が上限でした。しかも、どちらかしか選べない。
新NISAになると制度を利用した投資上限額が、積立枠120万円、成長投資枠240万円、合計360万円。年間に行う投資のうち360万円分がキャピタルゲイン(資産の売却によって得られる利益)もインカムゲイン(株式や債券などの資産を保有中に得られる収益)も両方とも無税です。
八木 新NISAでのマネックスグループとしての強みは何でしょうか。
清明 マネックスに限ったことではありませんが、新NISAはネット証券が強みを発揮すると思います。なぜなら、取り扱える商品ラインナップが幅広いからです。新NISAは株式投資も税優遇になるわけですが、例えば銀行だと株式は取り扱えない。株式は、日本株だけじゃなくて米国株もあります。
対面で売り買いをする証券会社に比べてもネット証券は資産運用商品のラインナップが広い。また、当社もそうですが、ネット証券は、NISAの売買手数料をどこも無料化していますから、アドバンテージがあると思います。
マネックスの強みは投資情報、投資教育が充実していること
八木 では、ネット証券の中でマネックスグループの強みは何ですか。
清明 投資情報や投資教育の充実度では、私たちは群を抜いていると自負しています。日々のトレードが好きな投資家でも長期保有したい方でも、上手に資産を増やすための投資情報はとても大事です。私たちが投資情報、投資教育を併せてご提供することで、お客様が資産を上手に増やしていけると考えています。
セミナーも年200回以上やっています。YouTubeチャンネルもあります。何を見ればいいか、どのセミナーに参加すればいいかですが、その方がどういう資産形成プランを持っているかよって見るべきYouTubeが違うんですよ。初心者向けのものもあれば、玄人方向けもあります。
八木 中小企業のオーナーで会社にも資産があり、個人的にも資産をお持ちの方は、人生を終えた時から逆算して、相続税がどうなるかとかを税理士さんと相談しながら運用のことも考える方が多いですね。そういう意味で、できれば、プロの運用者にお任せしたいと考えている人が多いです。
清明 富裕層向けビジネスを手がけてみるとわかるのですが、富裕層のお客様は「減らさない運用」が目標なんです。富裕層の方は、どうやって資産を次の世代に継承していこうかっていう考え方をお持ちです。
セミナーも年200回以上やってるんです
しかも、現役の社長さんだと、毎日マーケットを見て、毎日資産運用のポートフォリオを入れ替えてなんてできません。投資信託に投資するにしても、当社だと1750本の投資信託があるわけで、そこから1本を選ぶのは大変な手間です。運用はプロにお任せする方がどんどん多くなってきています。
八木 リスクを嫌う国民性があるので、めちゃくちゃ儲けたいっていう人よりは、確実に儲けたい、せめて資産を減らしたくない方が多いです。
清明 現役の社長さんのように時間のない方なら、私どもの商品に「ON COMPASS」というお任せ運用サービスがあります。一緒に資産計画を作り、質問に答えるだけで最適な資産運用プランをご提案しています。さらにその資産運用プランにそって、専門家がお客様の代わりに運用をします。難しい投資知識や手間のかかる商品の売り買いは不要です。
お任せ運用サービスの「ON COMPASS」は金融庁の調査でパフォーマンス1位
八木 ON COMPASSは金融庁の調査で1位になったのですよね。
清明 2023年4月21日に金融庁が公表した指標調査の「ファンドラップの『費用控除』平均パフォーマンス」で、ON COMPASSが3年リターン、5年リターンで1位になりました。
お任せ運用はいろいろな証券会社が出していますが、重要なのはパフォーマンスです。ON COMPASSは1%弱の信託報酬(投資信託の運用や管理にかかる費用)をいただいていますが、大事なことは、投資家が望む長期的なゴールに近づけるかどうかです。
ナンバーワンだったというのは、運用力をつけてお客様に代わって運用をちゃんとして差し上げて、着実に資産を増やしていこうみたいなことが、成功している良い例かなと思いますね。
八木 新NISAへの対応もするのですか。
清明 ON COMPASSは2024年春にNISA対応しますと発表しています。大事なことは、投資のために勉強したり投資対象を調べたりする時間がない人は、プロに任せたほうが良いのではということです。
時間がない中で投資対象を選ぼうとすると、投資信託の売れ筋ランキングを見て買う方が多いです。ランキング重視で投資信託を買うと、どうしてもインデックス偏重になってしまいます。
八木 インデックスというのは、日経平均株価やダウ平均株価など市場の値動きを示す指数ですね。
清明 そうです。インデックス投資は、複数の銘柄に広範な分散投資しますから、初心者にとって悪くない投資です。しかし、インデックス投資は、マーケットの動き以上に勝てないんです。自分が許容できるリスクに合わせてプロに任せた運用をするのも選択肢に入れたらいいかと思います。
忙しい経営者は、投資はお任せ運用が便利ですね
ドコモとの資本業務提携で2027年3月期に500万口座の開設を目指す
八木 今回、NTTドコモと提携を発表されました。
清明 10月にマネックスグループとNTTドコモとの間で資本業務提携契約を結び、1月4日から提携がスタートしました。ドコモは、お客様の生活と密接に結びついているサービスですよね。通信キャリアだけから脱却していて、「d払い」という決済サービスが普及していますし、ポイントサービスもありますね。
その日々のサービスと私たちが提供する資産形成サービスをくっつけていくことが目的ですから、すごくいい組み合わせだと思っています。具体的にはd払いのアプリを通じて、初心者向け資産形成サービスを提供していく、ということなどを考えています。
私たちが強みにしている投資情報、投資教育もドコモのお客様に提供していきたいと思っています。ドコモのアプリや、ドコモの画面でいろいろな投資情報を見られるようにしたいと思ってるんです。
ドコモのお客様に、「その情報を見たいならマネックスのサイトに行ってください」ではなくて、ドコモのアプリやサイトで自然に資産形成の商品とかサービスを見れるほうがいいじゃないですか。
もちろん、法律の制約があるので、「ここから先はマネックスが提供している情報ですよ」と出さないといけないのですが、ドコモのアプリを閉じて、マネックス証券のサービスにログインして、というステップを踏むより、ドコモからシームレスにマネックス証券に入って来れたら、より良い顧客体験を提供できます。
八木 ドコモではどれぐらいの口座を持ちたいとお考えですか。
清明 マネックスは2027年3月期に500万口座を目指しています。ただ、ドコモ側は1000万口座はいけるんじゃない?!、と思っているようです。
イオン銀行の投資信託口座30万口座をマネックス証券に移管
八木 イオン銀行とも業務提携しましたね。
清明 イオン銀行との提携も2024年1月からスタートしました。具体的には、イオン銀行のお客様の中で投資信託口座をお持ちの口座と投資信託資産をマネックス証券に移管し、1月以降は、イオン銀行とマネックス証券が協業してイオン銀行のお客様に資産形成サービスを提供するというものです。
運用相談は引き続きイオン銀行各店舗で承りますが、取引についてはマネックス証券のウェブサイトで行うことができます。ログインは、イオン銀行のインターネットバンキングを通じて行えますし、マネックス証券が提供するアプリやツールもご利用できます。
八木 イオン銀行との提携の狙いは何ですか。
清明 イオン銀行はご自身では新NISAのシステム対応はされず、当社に任せていただきます。当社がシステムとオペレーションを受け持ちますから、イオン銀行はお客様対応に専念してくださいという提携になっています。マネックスが裏方をやります、ということです。
八木 イオン銀行との提携の目標はお持ちですか。
清明 イオン銀行との提携では目標値は発表はしていません。イオン銀行がお持ちの800万口座のうち、投資信託保有者は約30万口座でした。ぐらいです。その約30万口座がマネックス証券に移管され、協業がスタートしました。
イオンモールの中にイオン銀行が店舗を開いておられるので、モールに来るファミリー層などに新NISAの利用も含めた投資信託の商品などをご提供します。お客様を広げる可能性は大きいと思います。
システム内製化でマネックス経済圏を広げた
八木 次々と提携してマネックス経済圏を拡大できるのはなぜですか。
清明 当社のユニークな点は、内製化した基幹システムと投資情報システムを使ってオペレーションを行っていることです。内製化したシステムがあるので、イオン銀行、ドコモと次々と連携できるのです。
2011年ぐらいからシステム内製化を進めましたが、実際に内製化したシステムが稼働したのは2017年です。5年以上時間がかかりました。証券会社の運用システムはとても難しいのです。なぜなら、1秒の1000分の1(0.001秒)単位の「ミリ秒」あたりの取り引きがすごい多いのです。
八木 自社でシステムを構築するなんて、あまりないことですね。
清明 システム構築は大変なんですけれども、お客様のニーズをちゃんと汲み取って、自分たちでイノベーションを起こそうとなると、内製化したシステムでないと難しい。なので、頑張りました。
私がマネックス証券の社長になったのは2019年です。社長になったときから、 内製化したシステムを生かすために他社との提携を模索しました。
一番最初に形になったのが今のSBI新生銀行です。個人の投資信託と債券の残高と口座を全部移管してもらい、2022年1月からスタートしてます。そして、イオン銀行の口座移管、ドコモとの資本業務提携へと拡大しました。いろいろな企業と組むことでせっかく作ったシステムをいろんな人に使ってもらうビジネスチャンスを広げています。
八木 投資教育のコンテンツもご自身で作っているのですか。
清明 はい、コンテンツも自分たちで作っています。 自社のサイトやYouTubeなどは新しい媒体なのですが、対面のセミナーを通じて投資情報を発信するのは、おそらく他社より早かったし、数も多いです。新NISAを学べるサイトもありますから、参考にしてください。
メールマガジンも1999年から毎営業日に発信しています。投資環境の変化や金融商品の情報をお伝えするために発信し続けて来ました。
八木 セミナーもメルマガも無料ですか。
清明 口座有無によって見られるもの、見られないものはありますが基本的には無料です。メルマガもコンテンツを作るのは大変な時間と労力がかかります。しかし、私たちはお客様が資産を増やして「マネックスと付き合って良かった」と思っていただき、私たちに対価をいただけるものと思っています。
八木 最後に「金融グループ初の女性社長」になられて注目されていますが、ご自身はどう思っていらっしゃいますか。
清明 当社は女性従業員が多いので、私自身、性別や年齢をまったく意識せずに仕事をしてきました。2019年4月にマネックス証券の社長になったとき、「女性社長41歳」とたくさん書かれました。性別と年齢が注目されるんだな、と驚きました。
当時、社員の皆さんは私が41歳と知らなかったのに、大きく書かれてしまい、「清明さんは41歳だったんだ」みたいな反響がありましたね(笑)。同時に会長になった松本大が「清明が女性社長なら僕は男性会長。でもそういうとみんな笑う。男性会長がおかしいなら女性社長も変なのに。」と語っていました。
八木 松本さんとのコンビはどんな関係なのですか。
清明 私自身のことではなく会社がどうあるべきかを議論しますので、松本に対しても言いたいことを言ってます。松本の意向と違うことがあったり、松本がやりたいことでも「私はやりません」と言うこともあります。松本自身、「俺が言っているのにやらないのか」とかいうこともありません。忖度なしの議論をしています。
八木 松本さんから特に学ぶことは何ですか。
清明 松本は常に未来志向なんです。発想が豊かだし、前例とか既成概念とかにとらわれない。だから松本が主導して新規ビジネスを次々と生み出してきましたし、また、強い理念の下、マネックスらしさやユニークネスという強みが当社にはあります。
2001年京都大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。06年にMKSパートナーズ(プライベート・エクイティ・ファンド)に転じ、09年2月にマネックス・ハンブレクト(17年にマネックス証券と統合)に入社し、11年に同社社長に就任。19年4月よりマネックス証券代表取締役社長(現任)。20年1月マネックスグループ代表執行役COO、21年1月よりCFO兼務。21年6月マネックスグループ取締役 代表執行役COO 兼 CFO、22年4月よりマネックスグループ取締役 代表執行役Co-CEO 兼 CFO。23年6月より取締役兼代表執行役社長CEO。
各業界のトップとの対談を通して”企業経営を強くし、時代を勝ち抜くヒント”をお伝えする新連載「ビジネスリーダーに会いに行く!」。第11回目は、マネックスグループの代表執行役社長CEO 清明祐子氏にお話を伺いました。金融グループ初の女性社長だが、ご本人は性別、年齢を意識したことがないので、世の中の報道に驚いたそうです。投資教育の重要性を熱く語っていただきましたが、経営に性別は関係ないと改めて実感しました。