【SPC 前編】SPCを活用できるのは不動産開発だけではない。 M&A、節税対策、太陽光発電にも
株式会社あすな会計事務所 代表取締役 中垣光博氏不動産開発の資金調達などに使われるSPC(Special Purpose Company=特別目的会社)をご存じだろうか。名前の通り「特別な目的」のために設立されるこの会社は、近年、M&Aや事業承継、企業の「脱炭素」の取り組みなどにも活用が広がっている。今回は、早くからSPC関連事業を手掛け、多くの実績を持つあすな会計事務所の中垣光博代表社員に、その仕組みや目的、メリットなどについてうかがった。
記事では、「前編」でSPCとはどういうものなのか、不動産開発のスキームを中心に解説していただき、「後編」ではM&Aや事業承継、節税対策としての活用法や、「脱炭素」の取り組みに活用されている状況などについてお話しいただいた。
そもそもSPCとは
――あすな会計事務所は、SPC関連事業に高い実績を持つとうかがっています。今現在、どのくらいの案件に関わっているのですか?
中垣(敬称略) 現在は、不動産関係で150ほどのプロジェクトが同時並行で動いています。累計だと、300件程度になるでしょうか。
――想像以上に多くて驚きました。今日は、そんな先生に、一般的にはまだなじみの薄いと思われるSPCについて、できるだけわかりやすくお話しいただければ、と考えています。早速ですが、そもそもSPCというのはどんな仕組みなのか、解説をお願いします。
中垣 わかりました。初めに、わざわざSPCをつくる大きな目的は、ひとことで言えば、資金調達力を高めることにある、というのを頭に入れておいてください。なぜそうなるのかは、順を追って説明します。
SPCは、日本語にすると「特別目的会社」です。ある特定の目的のためだけに設立され、その達成のために運営されます。もう少し具体的にいえば、「投資などのためのビークル」という性格を持つ会社なんですよ。
※ビークル:資産の証券化などに際して、資産と投資家とを結ぶ機能を担う組織体をいう。
――普通の会社のように、さまざまな営利目的の事業を行ったりはしないということですね。
中垣 そうです。このSPCの一つの活用例は不動産開発で、基本的な仕組みは、次のようになります。
まず、不動産開発をしたいA社がSPCを設立し、その会社が不動産を取得します。SPCは、その不動産の信用力を担保に、有価証券の発行すなわち「資産の証券化」を行って投資家を募るとともに、金融機関からの借り入れを行います。それらを原資に開発を進め、完成後、その不動産事業から得られる利益を投資家に分配するのです。
SPCが取得する資産は、不動産には限りません。例えば、社債などの債権、未上場株など、収益を発生させるもの、流動化(企業本体からの切り離し)が可能な資産であれば、原則としてどのようなものでも対象になります。
――御社の関わったプロジェクトには、どのようなものがあるのですか?
中垣 例えば、歌舞伎座の建て替え事業(東京都中央区、2013年2月に竣工)や、丸紅新本社ビル新築事業(東京都千代田区、2020年10月竣工)などがあります。
後者について簡単に説明してみましょう。新本社は、東京都心に地下2階・地上22階建て、延床面積80.6千㎡という建物ですから、当然莫大な建設費用が発生します。これをまかなうためにSPCの1つである「特定目的会社(TMK)」を設立しました。ちなみに、SPCには、資産流動化法という法律に基づくTMKと、会社法に準拠するTMK以外の会社(合同会社、株式会社)にあたる「GK-TK(合同会社匿名組合)」があります。
丸紅は、新本社の敷地をこのSPCに売却するとともに、竣工後は土地・建物を一括してSPCから賃借する予約契約を結びました。そのうえで、SPCがこの不動産を担保に投資を募り、金融機関からの融資を受けたわけです。完成後は、SPCに賃料収入が入ってきますから、そこから一定の経費を除いたものが、投資家に分配されていく。そういうスキームです。
ここで会計事務所が行う業務は、税務・会計・事務などです。また、SPCの代表に就任したり、本店所在地を提供したり、SPCの通帳や印鑑の管理をすることもあります。実は丸紅本社ビルを所有するSPCの代表には私が就任しているんですよ。
――SPCの基本的な仕組みはわかりましたが、普通に資金調達するのに比べ、どこにメリットがあるのでしょうか?
SPCのメリット1:出資を募りやすくなる
中垣 1つは、多数の投資家から資金を集めやすくなる、という点です。不動産開発など、投資金額が高額になる場合、限られた投資家からでは、資金調達が難しいケースもあります。
弊社では特定の投資家が投資をする案件がほとんどですが、「資産の証券化」というSPCの手法であれば、証券を小口にすることで、幅広い組織や個人から資金を集めることもできるのです。
後で述べるように、SPCの保有財産は、財産を譲渡した会社(譲渡人)とは切り離されています。
仮に譲渡人や投資家の経営や信用状態が悪化したりしても、投資しているSPCの財産に影響を与えることはありません。そのようなリスクがないことも、投資家からの資金調達にとっては有利なファクターだといえるでしょう。
メリット2:融資は「ノンリコース」
中垣 また、投資家にとっては、ローンのリスクが軽減される、というメリットがあります。SPCのスキームを使うときに金融機関から借りるのは、「ノンリコースローン」といい、返済の対象はSPCが関わる投資対象資産に限定されるんですよ。
例えば、投資家が自社で不動産投資を行った場合、仮にその不動産の価値がゼロになったとしても、金融機関から借りたローンは、自社で返済していかなくてはなりません。一方、ノンリコースローンの場合には、対象となる責任資産についての返済に問題が生じても、それが投資家にリコース(遡及)しないのです。
また、SPCに対するノンリコースローンには、「融資限度額が広がる」「金利が下がる」というメリットがあります。
――なぜ、そのような有利な借り入れが可能になるのでしょうか?
中垣 ある企業に融資をする場合、金融機関は、その企業の信用力などを総合的に評価して融資額や金利を決めます。いろんな事業をやっていれば、どこかで大きな損失が出るかもしれません。そうした「コーポレートリスク」を考慮した融資になるわけです。
これに対して、ノンリコースローンでは、SPCに譲渡された資産のみを評価して融資条件を決めます。例えば、安定した収益が見込める不動産であれば、リスクは限定されるでしょう。ですから、有利な条件での借り入れが可能になるのです。本体の企業には融資が難しいような場合でも、SPCのスキームを使うことで、それが可能になることもあります。
――SPCを活用することで、投資家からの出資が受けやすくなる、金融機関からの融資のハードルも下がる。つまり、SPCを使うことで資金調達がしやすくなるということですね。
メリット3:SPCの資産を「簿外取引」にできる
中垣 SPCには、そこに譲渡した資産を「簿外取引」として処理できる、というメリットもあります。例えば、高額な不動産の場合、固定資産税をはじめその不動産に関連する出費も膨らみ、そのための資金調達が必要になることもあります。
本体の企業が不動産を所有していれば、そうした費用を決算(財務諸表)に計上しなくてはなりませんから、自己資本比率などの数字に影響を与える可能性があります。しかし、資産そのものを譲渡人や投資家から切り離せるSPCを活用したスキームならば、そのようなデメリットを回避することができるのです。
――SPCの活用にさまざまなメリットのあることがわかりました。日本全体としては、活用事例は増えているのでしょうか?
中垣 SPCは、もともとバブル崩壊により低迷した不動産市場の活性化を目的に、法整備などが行われてきた、という経緯があります。そうした不動産投資としてのSPCは、大きく伸びているというわけではありませんが、堅調というところでしょう。
SPCは、それ以外にM&Aや節税の手段として使われることがあり、最近は「脱炭素」関連のプロジェクトが活況です。
「後編」では、SPCの活用法や、SPCと企業のSDGs・再生可能エネルギーとの関わりなどについて語っていただきました。
「スペシャリストとしてより良いサービスを提供するとともに、いち早く新しく適切な情報を提供することにより、クライアントに貢献すること」を経営理念に掲げる。高い実績を持つSPC関連業務だけではなく、事業承継、M&A、IPO支援、資本政策など、業務内容は多岐に渡る。
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