【資産形成 前編】「お金を貯めておくのはリスク」の時代に。新NISAを武器に、海外にまで目を広げて資産形成を

クライサー税理士法人 代表社員 石田昇吾氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

子どもの教育資金や、老後の生活費が心配だ。とはいえ、資産運用のやり方はよくわからないし、何だか怖い――。しかし、「そうやって何もしないのが、むしろリスクの時代になっている」と、クライサー税理士法人の石田昇吾代表社員は言う。今回は、『人生100年時代の着実なお金の作り方』(総合法令出版)の著者でもある石田氏に、資産を守り、増やしていくために今考えるべきことについて、話をうかがった。

記事は、「前編」で今こそ積極的な資産運用が必要な理由について、「後編」で2024年にスタートする「新NISA」の活用をはじめとする具体的な運用方法を中心に、まとめた。

事業内容に「ファイナンシャルプランニング」を掲げる事務所

――貴社の概要からお聞かせください。

石田(敬称略) 亀戸(東京都江東区)の本社と恵比寿事業所(同渋谷区)の2拠点体制で、社員は法人全体で30名弱、うち税理士が5名の体制となっています。お客さまは、顧問先の企業が300件、個人が150件くらいです。

――事業内容に、税務会計や相続などとともに「ファイナンシャルプランニング」を掲げていらっしゃいます。税理士事務所としては、かなり珍しいことだと思うのですが。

石田 そうですね。もともと個人で株の投資などはやっていたのですが、5年ほど前、顧問先のお客さまから、立て続けに当時ブームになり始めていたビットコイン(仮想通貨)についての質問を受けたんですよ。それで、どんなものなのだろうと調べてみたら、けっこう面白い投資だな、と。

当時は、ビットコインに詳しい税理士がほとんどいない時代でしたので、「申告をやりますよ」と打ち出したら、連日「お願いします」という電話が鳴り続けるような状況になりました。

ただ、その後に一時相場が暴落して、大きな損を出す人も出た。それで、納税だけではなく、リスクも含めた投資の意味や方法、ひとことでいえば「お金のリテラシー」についてアドバイスできたらいいな、という問題意識が芽生えたわけです。

仮想通貨に関していえば、一気に資産を増やせる夢がある半面、今の話のように価格急落のリスクもはらんだ、投資というより投機に近い性格のものです。着実な資産形成に必ずしも適した商品とはいえませんから、実際には株式や不動産、保険の組み合わせなどをメインに、お客さまの状況やニーズに応じた提案をしています。

「中立」な税理士だからこそ、お客さまの味方になれる

――税理士が資産形成についてアドバイスをするメリットは、顧客からみてどういうところにあるとお考えですか?

石田 アメリカなどでは、ファイナンシャルプランナー(FP)に高額の顧問料を支払って、資産運用を任せたりします。FPというビジネスが単独で成り立っているのですが、今の日本にそういう文化はありません。FPの資格を持つ人は、たいてい保険会社や証券会社、不動産会社などに就職し、「お金の相談」に乗りながら、最後は自社の商品を販売して稼ぐわけです。

そうなると、資産形成のアドバイスは、「商品を売るためのもの」になりがちです。ある意味、当然のことともいえますが、顧客ファーストの考え方とは矛盾する場合もあるでしょう。でも、税理士には、そのような“しがらみ”はありません。「中立」なスタンスで、100%お客さまの味方になれるんですよ。それがわれわれの強みだと思っています。

――税理士なら、アメリカのFPと同じようなポジションに立てるわけですね。

石田 とはいえ、現状では、彼らと同じような高い報酬が得られるわけではありません(笑)。安定した事業として成り立たせていくうえでは、もちろん課題もあります。

顧問契約をいただいたお客さまには、それにプラスする形でサービスを提供することができます。そうした点もセールスポイントにしながら、サポートの幅を広げていきたいと考えています。

今は資産形成の「ピンチ」であり「チャンス」

――ところで、貴社のお客さまは、みなさん資産形成について関心をお持ちなのでしょうか?

石田 関心の高い人も、「興味がない」とおっしゃる方もいます。ただ、私は今こそ自分の資産をどうしていくのか、真剣に考えるべき時だと思うのです。

――そう考える理由を教えてください。

石田 「ゼロ金利」の今では想像できませんが、かつて郵便局の定額貯金にお金を積めば、年8%の金利が付いた時代がありました。10年預ければ、貯金は余裕で倍増です。また、ここ30年ほどはデフレ、すなわち物価が下がっていく経済環境でしたから、貯金しておくだけで、お金の価値は相対的に上がっていったんですね。

しかし、ここにきて状況は変わりました。物価は上昇に転じ、“インフレかつゼロ金利”の世の中になったのです。こうなると、お金は預けておくだけでは、どんどん「目減り」していきます。ちなみに、今年に入って4%近いインフレ率にもなりましたが、それだと1,000万円が1年で40万円減る計算になります。

資産運用を「リスクが伴うから」と敬遠する人は、少なくありません。ただ、私に言わせれば、今何もしないことこそがリスクなのです。資産を増やす以前に、守ることが難しくなってしまうのですから。

――なるほど。インフレの「怖さ」をしっかり認識する必要がありそうです。

石田 今この時期に、資産形成について考えるべき理由が、もう1つあります。来年1月から、現行のNISA(少額投資非課税制度)を大幅に拡充した新しい制度(「新NISA」)がスタートします。本気で資産を守る必要が出てきたところに、タイミングよく、そのための優れた武器となりうる仕組みが誕生するんですよ。

いろんな意味で投資の初心者にも適した制度で、中身をよく理解したうえで、積極的に活用すべきだと思います。ただし、実はこの新NISAのスタートに際しても、気をつけたいことがあるのです。メリットを説明する前に、まずはその点から述べておきましょう。

――ぜひお願いします。

石田 これから新NISAが始まる来年にかけて、世間一般の投資に対する関心が高まるのは、間違いないでしょう。そうした中で、銀行や証券会社などが、自社のさまざまな投資信託(※)の営業攻勢を強めるはずです。ただし、投資信託にもいろんな商品があります。誤解を恐れずに言えば、金融機関が勧めるものには、初心者にはわかりにくいデメリットが潜んでいることに、注意が必要なのです。

※投資信託:投資家から資金を集め、ファンドマネジャーなどの運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する金融商品。

――どんな問題があるのでしょうか?

石田 投資信託でいえば、信託報酬、要するに金融機関の手数料が高めに設定されていることが多いのです。銀行の窓口で買うものには、信託報酬が2%、3%という商品が珍しくありません。そう言われてもピンとこないかもしれませんが、仮にそれが3%だとすると、投資そのもので5%の運用成果を上げたとしても、そのうちの6割は手数料に消えてしまうことになるんですよ。将来のためにと思って運用を始めても、実質的な利回りが抑えられてしまっては、思うような資産形成は望み薄です。

――私たちは、どうしても表向きの利回りに目を奪われがちです。金融機関の手数料というのは盲点でした。

石田 世の中にそのような商品しかないのなら、話は別です。でも、ネット証券などが提供するものの中には、信託報酬が0.数%台のファンドなども存在します。長期の運用をすればするほど、この手数料の違いが大きな差になって表れます。

投資の初心者の方は特に、まずはそうした基本的な知識を持つことの重要性を理解してほしいと思うのです。投資ブームに乗って、銀行の窓口で勧められるままに金融商品を申し込むというのは、賢い行動とはいえません。

「後編」では、新NISAやiDeCo、海外のインデックスファンドなど、ファイナンシャルプランニングの具体策について、引き続き話をうかがいます。

税務というフィールドでありながら、コンサルティング的な視点でお客さまに寄り添い、多様な課題を解決する専門家集団。税務会計業務だけではなく、相続・事業承継からファイナンシャルプランニングまで、幅広い内容に対応。著書:『人生100年時代の着実なお金の作り方』(総合法令出版)

URL:https://cliser.co.jp/

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