【DX化 後編】いま求められている業務のDX化。‶目的〟と‶責任者〟を明確にするのが鍵です

税理士法人KMCパートナーズ 代表社員 木村智行氏、執行役員 佐仲慶恒氏、監査部マネージャー 津田正史氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

顧客には「できるところから」DX化を勧める

――お話しのような実績も踏まえながら、顧客についても、そのDXの推進をサポートしていらっしゃると聞きます。ここからは、そうした「中小企業のDX」にテーマを広げてうかがっていきたいのですが、まず御社のクライアントの概要を教えてください。

木村 件数は、法人のお客さまが540社、個人の顧問先が60件の計600件程度です。業種としては、クリニック、訪問看護などの医業が100件ほどあり、東京・渋谷という場所柄もあってIT系も多いです。そのほか、製造業や不動産、建設業、出版、アパレルなど、お客さまは多岐にわたっています。

――みなさんDXについてどのような認識を持たれていて、現状どの程度までIT化が実現されているのでしょうか?

津田 その点は、お客さまの業種や年齢などによって、どうしてもバラつきがあります。IT系の会社などが進んでDXを推進している一方で、経営者がご高齢だったりすると、経理関係書類もいまだにすべて手書きでやっていらっしゃるケースも、少なくありません。

「お客様の状況に合わせたDX推進をしています」と津田氏

体制が整っている大企業と違い、中小企業の場合は、IT化の必要性を何となく意識してはいるものの、積極的に「これをやろう」というところまで、なかなか踏み出せていない印象があります。

――そういう顧客に対して、どのような形でDXの推進を働きかけますか?

津田 一律に「IT化しましょう」といっても掛け声倒れになってしまうので、それぞれの到達点や事業の状況などを考慮しながら、順を追って進めるようにしています。例えば、手書きの出納帳だったら、「せめてエクセルに変えましょう」というところから。それをやれば、お客さまは、「こんなに楽だったのか」ということになるでしょう。当然、もらったデータを入力する必要がなくなる当事務所にとっても、メリットがあります。

木村 その点では、「手書きだと我々はこれだけ工数がかかっていて、その分報酬もいただかなくてはなりません。一部でもIT化してもらえたら、作業時間がこれだけ減るので、報酬を減額することが可能となります」というお話をすることもあります。DXに本気になってもらうためには、そうした動機づけも有効だと思うんですよ。その結果、お客さまと当事務所の双方にメリットが生まれるわけですから、そこは率直なお話もさせていただくのです。

気づかないメリットがある

――DX推進の成功事例を教えてください。

津田 複数カ所で診療している動物病院なのですが、決算などに必要な書類を病院のスタッフが、1ヵ所ずつ回って集めていたんですね。当事務所の監査の担当者が「どうにかなりませんか」という相談を受けたので、私が1年ほど担当者とともに現場に入らせていただき、問題を解決した事例がありました。具体的には、お客さまにクラウド会計ソフトを導入していただいて、そのシステムを中心にした業務改善を実行したのです。

木村 その案件では、とにかくスタッフの方が疲弊しきっていらっしゃったので、「本当に助かりました」と、とてもわかりやすく感謝していただきました(笑)。

津田 あるクリニックでは、ひと月に100社くらいに、実施した健康診断に関する請求を行っていましたが、エクセルで一覧表を作成して、すべて郵送していました。 中小企業はなかなかDX化に踏み出せないという話をしましたが、IT化で実現できることに気づいていないという側面も、多分にあるように思います。そこをしっかり伝えていくのも、我々の大事な役割ですね。

電帳法対応は待ったなし

――ところで、DXに関連して、来年から改正「電子帳簿保存法」(電帳法)の本格適用がスタートします。中小企業の対応状況はいかがですか?

木村 今年10月からは、消費税のインボイス制度の導入も始まりますから、それと並行して準備を進めているところです。ただ、お客さまの準備状況は、お世辞にも進んでいるとはいえないのが現状です。

電帳法に関していえば、正直お客さまがパンフレットを一読したくらいでは、具体的にどうしたらいいのかを理解するのは、難しいと思います。ところが、電子データの保存などが不十分だった結果、税務調査で求められたデータの提示や提出ができない状況ということになれば、最悪の場合には青色申告の取り消しなど、非常に重い罰則が科せられる恐れがあるわけです。

事業者の方は、早めに顧問税理士などに相談して、対応を進めていただきたいと思います。同時に、インボイスや電帳法への対応を単なる義務ととらえるのではなく、「遅れているDXを推進するいい機会だ」という発想を持つのも大事だと思うんですよ。そうすれば、こうした課題への対応の意味合いも、ずいぶん違ったものになるのではないでしょうか。

DXはあくまで業務改善の手段

――では、「当社もIT化したい。しかし、何から手をつけたらいいのかわからない」という経営者に対して、アドバイスするとしたら?

「無駄な業務の洗い出しがDXの第一歩です」と佐仲氏

佐仲 まず、「無駄な業務の洗い出しをしましょう」ということですね。それによって、やるべきDXの方向性をある程度明確にすることができるはずです。

その際に、何となくザックリと始めるのではなく、少人数のプロジェクトチームのようなものを組織して、そこが権限を持って進めていく形にする必要があります。そうしないと、途中で空中分解することになりかねません。

木村 やはりDXを決断し、そうしたチームを任命する経営者の責任は重要です。仮に自分が高齢でITに不慣れだったとしても、しっかりとその必要性を認識し、やると決めたら若いスタッフに任せていく。それが出発点になりますから。

――一方、DXを進めるうえで、特に気をつけるべきことはありますか?

津田 これも当事務所の経験も踏まえていわせていただくと、DXの目的を明確にすることが大事です。当たり前のことのようで、そこがはっきりしないまま、DX自体が目的のようになってしまうケースもあるようです。

そうなると、最新のシステムを導入したのはいいけれど、アナログ時代よりもコストが増加したり、工数が増えたり、といった本末転倒の事態を招く可能性が、ないわけではありません。ITやDXは、あくまでも業務を円滑に行うためのツール、手段だということを忘れずに、自社の問題解決にベストに近いシステムの導入を行う必要があります。

業務の現場を知っているメンバーがサポート

――そうしたDXを検討する中小企業にとって、この分野に強い専門家は心強い存在だと思います。御社はどのようなサポート体制で臨んでいるのでしょうか?

木村 特にDX導入サポートの選任者を置いているわけではありませんが、当事務所には監査担当者にITに強かったり、SE出身だったりする人材がいます。そうしたメンバーで連携を図りつつ、DX委員会というのを組織していて、そこを中心に顧客支援に向けた様々な検討を行っているんですよ。

佐仲DXを提案するメンバーが、例えば医業やIT系などのお客さまの監査に携わっていて、その業務の現場を知っている、すなわち導入されるシステムを実際に使う人たちのことをわかっている、というところは、当事務所の強みといえるかもしれません。いくらITに通じていても、現場を知らないと、今津田が申し上げたようなミスマッチが起こりやすくなりますから。

木村 客観的に見て、中小企業のDXについて、我々のような会計事務所、顧問税理士が果たすべき役割は、とても大きいと感じています。中小企業は、どこも人手不足に悩んでいますよね。それを解消する手段の1つがDX化なのですが、ただでさえ人手が足りない企業には、さきほど話に出たプロジェクトチームの核になるような人材も、見当たらないことが多いわけです。

「DXの利点とアナログの良いところをバランスよく」と木村氏

そこを我々が直接お手伝いして、システム導入などを促進していく必要があると思うのです。そうはいっても、自分たちの事務所が高いレベルのDXを実現していなければ、満足いただけるサポートは難しい。そこも引き続き努力していきたいと考えています。

――年末には、渋谷駅に近い新オフィスに移転の予定だとうかがいました。

木村 新事務所は、所員が決まった机を持たないフリーアドレスにする予定ですが、そのためには一層のDX化が必要になるでしょう。同時に、〝DXとアナログの融合〟を保証するために、メンバー同士がお互いにコミュニケーションを取れるスペースも多く確保することにしています。

――DXとアナログの融合が実現された新オフィスがどんな風になるのか、今から楽しみですね。今後の事務所のますますの発展を期待しています。本日はありがとうございました。

“クライアントの皆様の経営のお役に立ち、喜んでいただく仕事をすること“を使命に、潜在的なニーズを発見し、提案型のサービスを提供することで顧問先の経営をバックアップ。国内外の税務・会計業務のみならず、経営計画や資金調達、事業承継、M&Aなどの経営支援にも力を入れている。

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