【経理 前編】専門知識が必要で、人を雇うとコストがかかる経理業務。会社の状況に合わせた“経理のアウトソーシング”を利用するという選択
アイエクシード税理士法人 代表社員 女屋直之氏いうまでもなく、法人の経営には経理の機能が不可欠だ。ただし、「面倒くさい」業務が多く、専門知識も必要で、ただでさえ忙しい社長が担うのには無理がある。一方、専業の担当者を雇うとなると、それなりの出費を覚悟しなくてはならない。そんな経営者の助けになるのが、税理士事務所の「経理代行サービス」だ。何が頼めるのか? 賢い活用の仕方とは? 税務・会計だけでなく、顧客のバックオフィス支援業務に力を入れるアイエクシード税理士法人の女屋(おなや)直之代表社員(税理士)にうかがった。
記事は、「前編」で経理代行サービスの中身について、「後編」ではサービス利用のメリット・デメリット、より有効な活用方法などを中心にまとめた。
経理のアウトソーシングを検討すべきケースとは
――貴社の概要からお聞かせください。
女屋(敬称略) 従業員は、総勢30名ほどで、税理士は私を含めて3名在籍しています。顧客は法人300件、個人が100件くらいですね。税務顧問がメインですが、相続も年に30~40件程度手掛けています。
当社の特徴の1つが、中国語を話せるスタッフを置き、中国人の顧客に対応していることです。口コミなどを通じて、徐々に依頼が増えているんですよ。日本人が経営している税理士事務所というのは、信用力が高いようです。
――今回は、そんな貴社がメニューに加えている経理代行サービスについて、うかがっていきたいと思います。そもそも、どんな経緯で始められたのですか?
女屋 実は、お客さまからの「こんなことは頼めないのか?」という問い合わせがきっかけです。こちら側から宣伝したわけではないのですが、同じような相談が多数寄せられるようになって、けっこうニーズがあるのかな、と。現在は20件ほどのお客さまにサービスを提供しています。
――貴社に依頼してくるのは、どんなパターンが多いのでしょう?
女屋 最初は、社長1人の会社とか、社員がいても数人で、何とかやり繰りして経理をこなしてきたが、そこからは手を放したい。でも、そのために人を雇うのはちょっと――という案件が多かったですね。
あとは、長年勤めてきた経理担当者が辞めたけれど、後任が見つからないとか、見つかったものの、やらせてみたら以前のように回らないから助けてほしい、とか。
――ある程度専門的なスキルが必要だというのが、経営者にとっては悩ましいところですね。
女屋 そうです。とはいえ、ざっくりいうと10名規模の会社で経理担当者を新たに1人採用すると、そのために赤字になってしまう可能性があります。それでは本末転倒ですから、アウトソーシングしてコストダウンを図るというのは、有力な選択肢だといえるでしょう。
逆に30名くらいの会社になってくると、社内に経理担当者がいないと、日常業務に支障をきたすかもしれません。ただ、自前で経理をやっているけっこう大きな会社でも、一部の大きな負荷のかかる部分だけは外注したい、というニーズがあったりもするんですね。当社でそうした依頼を受けているお客さまもいます。
会社に合わせてカスタマイズしたサービスを提供する
――経理とひとことでいっても、やるべきことはいろいろあります。代行のニーズが強いのは、具体的にはどのような業務なのでしょうか?
女屋 実際には、請求書の発行とか、相手先への支払い、給与の振り込みといった業務ですね。作業量として一番多いのは、振り込みに関する業務だと思います。そんなにハードルの高い仕事ではないけれど、件数が多くなると、どうしてもミスが起こる可能性が高まりますし、経理に慣れていないと、数字が正しいのかどうかの確認も難しい。給与については、個々の金額を社員に知られたくないから外注したい、という社長もいます。
――経営者の考えもそれぞれ違うので、ニーズに合わせて対応するわけですね。
女屋 そうです。当社の経理代行サービス自体、平準化したモデルを用意しているわけではないんですよ。いい方を変えると、依頼の内容は1社ごと違います。ですから、何を頼みたいのかをうかがいながら、状況に合わせてサポートの内容をカスタマイズしているのです。もしかすると、そこが当社のサービスの肝になるのかもしれませんが。
――なるほど。でも、カスタマイズするのは、大変ではないですか?
女屋 正直、その部分はすごく手間がかかります。ただし、やるべきことが決まって動き出せば、毎月同じような流れになりますから。
実は社長自身も、経理業務が手を離れるのは嬉しい半面、お金のことを外部に委ねるのに、最初は多少なりとも不安なところがあるわけです。しかし、そのうちにうまく回るようになり、新たなやり方に慣れてくると、今度はそれが“当たり前”になるんですね。結果的に業務の効率化やコストダウンが実現し、喜んでいただいています。
IT化で広がるサービスの可能性
――税務顧問と経理代行サービスを併用するクライアントもいらっしゃるのでしょうか?
女屋 はい。顧問先から経理代行も依頼されるケースや、反対に経理代行を請け負っていた会社が顧問先になることもあります。もちろん代行サービスのみの場合もあって、そこは、それこそニーズによりけりです。
当社のお客さまへの関わり方としては、顧問になっている人間が経理代行も兼務する、ということはありません。代行サービスについては、別のメンバーが担当し、それぞれの専門性を担保するようにしています。
――担当者は、お客さまのところに通ったりもするのですか?
女屋 最初のカスタマイズの段階では、お客さまと会って話をしますが、できる限り引き上げていって、最終的には完全リモートの対応にしています。アウトソーシングといっても、現場に足繁く通うような形になると、経理マンを雇うのと同じくらいの報酬をいただかないといけなくなってしまいますので(笑)。
実は、そういう対応を可能にしたのは、IT化の進展にほかなりません。例えば業務量の多い銀行振り込みは、ネットバンキングのシステムを使えば、パソコン上でできるようになりました。我々がこの仕事を受けてもペイする環境が整った、といういい方もできます。かつてのように、書類は全部手書き、振り込みは銀行の窓口に行って、という状況では、ニーズがあっても成り立ちにくいビジネスだったでしょう。最近、経理代行サービスが広がってきたのには、そういう背景もあるわけです。
ちなみにお客さまには、「リモートにすれば、サービスの提供が可能ですよ」というセールスをすることもあります。それができることに、気づかない方もいますから。
――ITで省力化が進んだ領域なのに、そこにある意味新しいビジネスが生まれたというのは、面白いですね。
女屋 お客さまからすれば、IT化で工数が減ったので、そこに1人置いておく必要はない。けれども、依然として人の手を掛けないとできない部分が残っているので、その部分を誰かに頼みたい――ということになるのかもしれません。今後もそういうニーズが残るのか、あるいはAIの進化などにより、請求書に書かれた金額が自動で引き落とされていくような世界になるのか、そこは現状ではわかりませんが。
とはいえ、少なくとも中小企業のレベルで一気にそういうシステム化が図られる可能性は低いと思います。経理代行サービスの需要は、しばらくは拡大していくのではないでしょうか。
「後編」では、経理代行サービスのメリット・デメリットなどについて、さらにうかがいます。
「喜びを共にし、豊かな未来を」を経営理念に掲げ、お客様一人ひとりの状況に応じたサービスを提供する専門家集団。税務・会計だけではなく、経理のアウトソーシング、事業承継・相続対策、開業・創業支援など、幅広いニーズに対応。
URL:https://i-exceed.co.jp/