【贈与税 前編】2024年から大きく変わる贈与税。
課税の仕組みを理解して、有利な生前贈与を

福武由利子税理士事務所 代表 福武由利子氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

財産を子どもなどに渡す生前贈与を行うと、税率の高い贈与税がかかることがある。この贈与税の課税の方法が、2024年1月から大きく変わる。新しい制度の下で、なるべく税負担を少なくスムーズに財産を渡すために、考えるべきこととは? 相続、贈与に詳しい、福武由利子税理士事務所の福武由利子代表にうかがった。

記事では、「前編」で贈与税の基本的な仕組みについて、「後編」で2024年からの制度の変更点と、それを踏まえた注意点などを中心に、お話しいただく。

贈与税には、2つの課税方式がある

――先生が事務所を開業されたのは、いつですか?

福武(敬称略) 2021年の11月です。それまでは税理士法人で勤務税理士をしていました。独立後は、業種に関わりなく、法人、個人の顧問をやっていますが、女性で開業している税理士が少ないこともあって、女性のお客さまに選んでいただくケースも多く、その比率は、他の事務所に比べて高いかもしれません。事業にかかわることばかりでなく、今回のテーマである贈与や相続についての相談もお受けしています。

――「子どもを経済的に援助したい」「不動産などの財産を自分が生きているうちに渡しておきたい」といった思いを持つ人は少なくないわけですが、どうしても気になるのは、受贈者(贈与を受けた人)にかかる贈与税です。税率も高いと言われますし。

福武 そうですね。加えて、2024年1月からは課税の仕組みがかなり大きく変わります。従来の考え方で贈与を続けていると、税額が予想外に膨らむ可能性がある半面、やり方によっては、今まで以上に有利に贈与を行うこともできるんですよ。

――それぞれについて説明をお願いします。

福武 最初に、そもそも贈与税とはどういうものなのか、その課税の仕組みを押さえておきましょう。税金の観点からみると、贈与には「暦年課税(暦年贈与)」と、「相続時精算課税」の2つの方法があります。前者の歴年課税から説明します。 

暦年課税とは

福武 暦年課税というのは、1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた金額に応じて、課税される方式です。この暦年課税には、110万円という基礎控除額があって、これを超えた額が課税対象になります。つまり、1年に110万円までならば、基本的に税金がかからずに贈与することができるのです。

――「贈与するなら、毎年少しずつ渡していくのがいい」と言われるのは、そのためですね。

福武 普通、生前贈与と聞いて頭に浮かぶのは、このやり方だと思います。ちなみに、110万円を超えた部分にかかる税率は、直系尊属(※)からの贈与の場合、一般税率ではなく、特例税率が適用されます。200万円までが10%、200万円超から400万円までの部分には15%……などとなっていて、最高税率は4,500万円超の部分にかかる55%です。

※直系尊属:父母・祖父母など、自分より前の世代で、直通する系統の親族(養父母も含む)

仮に、子どもに対して1年間に400万円の贈与を行ったとします。この場合、400万円から基礎控除額の110万円を引いた290万円が課税対象になります。税額は、「課税290万円×15%-10万円(特例税率の控除)=33.5万円」となる計算です。

一般的には、基礎控除額を大きく超えた場合の贈与税は、相続税よりも割高になる傾向があるんですよ。でも、初めの話にあったように、長期間少額ずつの贈与を行うなど、基礎控除の枠を有効に使いながら、生前に財産を子どもなどに移動することで、相続税の課税対象となる相続財産を圧縮することができます。すなわち、暦年課税の贈与には、相続税対策になる、というメリットがあるわけです。

――贈与の期間が長いほど、贈与する相手が多いほど、基礎控除額の総額が増え、多くの財産を非課税で渡していくことができます。

福武 そうです。新しい制度でも、そういう暦年課税の基本的な仕組みはそのままなのですが、納税者にとっては「不利」になる変更があるんですね。後編で詳しく説明します。

相続時精算課税とは

福武 次に、もう1つの相続時精算課税です。ひとことで言えば、これは、「一定額までは、贈与税非課税で生前贈与を受けることができ、税金は相続になったときに相続税として支払う」という仕組みです。2,500万円までは、贈与税が非課税となります。

――イメージとしては、「税の後払い」ということになります。

福武 はい。贈与されたものは、相続財産に合算され、相続税が計算されます。特別控除といっても、もちろん税金自体がなくなるわけではありません。以下、変更前の仕組みに沿って、概要を説明します。

この相続時精算課税による贈与も、暦年贈与と同じように何度でも行うことができますが、贈与の総額が2,500万円を超えた場合には、その金額に一律で20%の贈与税が課税されます。

例えば、この制度を使って総額2,800万円の贈与を行った場合、「2,800万円-2,500万円=300万円」に20%、60万円の贈与税が発生するわけです。このとき課税された贈与税は、相続税の支払いの際には、差し引くことができます。

――それも含めて、相続税で「清算」するわけですね。

福武 そういうことです。なお、相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対する贈与に使える、という縛りがあります。

相続時精算課税を選択する場合には、受贈者が税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出し、贈与税の申告書に添付して提出することが必要です。また、贈与を暦年課税から相続時精算課税に変更して継続することはできますが、逆は不可です。いったん相続時精算課税を選択すると、暦年課税に変更することはできないんですよ。

――そうした点には、注意が必要ですね。

福武付け加えておくと、贈与税には、これらとは別に2つの「非課税措置」が設けられています。1つは「教育資金の一括贈与」で、子や孫に教育資金を拠出した場合には、1,500万円までが非課税となっています。もう1つは「結婚・子育て資金の一括贈与」で、こちらは1,000万円まで課税されません。

両方とも2023年3月までの特例措置とされていたのですが、2023年度の税制改正で、「教育資金」は2026年3月末まで、「結婚・子育て資金」は2025年3月まで、延長されることが決まっています。

「後編」では、2024年からの暦年課税・相続時精算課税、それぞれ変更点を中心にさらにお話をうかがいます。

法人の顧問・個人の確定申告業務だけではなく、生前の相続税対策コンサルティング~相続税申告までトータルで経営者をサポート。「経営者のお悩みに応えられる税理士」になることをビジョンに掲げ、女性税理士ならではの丁寧できめ細やかなサービスを提供。

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