【税務調査 後編】コロナ禍の反動で増える税務調査、狙われやすい会社とは。調査になったら「やるべきこと」と「考えるべきこと」

税理士法人スバル合同会計 東京事務所所長 秋田谷紘平氏(左)、グループ統括事務長 佐々木英二氏(右)
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

「普通の申告」を心がける

――税務調査をなるべく回避する方法はあるのですか?

秋田谷(敬称略)節税対策には、“グレーゾーン”の部分が、多くあります。「これを経費にできるかどうか」というのは典型と言っていいでしょう。そうしたところで、あまり無理をし過ぎない、あえて言えば「過度な節税」に走らない、というのは大事なことだと思います。

無理をした結果、同業に比べると明らかに中身の違う申告書になれば、税務署に目をつけられる確率は格段に高まります。頑張って節税したつもりだったのに、税務調査になって、結局がっぽり税金を取られてしまったというのでは、元も子もないでしょう。

ただし、税務署は、必ずしも怪しいとにらんだ納税者のところだけに来るとは限りません。事業に関する税金は、利益に課税されるものですから、やはり「儲かっている事業者」は、調査に入られやすいといえます。例えば、起業して順調にステップアップしている会社だったら、5年目くらいまでには1回税務調査が行われると考えたほうがいいでしょう。

佐々木 当然のことながら、“グレーゾーン”の枠を超えて、「このくらいなら大丈夫だろう」と、「税逃れ」の操作をしたりすることは禁物です。そういう行為があると、秋田谷の話にもあったように、決算書類のどこかに“影”が出ます。専門家の目をごまかすのは困難だと思ってください。

ちなみに、税務調査の結果、申告漏れということになると「過少申告加算税」、そもそも申告していなかった場合には「無申告加算税」、悪質な所得隠しが発覚すると「重加算税」などのペナルティが課せられます。それとは別に、納付期限から起算される「延滞税」も支払わなくてはなりません。

税務調査を税理士に依頼するメリットは

――もしも税務調査が行われることになったら、どのように対処すべきでしょうか?

秋田谷 前編で述べたように、申告書に税理士の名前があれば、基本的に調査の連絡はそちらに入ります。税理士の指示に従って、準備を進めればいいでしょう。自分で申告を行っていて税務署から直接連絡が来た場合にも、税務調査に強い税理士を探して、サポートを依頼すべきです

――調査への対応は、やはり税理士に頼む必要があるわけですね。

秋田谷 税務署側からすれば、相手が納税者単独だったら「超ラッキー」です(笑)。彼らは、決定事項を伝えに来るのではなく、「この支出は、経費として認められない可能性がありますよ」というスタンスで、調査に来るわけですね。税務に詳しくない人が税務署にそのように指摘されて、自信をもって反論できるでしょうか。結果的に税金を「取られ放題」になる可能性が、かなりあると思います。

繰り返しになりますが、特に経費に関しては、認められるか否か、解釈の余地のある場合が多いわけです。税務調査に強い税理士ならば、妥当性があるものに関しては、税務署の主張に対して根拠を示しながら反論してくれるはずです。そのようにして経費として認めさせたり、場合によっては税務署側の解釈を飲んで修正したり。いずれにしても、そうしたやり取りは、その場に税理士が同席して、その知識や経験を元に対応してもらった方がいいでしょう。

今説明したのは調査当日の話ですが、税理士を含めた事前の準備も重要です。申告の中身などを見れば、我々には調査で税務署がどこを突いてくるのかは、ある程度わかります。それを踏まえて、「このように対応しましょう」という対策を考えることもできるんですね。そうしたこともなしに、“丸裸”で「徴税のプロ」と向き合うと、案件によっては何百万、何千万円の「損」になることだってありえます。

――実際、調査をサポートしていて、そのような例はありましたか?

「課税する側が間違う可能性もあるんです」と佐々木氏

佐々木 特殊な事例ではありますが、税務調査に伴う3,000万円近い課税を回避したことがあります。輸出ビジネスに関する消費税の還付をめぐる「争い」だったのですが、税務署は書類が不備だから、すでに還付を受けた金額に加えて、本来支払う税やペナルティを合わせて支払ってください、と。

でも、よく調べてみたら、申告したタイミングよりも後に法改正があって、調査はその新しい法律に基づいて行われていたことがわかったんですよ。

以前の法律なら、何ら問題なしでした。このケースは解釈の問題ではなく、国税サイドが間違えていたわけです。

――課税する側が間違っていることもあるんですね。

秋田谷 今の例は滅多にない話だと思いますけど、調査官も税法や通達、調査の手続きの指針など、覚えることが大量にある中で、その全てが、全部頭に入っているとは限りません。新人が来るという話もそうですが、勉強しながら調査に入るというケースも少なくないのです。

同時に理解しておくべきなのは、税務署の調査官も人間だということです。調査の際に1から10まで言いなりになる必要はありませんが、かといって初めから“戦闘モード”で対応するというのもお勧めできません。求められた書類は速やかに提供するなど、調査には協力したうえで、反論すべきことがあればしっかり主張する、というスタンスを基本にすべきでしょう。

佐々木 税務調査では、1日目の午前中に、まず概況調査という納税者と調査官の面談が行われます。このときに調査官に与える印象によって、その後の対応がずいぶん違ってくるのだ、という話も聞きますね。社長が反抗的な態度を取ると、税務署側も「やってやるぞ」と(笑)。そうなって得なことはないと思いますから、協力すべきことはして、できるだけスピーディーに終わらせることを考えるのがいいと思います。

秋田谷 もちろん、「やましいところはまったくないから、どれだけ時間がかかっても徹底的に戦う」というのも、納税者の権利です。お客さまがそういうニーズをお持ちならば、我々もそれを尊重し、徹底的に反論します。

「嘘の申告をした」「無申告だった」。そんな場合はどうする?

――あえてうかがうと、税務調査になった案件で、「やましい申告」をしていたケースもありますか?

秋田谷 「実は申告した以外に、こういう売上もありました」というようなことも、ごく稀にはあります。税務調査の「再開」で、最近は「間違った申告をしていました」「起業以来、申告していませんでした」というような方が、駆け込んでくることも増えました。

――そうした場合には、どのように対応なさるのでしょう?

秋田谷 私たちとしては、「今後はきちんとやっていきます」という方については、全力でサポートさせていただく、というのが基本姿勢です。やってしまったことは仕方がないので、正しく修正申告を行い、加算税などを支払ったうえで、その後についてもお手伝いします。一方、「今後はバレない方法を指南してほしい」といった相談に乗ることは、当然のことながらできません。そこはきっちり線引きして、対応します。

私の印象ですが、無申告の個人事業主の方などには、「税務署を騙してやろう」というような悪意のある場合は少ないのではないでしょうか。「申告しなければ」と思いつつ、つい忙しくてそのままにしているとか、周囲に「大丈夫だ」と言われたとか。

――そうやってズルズルきてしまった、というパターン。

秋田谷 そうです。でも、事業で利益が出たら税金を支払うのは当然のことです。言い方を変えると、きちんと利益を出し、それに見合う税金を支払い、生活や事業のためのお金を残すことができて、初めて一本立ちしたといえるわけですね。実際、無申告のままだと所得の証明ができませんから、住宅ローンを組んだりすることも不可能です。

そういうモヤモヤした状態の人にとって、税務調査というのは人生をリセットする機会になりうると、私は思っているんですよ。単なる感想ではなくて、調査をきっかけに心を入れ替え、申告・納税をきちんとやるようになったことが事業にいい影響を及ぼして、法人化までつながっていった例もあります。「税務調査で納税の意味が分かった」「勉強になった」という感想を述べる人も、けっこういます。

――そういう方向に導いてくれる税理士に、サポートしてもらうことも重要ですね。

秋田谷 付け加えておくと、正しい申告をしてもらうのがベストなのはいうまでもありませんが、もし税務署から自分に連絡が来たら、その段階で速やかに税理士に依頼するようにする。すでに調査に入られて、帳簿などを持っていかれてしまったような状態であっても、その後自分ひとりで対応するよりは、プロに頼んだ方がはるかにいいと思いますよ。

税務調査で終わらせない

――あらためて、税務調査における貴社の強みを聞かせてください。

秋田谷 当社の特徴の1つは、「税務調査に対応して終わり」にしないことです。お客さまとは、調査の振り返りをして、「今回は、税務署からこういう指摘を受けましたから、今後はこうしていきましょう」という話を必ずするんですよ。

「税務調査が人生をリセットする機会にもなりうる」と秋田谷氏

さきほどの話にも通じますが、税務調査を事業がより発展、成長できる機会ととらえ、それが実現できるように継続的にサポートしていく体制を整えているというのが、強みといえるかもしれません。

――今後の貴社の目標もお聞かせください。

秋田谷 そういうサービスを1人でも多くのお客さまに提供できるよう、自分たちも成長を目指していきたいと考えています。東京近郊などをターゲットにさらに拠点を拡充しながら、当面グループ全体で300人規模を目標にしています。

――今後の事務所のますますの発展を期待しています。本日はありがとうございました。

クライアント数4,000社を超える豊富な経験と実績で、全国12拠点のネットワークを持つ専門家集団。お客さまの多彩なニーズに答えるため、各専門分野別に特化したコンサルティングチームを編成し、起業から税務調査対応、事業承継まで、幅広いサービスを提供する。

URL:https://subaru-tax.com/

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