【相続対策 後編】相続対策は「節税」だけではありません。円満な相続のために、特に不動産オーナーは生前の準備を

アスク税理士法人 代表税理士 金田誠一郎氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

相続税額は税理士によって大きく変わる!?

――不動産の相続では、やはり相続税が気になります。ここからは、どうしたら節税できるのかについてうかがっていきたいと思います。

金田 節税の前に、「相続税が課税されるか・されないか」について説明しておきたいと思います。相続税には基礎控除という仕組みがあって、被相続人(財産を渡す人)の遺産総額からこの金額を差し引いて、残った部分に課税されます。相続財産が基礎控除額を超えなければ、相続税は課税されません。原則として、申告の必要もないのです。

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。相続人が妻と子ども2人の計3人だったら、4,800万円ということになります。実は、この基礎控除額は、以前はもっと高かったのですが、2015年に大幅に引き下げられました。その結果、東京23区のような大都市圏に自宅を持っていたら、多くが課税の対象とされるようになったんですよ。

――小さな古い家でも、地価が高いですから。

金田 だから、「自宅以外には少額の預金しかない相続だったから、税金はかからないだろう」と考えていたのに、突然税務署から連絡が来て驚いた、といったケースがけっこうあります。

では、不動産の節税に話を進めましょう。相続の際にポイントになるのは、「不動産の評価額をどれだけ下げることができるのか」です。相続財産に占める割合が大きい不動産の価格を下げることができれば、それだけ遺産の総額が減り、納税額が少なくなるからです。

――今の話を聞いて、「えっ、不動産の価格って決まっているんじゃないの?」と思う人も多いのではないでしょうか。

金田 そうですね。でも、相続税の計算の基になる不動産価格は、現金などと違って、評価の仕方などで変わってきます。さらにいえば、どれだけ下げることができるのかは、担当する税理士の知識や経験などによって、大きな差が出ます。

ひとくちに税理士といっても、専門、得意分野があります。自慢話のようで恐縮ですが、当社にセカンドオピニオンを求めていらっしゃったお客さまの不動産について再評価したところ、価格を半分以下に抑えられたこともありました。

土地には様々な「状態」がある

――どのように評価していくのか、説明をお願いします。

金田 通常、不動産価格の多くを占めるのが土地です。その土地の相続税の計算の基礎となるのが、「路線価」といわれる指標で、毎年見直しが行われ、国税庁が公表します。路線価は、「その道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額」をいいます。つまり、「相続する土地に接している道路の路線価×その土地の面積」が、相続税を計算する際の土地の評価額となるわけです。

ちなみに、この路線価は、国土交通省が公表する「公示地価」の80%を目安に決められます。公示地価は実勢価格(実際に取引された土地の価格)に近い指標ですから、相続の際の土地の評価額は、実勢価格よりもかなり割安になっているということがいえます。

いずれにせよ、「そういう計算式があるのならば、やっぱり誰がやっても不動産の評価額は変わらないではないか」と思われるかもしれません。しかし、これはあくまでも「路線価の付いた道路にぴったり接している四角で平らな土地」、要するに「住みやすく、使いやすい土地」を前提としたもので、そうでない場合には、評価額の引き下げが認められているのです。

相続税に関する土地の評価の方法については、国税庁の「財産評価基本通達」といういわばルールブックがあって、そこに減額できるケースなどについても記載されています。

――具体的にどのような場合に引き下げが可能なのでしょうか?

金田 いろいろあるのですが、例えば、土地の形がいびつで使いにくい場合には、減額が可能です。路線価の付いた道路に接しておらず、別の道路を通らないとそこに出られない「旗竿地(はたざおち)」というのもあります。あとは、現地に行ってみたら、すごく傾斜が急な場所にあったとか。そうしたケースは、平坦な土地に比べて使い勝手が悪いですから、やはり評価額を下げられる可能性があるわけです。

――不動産を評価される場合には、現地に足を運んで調べるのですね。

金田 必要ないことが明らかな場合以外は、現地調査を行います。実際に行ってみたら、近くに電車の線路があって、騒音がひどいということもありました。騒音や振動なども、減額の理由になるのです。

図面で減額の可能性に気づくこともあるんですよ。少し細かな話になりますが、さきほどの「基本通達」には、路線価が設定されるのは、「不特定多数の者の通行の用に供されている道路」と定められています。ところが、対象の土地が接していたのは、どう考えてもそうは思えない道路にもかかわらず、そこに路線価が付いていたことがあるのです。理由は、いまだ不明なのですが。

そこで、役所や税務署と確認や折衝を重ねた結果、最終的には、「その路線価は使わなくていい」ということになり、少し離れた道路のもので計算することになりました。けっこう広い土地だったので、初めの路線価に従っていれば、評価額は1億5,000万円ぐらい。それを5,000万円ほどまで減額することができました。

――相続に詳しい専門家に依頼する重要性を実感できる事例だと感じます。

金田 もちろん、「節税ありき」で無理な減額を行えば、あとで税務署から問題点を指摘される可能性がありますから、そこにも注意しなくてはいけません。

付け加えておけば、相続税には、被相続人が住んでいた宅地を配偶者や子どもなどが相続する場合、要件を満たせば、評価額を最大80%引き下げることができる「小規模宅地等の特例」という制度があります。1億円の宅地の評価額を2,000万円まで引き下げられるのですから、節税効果は抜群。ですが、要件を満たすかどうかの判断が難しい場合も多く、そもそも制度のことを知らなければ使うことはできません。

なお、さきほど相続財産が相続税の基礎控除額以内なら、申告も不要と言いました。しかし、この特例制度を使った結果、基礎控除額以内に収まることになった場合には、申告が必要になりますから、注意してください。

相続は誰にいつ相談すべきか

――不動産の相続について専門家に相談しようと思ったら、やはり税理士の先生がいいのでしょうか?

金田 窓口は税理士がいいと思います。相続の手続きは、相続税がかかるのかどうかで大きく変わってきますから、まずは税の専門家にその判断を仰ぐ、という意味もあります。また、不動産を相続すると、名義変更のための登記が必要になり、その手続きは司法書士に依頼することになります。相続に詳しい税理士ならば、専門家のネットワークを持っていますから、手間をかけずにつないでもらえるはずです。

初めに司法書士に相談に行くという方法もありますが、この場合には、あまり相続の経験のない税理士を紹介される可能性が、ないわけではありません。不動産登記は相続に限ったものではありませんから、司法書士が相続に強いネットワークを持っているとは限らないからです。

――「相続に詳しい税理士」は、どのように探したらいいですか?

金田 事務所のホームページは、けっこう参考になると思いますよ。さきほども申し上げたように、税理士にも専門分野があります。差別化してアピールしたいという気持ちを持っているのは、他の業種と変わりません。相続に強いのであれば、そこを前面に押し出すつくりになっているはず。逆に、税務顧問や確定申告などの項目と並列的に相続をうたっているところは、「相続もやります」というスタンスかもしれません。

あえていえば、遺産額が少なくて分割も容易な場合などには、税理士に申告だけを頼んで、できるだけコストを下げるというのもいいと思います。一方、高額な不動産が含まれる相続は、やはり不動産の相続に実績のある税理士、事務所を選ぶ必要があるでしょう。

――依頼するとしたら、どんなタイミングがいいのでしょうか?

金田 複数の不動産があるようなケースでは、「早ければ早いほうがいい」というのが答えになります。例えば、多くの財産を一気に相続すれば、相続税も高額になりますから、生前に贈与して財産を縮小しておくという方法があります。ただし、贈与税を抑えるためには、長い期間に渡って少しずつ渡していく必要があります。生前から相談していただければ、専門家の立場から、そうした様々な選択肢を提案することが可能になるのです。

「親が自宅を残して亡くなったけれど、相続税がかかるかどうかわからない」というようなケースでは、遅くとも親族が集まる故人の四十九日くらいまでには、税理士に相談することをお勧めします。相続は、相続人の気づかない財産が見つかったというようなリスクが、どこに潜んでいるかわかりませんから。

なお、相続税の申告・納税期限は、被相続人が亡くなってから10ヵ月です。意外に短いことも頭に入れておいてほしいと思います。

――わかりました。最後に貴社の今後の目標などをお聞かせください。

金田 相続はどうしてもスポットで終わりがちなのですが、財産はどんどん受け継がれていくものなんですね。例えば、目先の一次相続(両親のうちのどちらかが亡くなった相続)をやり過ごしても、次の二次相続でトラブルになったり、税金が膨らんだりしたら意味がないのです。

そうしたことも含めて、これからもきちんとお客さまと向き合って、それぞれのニーズに見合った最適の提案ができる事務所を目指していきたいと考えています。

おかげさまで、お客さまからのご依頼も増えています。十分なサービスを提供できるよう、メンバーの増員など事務所の体制強化も図っていく予定です。

――相続はとにかく早めの準備が大事ということがよくわかりました。今後の事務所のますますの発展を期待しています。本日はありがとうございました。

一人ひとりの将来設計に合わせてピッタリな提案を行い、将来の不安をなくすサポートまで行う“提案型”の税理士事務所。特に相続案件に特化しており、お客様に寄り添いながら、相続税申告から生前対策まで徹底的に課題解決する。

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