【税務調査 前編】コロナ禍の反動で増える税務調査、狙われやすい会社とは。調査になったら「やるべきこと」と「考えるべきこと」

税理士法人スバル合同会計 東京事務所所長 秋田谷紘平氏(左)、グループ統括事務長 佐々木英二氏(右)
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

新型コロナの流行により「自粛」されていた対面による税務調査が、2023年夏以降急増しているのをご存じだろうか。いうまでもなく、中小企業や個人事業主の申告もその対象だ。今回は、税務調査に入られやすいケース、調査になった場合の対処法などに加え、「調査を将来に生かす」考え方について、税理士法人スバル合同会計の秋田谷紘平氏(社員税理士 東京事務所所長)、佐々木英二氏(グループ統括事務長)にお話しいただく。

記事は、「前編」で税務調査の概要、「後編」で調査への対処法、税理士に依頼するメリットなどについてまとめた。

国税庁OBの税理士も所属する事務所

――はじめに貴社の概要からお聞かせください。

秋田谷(敬称略) 当社は、東京のほか札幌から福岡まで、全国に12ヵ所の拠点があります。全社で220名ほどの体制で、税理士は28名が在籍しています。うち東京事務所は、メンバーが85名、税理士が9人の体制です。

――税務調査にも高い実績をお持ちだということで、今回、このテーマをお願いすることになりました。

秋田谷 税理士には、納税者の税務調査に立ち会って、税務署の調査官と対応することが認められています。当社は、お客さまが税務調査になった場合には、必ず税理士を含めた2~3人で対応します。社内には、国税庁のOB、それも統括官といって所員に調査の指示を出すポスト以上だった税理士も複数いるんですよ。税務調査を知り尽くした人がいることは、私自身も心強く思っています。

誰でも可能性がある税務調査

――税務調査と聞いても、「なんとなく怖い」といった漠然としたイメージの人が多いのではないでしょうか。そもそもどういうものなのか、説明していただけますか。

「税務調査は誰にでも入る可能性があります」と秋田谷氏

秋田谷 税務調査の目的は、ひとことで言えば、納税の公平性を保つこと。そのために、納税者が正しい申告をしているのか、当局が調査を行うのです。

調査には大きく2種類あって、1つは国税局査察部、通称「マルサ」が裁判所の令状を持って行う強制調査です。テレビドラマなどでおなじみですが、調査に入られたらその場で調査官の指示に従わなくてはなりません。悪質で高額な脱税などが対象です。

一般に税務調査といわれるのは、管轄の税務署による任意調査のことです。任意ですから、理屈のうえでは拒否することも可能。ですが、実際には「お帰りください」と言って許してもらえるものではなく、実質的には強制に近い調査だと考えてください。

どこに調査に入るのかを決めるのは、税務署です。何年かに一度、必ず入るというものではありませんが、納税者であれば誰にでもその可能性があるということは、認識しておく必要があります。

――対象になった場合、具体的にはどのように調査が進められるのでしょう?

秋田谷 任意調査の場合には、通常、事前に税務署から連絡が入ります。そのうえで調査の日時を決め、帳簿や領収書など用意すべき書類などを指示されるというのが、一般的なパターンです。この時、税理士に依頼して申告していた場合には、基本的にその税理士に連絡が行きます。個人で申告していた人には、申告書に書かれた番号に直接電話がかかってくることになります。

ただ、現金を扱う業種、例えば飲食業などの場合には、不正の証拠をつかむためにいきなり調査官がやってくる、ということもあるんですよ。税務署員が客を装って来店し、レジ回りのお金の扱いなどに目を凝らして、不審な点を把握してから調査に入るようなことも珍しくありません。

――そういう場合には、そのまま調査に従うしかないのでしょうか?

秋田谷 強制調査ではありませんから、「この後予定があるから、日を改めてほしい」といった交渉は可能です。「税理士が来るまで、待ってほしい」と主張することもできます。

調査は、会社や事務所、自宅に1~3人くらいの調査官が来て行われます。期間は、個人や中小企業の場合は、だいたい1日か2日、少し規模の大きなところで3日以上ということもあります。

目に見えて調査件数が増えている

秋田谷 この税務調査なのですが、2020年からの新型コロナの流行で、ここ3年ほどは、調べたくてもできない状態が続いていました。当社にも、まったくといっていいほど音沙汰なしだったのですが、今年(2023年)の7月以降、状況は一変しています。7月というのは国税庁の年度始まりで、人事異動の完了に合わせるように、税務署から調査の連絡がひっきりなしに入るようになったんですよ。

――コロナ以前に戻りつつあるということですね。

秋田谷 そうですね。東京事務所だけで週2~3件ですから、相当のハイペースです。ただ、調査の内容というか目的には、コロナ前とは若干の違いもあるように感じます。

この間、私が立ち会った調査には、毎回必ず新人の調査官がいました。以前はなかった現象です。これは私の想像ですが、税務署もこの3年間、新人の実地研修がほとんど出来ませんでしたから、対面が可能になったのを機に、彼らをどんどん現場に出しているのではないでしょうか。

その結果、誤解を恐れずにいうと、半分新人研修の意味を込めた調査も増えている感じがするのです。数をこなすとなると、従来なら選ばれることがなかったようなところにも、調査の入る確率が高まります。

――実際にそういうことが起こっているのでしょうか?

秋田谷 今の話と直結するかどうかは正確にはわかりませんが、明らかに増えているのは、売上が1,000万円近辺の個人事業主。ポイントは、「売上1,000万円」が、消費費税の課税事業者になるか、免税事業者なのかの分岐点となることです

自分で申告する事業主の中には、免税事業者でいるために一部の売上を隠したり、あるいは翌年に回したりして、申告書の売上は九百何十万円になっている、という方が時々いるわけです。もともと目をつけられやすいスポットではあったのですけど、この夏以降の税務調査では、このパターンで「税務署から連絡があったのですが」と相談に来るケースが、非常に多くなっているんですよ。

インボイス制度のスタートということもあって、税務署がこのような状況の方々を重点的にマークしているのは、間違いないでしょう。やましいところがあるかないかにかかわらず、売上が900万円台の個人事業主の方は、以前にも増して調査のターゲットになりやすくなっていることを認識すべきだと思います。

税務調査で狙われやすいケースとは

――調査で狙われやすい業種はありますか?

秋田谷 一般論として、まずマークされやすい業種というものがあります。国税庁は、毎年の税務調査の状況を公表していますが、例えばさきほど説明した国税局による強制調査の結果、特に悪質だとして検察庁に告発された事案を業種別にみると、建設業、不動産業、小売業、人材派遣業が上位にきています(※)。

※国税庁「令和4年度 査察の概要」

個人に関していえば、1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な業種として、経営コンサルタント、システムエンジニア、ブリーダーなどがリストアップされています。コロナ前は、風俗業、キャバクラが常連でした(※)。

※国税庁「令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」なお、事務年度は7月~翌年6月

――そうした業種は、他の業種に比べて申告漏れなどが多いから、調査に入られやすいわけですね。

秋田谷 そうです。また、申告書類の数値に「異常値」が見られる場合などにも、調査対象に選ばれやすくなります。例えば、飲食店であれば、原価率はだいたい30%なのに、60%もある。こんなに仕入れているのに、売上が少ないのはなぜか? あるいは、前期に比べて大きく売上が伸びているのに、利益はさほど変わらない。今期はやけに交際費が増えている――。そういう疑問を抱けば、調べに来るわけです。

国税庁は、納税者の過去の申告状況や納税情報を一元的に管理する「KSKシステム」(国税総合管理システム)※というネットワークを構築しているのですが、これを税務調査先の選定にも活用しているといわれています。

※全国の国税局や税務署をネットワークで結び、納税者の申告に関する全情報を一元的に管理するコンピュータシステム

佐々木 個人でも企業でも、赤字が出ると、その分を一定期間、次期以降の黒字と相殺できる仕組みがあります。

けっこう耳にするのが、その繰越欠損金がなくなって、決算上の黒字が出たタイミングで調査に来た、という話なんですよ。

「例年と違った状況は目をつけられやすい」と佐々木氏

やはり何か例年と違った状況が生まれると、税務署に目をつけられやすいということなのかもしれません。

「後編」では、税務調査になった場合の対処の仕方などについて、さらにお話をうかがいます。

クライアント数4,000社を超える豊富な経験と実績で、全国12拠点のネットワークを持つ専門家集団。お客さまの多彩なニーズに答えるため、各専門分野別に特化したコンサルティングチームを編成し、起業から税務調査対応、事業承継まで、幅広いサービスを提供する。

URL:https://subaru-tax.com/

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