【DX化 前編】いま求められている業務のDX化。‶目的〟と‶責任者〟を明確にするのが鍵です
税理士法人KMCパートナーズ 代表社員 木村智行氏、執行役員 佐仲慶恒氏、監査部マネージャー 津田正史氏最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にする。デジタル技術を活用することで、業務の効率化や新製品・サービスの開発、企業価値の創造を実現しようというものだが、特に中小企業の場合、「どうすればいいのかわからない」というケースも多いのではないだろうか。今回は、自らDXの推進に取り組み、具体的な成果も上げている税理士法人KMCパートナーズの木村智行所長、佐仲慶恒執行役員、津田正史監査部マネージャーに、その意義などについてうかがった。
記事では、「前編」で自社の経験を、「後編」ではそれも踏まえて顧客にどんなサポートを行っているのか、DX導入のポイントや注意点はどこにあるのかを語っていただいた。
1年かけてシステムを導入
――KMCパートナーズは、業務のDX化が遅れているといわれる税理士業界の中で、最も進んだ取り組みを行っている会計事務所の1つだと思います。最初に、いつ、どんなきっかけでDXに踏み出されたのかについて、うかがいたいのですが。
木村(敬称略、以下同じ) 業務のデジタル化に本格的に着手したのは、5年ほど前です。直接のきっかけになったのは、実は残業削減プロジェクトだったんですよ。
ご多分に漏れず残業の多さが問題になっていたため、本格的な業務改善に取り組もうということになったわけですが、そのためには思い切ってITツールを導入し、それを使いこなせるようになる必要があるだろう、と。そこで、事務所内に業務改善委員会を立ち上げ、佐仲が中心になってシステムの選定などを進めました。
――必要に迫られたDXだったわけですね。具体的には、どのようなステップで進められたのでしょう?
佐仲 委員会で最初にやったのは、あらためて「何のためのデジタル化なのか」を明確にすることでした。目の前の残業時間削減もさることながら、事務所の今後を見据えれば、AIの発達などによって、ますます単純作業でお金をもらえる時代ではなくなっていくわけで、より付加価値の高い仕事にシフトしていかなくてはなりません。ITを活用した業務効率化は、そういう条件を整備するものでもあります。ひとことで言えば、デジタル化で生産性の向上を実現しよう――。そうした点を確認し、プロジェクトの目的として掲げました。
そのうえで、所内の無駄な、というかITを使えば省けるのではないかと思われる業務を、具体的にピックアップしてみました。そうすると、案の定文書類の作成にいかに多くの時間とエネルギーを費やしているのかが、よくわかってきたのです。
とはいえ、当時の我々はまったくの「素人」でしたから、あまたある業務改善システムの中からどれを選んだらそうした課題が解決できるのか、といった話になると、お手上げの状態でした(笑)。
そこで、業者さんを呼んで、1からそれぞれのメリット・デメリットを説明してもらい、実際に試してみたりもしながら当事務所に最も適していると思われるシステムの導入を決めたというのが、大まかな経緯になります。
――業務改善委員会を立ち上げてから、システムの導入までにかかった時間は、どれくらいだったのですか?
佐仲 検討に1年ぐらいはかけました。私自身、本業の傍らプロジェクトに関わっていたため、時間的な制約などもあって、正直トントン拍子に導入が進んだという状況では、なかったですね。ただ、いたずらに急いだりせず、試行錯誤を繰り返しながら自分たちの業務の中身に合うシステムを選んだのは、正解だったと思っています。
月に5時間の作業を削減。利益率向上にも結びつく
――DXの推進には、どんなメリットがありましたか?できるだけ具体的にお聞かせください。
佐仲 導入前は、例えば毎日手書きの業務日報を作成していました。月の終わりには、それを取り出して、1枚1枚チェックしながら、顧問先ごとに費やした時間を電卓で集計し、やはり手書きの文書にして残していたわけです。この月末の集計作業に1~2時間、日々の日報作成を合わせると、月に5時間くらいは要していたはずです。
IT化により、集計作業はほぼ必要なくなりました。日々の作業にしても、システムに入力するだけなので、そんなに手間はかかりません。こうした作業を30人くらいがやっていましたから、事務所全体としては、この一連の業務に関して、ざっくり5時間×30人=150時間程度の労働時間が削減された計算になります。当然、残業時間は、プロジェクト開始前に比べて大きく減りました。
――生産性の向上という点では?
木村 すべてがデジタル化の恩恵とはいえないかもしれませんが、お話ししたような業務改善、DX推進に取り組んだこの4、5年で、当事務所の利益率は、目に見えてアップしました。人員の増加率と比べて、売上も利益も大きく伸びている。特に担当者の一人あたり売上が大きく伸びております。DX化で雑務から解放され、顧客対応などの本業に多くの時間を割けるようになったことが寄与しているのは、間違いないと思います。
佐仲から、付加価値の高い業務が重要だという話がありましたが、この間、企業のM&A支援といった仕事のウエートを高めることができたことも、利益率の向上につながりました。事務所が「DX前」の状態だったら、そうした事業に今ほど経営資源を投じることはできなかったかもしれません。
〝アナログ〟を捨てたわけではない
――あらためて、DXを進めるうえで、一番大変だったことを聞かせてください。
佐仲 さきほども言いましたが、我々も本当に何も知らない世界でしたので、導入プロジェクトの最初の頃が、一番骨が折れましたね。システムの選定と、導入直後のプロジェクトに参加していない人たちに使いこなしてもらうためのトレーニング。特に大変だったのは、大きくこの2つでしょうか。
木村 付け加えると、そうやって事務所にデジタル化の効果が現れ始めてくるタイミングで始まったのが、新型コロナの蔓延でした。多くのメンバーが在宅勤務ということになったため、今度はオンライン会議の体制構築や、セキュリティの対策も講じながら、在宅勤務で事務所のサーバーに接続したり、顧客との円滑なデータのやり取りを可能にするシステムの導入などを急いだわけです。こちらも大変ではありましたが、その取り組みを通じて、一層業務を効率化したり、組織や働き方そのものを変えたりといった改革を実現することができました。
ただし、当事務所には、例えば来客があると全員が立ち上がって挨拶するといった‶アナログ的〟なものを大切にする文化があります。DXを推進しつつも、「完全在宅」に切り換えるというような発想は、私にはありません。
面と向かって話すからこそ生まれるアイデアもあるだろうし、それを好まれるお客さまもいらっしゃいますから。DXの利点とアナログの良いところをバランスよく取り入れながらやっていこうというのが、当事務所の基本的なスタンスなんですよ。
後編では、顧客のDX化をどのようにサポートしているのか、中小企業のDXのポイント、注意点などをお話しいただきます。
“クライアントの皆様の経営のお役に立ち、喜んでいただく仕事をすること“を使命に、潜在的なニーズを発見し、提案型のサービスを提供することで顧問先の経営をバックアップ。国内外の税務・会計業務のみならず、経営計画や資金調達、事業承継、M&Aなどの経営支援にも力を入れている。
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