【節税 前編】相続で子どもが揉めないためには、 遺言書を残すのがベスト。 節税は「誰に財産を渡すのか」がポイントになる

ベンチャーサポート相続税理士法人 代表税理士 古尾谷裕昭氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

仲の良かったはずの兄弟が、親が亡くなって遺産の分け方を話し合い始めたとたんに、揉め事を起こす。それが相続の怖さだ。「うちには、争うほどの財産はないから」というのが、実は最も要注意だったりもする。今回は、年間約2,200件の相続を扱うベンチャーサポート相続税理士法人の古尾谷裕昭 代表税理士に、円満な相続のために考えるべきことさらに相続税の節税のポイントなどをうかがった。 記事では、「前編」で揉めない相続のために必要なこと、「後編」で相続税対策などを中心にお話しいただく。

遺産が少なくても争いは起こる

――貴社は、名前の通り相続専門の税理士事務所ですね。

古尾谷(敬称略) はい。案件は相続に特化しています。規模としては、東京とその近郊(埼玉、千葉、神奈川)、名古屋、大阪に拠点があり、全体で約130名の体制です。税理士は、15名ほどが在籍しています。

年間約2,200件の相続税申告を扱っているのですが、もちろんやるのは申告だけではありません。ベンチャーサポートグループに属する弁護士法人、司法書士法人、不動産会社などと連携できるのが当社の強みで、相続で必要となるあらゆる手続き、そこで発生する問題にワンストップで対応することが可能なんですよ。

――それだけの件数を扱っていれば、相続に関する経験やノウハウも多く蓄積されていらっしゃると思います。そんな先生に最初にうかがいたいのは、「相続争い」についてです。子どもとしては、財産を譲られるのは嬉しいのですが、それをめぐって他の兄弟と大喧嘩になったのでは、元も子もありません。

古尾谷 当社に来られるお客さまでも、最初は兄弟仲が良さそうだったのに、具体的な遺産分割の話が始まると、だんだん険悪な雰囲気になったりすることがあります。揉めるのにも程度があって、中には「お前とはもう縁を切る」というテンションになる方もいますね。

――やはり、お金が絡んでくると……。

古尾谷 もちろんそうなのですが、必ずしも遺産額が多いから揉めるというわけではないことに、注意が必要です。2022年度の「司法統計年報」(最高裁判所)を見ると、調停や審判など家庭裁判所に持ち込まれた相続案件のうち、遺産額1,000万円以下が全体の33.5%、1,000万円超~5,000万円以下が42.8%を占めています。相続税がかからないような相続でも、揉めるときは揉めるんですよ。

※参照:【裁判所】令和4年 司法統計年報 家事編(第52表)

ちなみに、相続税が課税される場合には、相続発生から10ヵ月という申告期限があります。そこまでに遺産分割の話し合いがまとまらなかったとしても、いったん法定相続分に基づいて申告と納税を済ませなくてはなりません。法定相続分に基づいた遺産分割になってしまうと、配偶者に多くの財産を渡すことで節税に繋がる「配偶者控除」などを活かすことができなくなります。

――揉めてしまうと、遺産が分けられないだけでなく、税金も高くなる可能性があるということですね。

古尾谷 まあ、税金については、その後も協議を続けて合意できれば、「払い過ぎ」を返してもらうことはできます。それより大きな問題は、相続がこじれた結果、親族の関係が壊れてしまうような事態を招くかもしれないことです。

相続が揉める3つのパターン

――遺産額が少なくても揉めるのは、どうしてでしょうか?

古尾谷 相続人の間で分割のしやすい預貯金が少ない、というのが1つの理由だと感じます。
今の高齢者の方は、多くが自宅を持っていらっしゃいますよね。で、家を残してお亡くなりになるのですが、預貯金はそんなに多くなかったりする。例えば、遺産総額は4,000万円だけれど、そのうち3,000万円は都内にある自宅の評価額。それは兄が相続するという場合に、弟が「不公平じゃないか」と不満を募らせるようなケースが、少なくないわけです。

この場合、兄が遺産として多くもらった分を代償金(※)として弟に払うとか、自宅を売却して分けるとか、あるいは弟が1,000万円で諦めるとかに着地点は絞られます。そこでお互いが納得できればいいのですが、そうならずに争いに発展してしまう。

※ある相続人が不動産などの財産を取得して、他の相続人には代償金(現金)を支払うことによって清算する遺産分割の方法を「代償分割」という。

――不動産は分けるのが困難なことが多いですから、トラブルの種になりやすいわけですね。

古尾谷 他に揉めやすいパターンとしては、相続人の誰かが被相続人(亡くなった人)から生前贈与を受けていた、というのがあります。例えば、兄は家を建てるときに資金援助を受けた、会社を立ち上げたときに資本金を工面してもらったはずだ、というようなケースです。

――そういう恩恵を受けていない弟としては、相続で遺産を半々に分けたのでは不公平だ、と。

古尾谷 贈与を受けた側に、例えば「事業をやるときに親から援助してもらうのは、当然だろう」というような意識があると、ますます争いを招きやすくなります。

もう1つ、「寄与分」(※)も悩ましい問題です。寝たきりになった親の面倒を、近くに住む弟がみていた。実家から離れて暮らす兄は、たまに顔を見に来るくらい。その親が亡くなった相続で、遺産を兄と半分ずつ分けるというのでは、やはり弟としては納得しがたい気持ちになるかもしれません。

※寄与分:被相続人のために貢献や援助(特別の寄与)をした相続人が、遺産分割で法定相続分に加えてもらえる財産のこと。

私の経験上、今の3つが相続で争いになりやすい典型的なパターンだといえるでしょう。

争いを未然に防ぐ遺言書を書く

――相続争いを防ぐためにアドバイスするとしたら、どんなことになるでしょう?

古尾谷 最も効果があるのは、やはり被相続人の残した遺言書です。遺言書で親の遺志を知れば、子どもはあからさまにそれを無視して揉めたりはしないものです。そもそも有効な遺言書には法的拘束力がありますから、相続人は基本的にそれに従わなくてはなりません。

とはいえ、子どもが複数いたら、なるべく平等に財産を渡すような内容にすべきでしょう。「兄に7割、弟に3割」のような遺言だと、遺産分割はできても、後々兄弟仲がギクシャクするのが目に見えています。

レアケースだとは思いますが、不義理をした長男は「勘当」状態で、1円も渡したくない、ということもあるかもしれません。ただ、仮に遺言書に「財産は弟にすべて渡す」と書いても、相続人である兄には法が認める「遺留分」(※)があります。兄が「遺留分侵害額の請求」を行った場合には、弟はそれに応じざるをえないことは、認識しておくべきでしょう。

※遺留分:配偶者や子どもなど、兄弟姉妹を除く相続人に認められた、必ず受け取れる遺産の割合。遺言書がこの権利を侵害していた場合には、他の相続人に対して「遺留分侵害額の請求」を行うことができる。

ただ、その場合にも、「望み通りの遺言書を書いておいて、もし侵害額の請求があった場合には、それに応じてもらえば片が付く」と割り切ることもできると思います。

――なるほど。とにかく遺言書があれば、際限なく揉めるようなことは防げる可能性が高いわけですね。たぶん、お客さまにはそういう話もしつつ、遺言書の作成を勧めると思うのですが、すぐに書いてもらえますか?

古尾谷 それが、そう簡単ではありません(笑)。遺言書の重要性は理解なさっても、まだ先でいい、という考えの方は多いですね。大きな病気を経験して、ようやく書くつもりになるとか。

でも、認知症になったりすれば、遺言書を書きたくても、書けなくなってしまいます。元気なうちに、親がきちんと遺言書を書いておくことが、子どもたちの「争続」を招かない最善の手段だということは強調しておきたいですね。

なお、遺言書は自分で書くこともできます。しかし、できることなら公証役場で公証人に作成、保管してもらう「公正証書遺言書」にしておくことをお勧めします。記載事項にミスや欠落があると、法的な有効性が認められなくなるリスクがあるからです。

「専門家に聞いてもらう」のも大事

――一方、相続人がやっておくべきこととしては?

古尾谷 相続が揉める大きな原因は、遺産分割についての知識や準備がなく、いきなり「その日」を迎えることにもあります。本当は親の生前に、相続についての話し合いの場が持てたら理想的なのですが、これも現実には簡単ではありません。ただ、その場合でも、相続人として最低限の知識は備えておくべきだと思うのです。

例えば、さきほど不動産を相続した際の代償金の話をしました。不動産などを譲られる人が、「そういう解決法があるんだ」という知識を持っていれば、相続発生前にそのための資金を用意しておくこともできるはず。

――確かに相続になってから、「払いたくてもお金がない」では、困ってしまいますね。

古尾谷 また、寄与分を主張したい場合は、被相続人に対する貢献の証拠を残しておかなくてはなりません。どんなに献身的な介護をしていても、仮に裁判になった場合、口頭の説明だけで認めてもらえる可能性は、ほとんどないからです。自己負担分の領収書などを保管し、日々の介護の内容などを記録しておきましょう。

――「あとの祭り」にならないような準備、心構えが要りますね。ところで、先生のところには、相続が揉めそうだったり、すでに争いになっていたりして相談に来られるような方もいらっしゃると思います。そういう場合には、どのような話をされるのでしょう?

古尾谷 我々は弁護士ではないので、揉めている相続人をまとめるような話をすることは、法的にできません。ただし、話を聞くことはできます。これが意外に重要なんですよ。お客さまは、私たちに話をしているうちに、自分の考えがまとまったりするのです。

――悩みを聞いてもらって、心が落ち着くということもあるかもしれません。

古尾谷 そうですね。じっくり話を聞いて、ごく一般的なアドバイスをした結果、遺産分割に納得してもらえるケースもあります。相続で問題や悩みを抱えていたら、とりあえず専門家の話を聞いてみてはいかがでしょうか。当社もそうですが、初回は無料で相談に乗ってくれる税理士もいます。

――その際、相続に詳しいプロに話を聞くということが、大事になると思います。

「後編」では、相続税の節税に有効な対策を中心に、さらにお話をうかがいます。

「税務署に指摘されない相続税申告」を掲げ、年間約2,200件の相続税申告実績を持つ、相続の専門家集団。
相続税専門の税理士が、グループ企業の司法書士法人・行政書士法人・弁護士法人とも連携を取り、あらゆる相続に関する悩みに対応する。

URL:https://tokyo-sozoku.jp/

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