【DX化 前編】若い世代を採用するためにも必要なDX化。 現場の事例を蓄積している税理士事務所だからこそできるサポートがある
税理士法人ベリーベスト 代表社員 岸健一氏「業務のDX化」が、時代のキーワードになっている。中小企業にとっても例外ではないといわれるが、具体的に何をすべきかについては、戸惑う経営者も少なくないはずだ。今回は、税理士事務所としては珍しく、業務内容に「ITツール導入・DX化支援」をうたう税理士法人ベリーベストの岸健一代表社員(税理士)に、中小企業にとってのDX化の意義、導入にあたって注意すべき点などについてお話しいただく。 記事では、「前編」でそもそも中小企業に必要なDXとはどういうものなのか、「後編」では導入のメリットや注意点などを中心にうかがった。
「士業とITのマッチング」が原点
――はじめに貴社の概要からお聞かせください。
岸(敬称略) ベリーベストは、当事務所のほか法律事務所、社会保険労務士事務所、弁理士事務所などからなる「総合士業事務所」です。単に同じ屋号を名乗っているというのではなくて、グループとして“一枚岩”の経営を行っているというのが1つの特徴だと思います。
今回のテーマにも関連すると思うのであえてお話しすると、当グループの経営者の4人は、みんな1976年生まれの俗にいう「76世代」なんですよ。Windows 95の発売が大学1年の年。ちょうどインターネットが世の中に普及していく時期に学生生活を送る中で、これからは士業もITとのマッチングの時代が来るはずだ、という思いを持って起業したのです。
――それぞれの事務所は後から合体したりしたのではなく、ルーツのところから一緒だったわけですね。
岸 法律事務所からスタートし、ビジネスの領域を広げていったという形です。そういう来歴の総合事務所ですから、より柔軟な体制の下で、ワンストップのサービスを提供することができると自負しています。
DXには3つの段階がある
――わかりました。それでは、主題の中小企業のDX化についてうかがっていきたいと思うのですが、そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)の概念自体が曖昧でよくわからない、という声も耳にします。
岸 明確な定義はないといってもいいでしょう。なんとなく会社の業務のIT化を推進していくことがDXで、具体的に何をやるのかは、それぞれの必要性や捉え方などによって違う、というのが現実だと思います。
例えば、新たにクラウド会計ソフトを導入してDX完了、というケースもある。
そういうことを前提にお話しすると、DXにはざっくり3つのフェーズ(段階)があると思います。
第1段階は、今述べたクラウド会計の導入だとか、とにかく紙の帳簿などをデジタルに転換するというレベル。起業直後の会社であれば、1からつくり上げていく必要があります。そこから進むと、API(※)をベースに、既存の受発注システムなどを連携させていこう、という第2段階になります。さらに第3段階は、社内のすべてのシステムの統合、システムインテグレーションですね。複数のソフトウェア、コンピューターなどを組み合わせて、1つのシステムを構築するわけです。
※API:アプリケーション・プログラミング・インターフェース。異なるアプリケーションやソフトウェアが情報をやり取りする際のプログラミング上の「窓口」。
私たちが主にサポートできるのは第2段階までで、3段階目になると大手ベンダーなどの出番ということになるでしょう。ただ、そのフェーズにおいても、我々がまったくノータッチだと、問題が起こることもあります。
――それはどういうことですか?
岸 後でDX化の注意点についてもお話ししますが、システム構築ばかりに目がいくと、大事なものが抜け落ちたりするんですね。この場合は、プロジェクトごとの状況把握が可能な立派なシステムができたのに、全体の年間売上がわからない、というようなことが、たまに起こるのです。会計の観点が置き去りにされないよう、この段階でも我々が多少なりとも関わらせてもらう必要があると思っています。
――税務顧問をやりながら、システム構築に関してはベンダーなどとも必要なやり取りを行って、最適なものになるようフォローしていく、というイメージでしょうか。
岸 そういうことです。内輪の話をさせてもらえば、これはDX関連の充実だけを目的にしたものではないのですが、当社の中途採用では、一般のメーカーやIT関連企業の会計部門にいた人間とかエンジニアとかの異業種、職種の人材を意識的に採るよう努めているんですよ。多様なバックボーンの人間たちが集まることによって、あらゆる業務フローへの対応をはじめ、DX化に向けたより実践的なサービスの提供が可能になると考えるからです。
DX化は「業務のルール作り」である
――DX化のサポートという話が出ましたが、実際にはどのように進めていくのでしょう?
岸 これも大まかにいえば、業歴の長い会社と、新設ないし若い会社によってアプローチが異なります。
後者からお話ししましょう。当社には、将来に夢と希望を持って起業する、というベンチャー気質の経営者の方からの依頼が多くあります。そういう方が思い描くゴールが、一昔前はIPOだったのですが、今はM&Aになってきているんですよ。
――事業を育てて、高く売ることを目指すわけですね。
岸 ただ、X年後に身売りしようという際には、売却側がDD(デューデリジェンス)を受けて価格が決まり、正式にイグジット(株式の売却)という流れになります。ですから、新設企業の経営者の方には、「今からそのDDに耐えうる体制を整えておきましょう」という話をするのです。DDでは、購入側から多くの資料の提出を求められますが、その時になって急いで準備しても、「あれを出してください」という要求に即座に対応するのは、難しいですから。
「DDに耐えうる体制整備」は、すなわち「効率的な業務のルール作り」と言い換えられると思います。そういう基盤構築の有力な武器が、ほかならぬITというツールなのです。さきほどDXの定義についての話をしましたが、ITを使ってそうしたルールを1つひとつ明確化していくことが会社のDX化、といういい方ができるかもしれませんね。
とはいえ、それを実行できるのは本当に理想形で、ベンチャー気質の社長に、初めからバックオフィスをしっかりやろうと思って起業する人は、まずいない(笑)。
――それは、よくわかるような気がします(笑)。
岸 ですから、その部分を経理に強い人を雇ってカバーしようと考えるのですが、一方の雇われる側には、ベンチャー企業を渡り歩いた経験のある人材などいないわけです。
社長がそのこと自体をご存知ないので、「経理経験20年」などという履歴を見て採用する。その結果、新進気鋭のベンチャー企業の経理が手書きで帳簿付けを行っているというような、DXとはほど遠い状況が生まれたりもするのです。
そうしたトラディショナルな経理のデメリットは、DDの支障になりかねないだけではありません。そういうやり方だと、会社の売上が10倍になれば、多くの場合、経理のマンパワーも10倍必要になります。DXのルールが確立されていれば、1.5倍で済むかもしれないのに。
――最初からバックオフィスのDX化の発想を持つかどうかで、大きな差が出るわけですね。
岸 当然のことながら、それは特にIPOやM&Aを目指さない会社にも当てはまります。
他方、歴史がある会社には、自社で独自発展した経理のやり方があります。例えば営業ならば、同業他社との交流があったりもするのですが、経理にはそれがありません。だから、どうしてもガラパゴス化します。
あえていえば、ガラパゴスがどんなときにも悪だ、というのではありません。DXだからといって無理にクラウド会計を入れなくても、従来のルールを手直しすれば、十分業務改善につながるようなケースもあります。
――システムを入れ替えた結果、余計に非効率になってしまった、という話も聞くことがあります。
岸 ただ、やはりトラディショナルな経理が弊害を招いていて、社長もその問題を認識しているような場合には、私たちが入っていって、仕組みづくりから手掛けます。新たなソフトやシステムが必要ならばそれを提案し、当面は従来のものと並行して運用させながら切り替えを完了させていく、というのがDX化支援の基本パターンになります。
顧客と伴走しながら新たな仕組みを定着させる
――さきほど、DX化の第3段階までサポートする、というお話がありました。ただ「IT化しましょう」というだけではなく、ちゃんと運用できるようになるまで、貴社がフォローするわけですね。
岸 新設企業の場合も既存企業でも、適切なITツールの選定、初期設定を行い、稼働後は基本的に3ヵ月くらい顧客と伴走しながら、新しいシステムが組織に定着できるようにサポートします。
例えばクラウド会計を導入して、それに沿ったルールを定めれば、経理は自動化していきます。システムの円滑な運用に必要なマニュアルを作成し、「これに従って処理しましょう」「メンテナンスも忘れずに」という仕組みができれば、業務改善が実現するのは、お客さまだけではありません。顧問である我々の業務も効率化します。その結果、お互いにそこに使うエネルギーを、別のところに回すことができるわけです。
「後編」では、さらに中小企業のDX化の必要性や注意点などについてうかがっていきます。
グループ法人である法律事務所・社会保険労務士法人・その他グループ内の司法書士や弁理士と連携し、多様化するお客様の悩みをワンストップで解決する専門家集団。税務サービスだけではなく、ITツール導入・DX化支援、事業承継、相続、IPO支援など業務は多岐に渡る。
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