【相続税対策 後編】「広い土地」の相続で揉めないために 納税額の試算が相続税対策に繋がる【後編】

塚本会計事務所 代表 塚本俊氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

遺産分割も節税も「納税額」の確認から始まる

――相続は節税ありきで行動すべきではない、というお話ですが、ではどのように考えるのがいいのでしょうか?

塚本 特に相続財産に広い土地があると、そもそも遺産の額がどのくらいになるのか、見当もつかない、というのが普通です。そういう状況で分割の仕方とか、節税とかを検討しようとしても、合理的ではありません。

まず認識する必要があるのは、現状で相続財産がいくらくらいなのか、相続税はどのくらいかかってくるのか。そして、それぞれの相続人が、その納税資金を用意できるのか、という点がとても重要です。

――そういうシミュレーションを行うことで、自分たちの相続がよりリアルになる感じがします。

塚本 リアルになるような工夫も必要です。なるべく相続の実情に近づけるために、当事務所では、初めから小規模宅地等の特例などによる減額も加味したうえで、試算を行うようにします。一般的には、当初の試算においては、こうした特例は外して計算されることが多いんですよ。万が一、それを適用できずに実際の税額が高くなった場合、「話が違うじゃないか」という問題が起こるかもしれないので。

しかし、逆に現状とかけ離れすぎると、適切な対応が取れなくなることもあります。ですから、小規模宅地等の特例の適用がほぼ間違いないと考えられるようなケースでは、8割減額を前提に試算するわけです。

さきほどの「地積規模の大きな宅地の評価」についても、適用の可能性がある場合には、あらかじめ「この制度を使えば、これくらい減額されます」という説明をします。

――そこまで数字を出してもらえたら、かなり安心できるのではないでしょうか。

塚本 遺産分割の具体的なやり方は、その結果を踏まえて検討します。例えば、相続人となる兄弟間で、収入や貯蓄額に差があることは珍しくないでしょう。そういうことも、相続のトラブルの原因になることがあります。

実際、お金に余裕がある側の相続人から、「法定相続分で分けて、弟から文句は出ないだろうか?」といった相談を受けることが多いんですよ。そんな場合には、納税資金の試算を基に、弟さんの取り分を増やすとか、遺産のうちの現金の割合を多くするとかの対策を講じることで、相続を丸く収めることができるかもしれません。

また、生前贈与などの節税対策についても、まず納税額を確認してからでなければ、的外れなものになってしまう可能性があります。

――そもそも、納税額を減らすための節税なのだから。

塚本 遺産分割も節税も、納税額が明確になって初めて話を進めていけるものだ、という点を理解してほしいと思います。

親子の話し合いが不可欠

塚本 同時に、そういう「法則」に従って、被相続人になる人と相続人になる人たち、すなわち親子で遺産分割についてのしっかりした話し合いの場を持つことが大事です。

――さきほど、相続について親子の間で情報を共有しておく必要がある、というお話もありました。

塚本 ベースになるのは、財産を譲る被相続人の意志です。それを、生前に相続の当事者全員で確認しておくべきでしょう。

例えば、被相続人に、先祖代々の土地は売却せずに守ってもらいたいので、長男に継がせたい、という思いがあったとします。その納税資金を捻出するために、長男には現金も少し多めに渡す必要がある。それはいいのですが、被相続人から何も説明がなければ、他の相続人には、「自分だけ土地を譲られて、兄はずるい」と映るのではないでしょうか。

――それはトラブルの種になりそうです。

塚本 でも、親が先祖から受け継いできた土地の話をすれば、他の兄弟たちも納得しやすくなるはずです。何だかんだいって、子どもには親の意志を無視するのは難しいんですよ。

親子の話し合いを持ってもらってよかったと感じた、こんな事例がありました。高齢の親御さんから相続税の申告について相談があったのは、亡くなる2ヵ月ほど前のことでした。相続人は同居している3男と、兄2人。1人は海外で働いていました。

例のごとく土地を含む相続財産について、納税額の試算を行ったわけですが、お父さんの考える分け方をすると、明らかに3男が「有利」でした。そこで、遺産分割が偏った状況であることを率直に説明し、「この試算を基に、一度4人で話し合ってみてはいかがですか」とお話ししたのです。

結局、お兄さんもいったん帰国されて、親子で腹を割った話し合いの場が持たれました。もともと2人の兄は自立して生活していて、親の遺産に対してそんなに執着はしていなかったのですけど、最初のお父さんの案よりは多少平等な分け方にして、無事相続を終えることができました。お父さんの意志は基本的に貫くことができ、お兄さんたちもそれで納得したわけです。

――生前に合って話していなかったら、「それはないだろう」という話になっていたかもしれませんね。

塚本 平等という話が出たので申し上げておくと、「何が平等か」も、実は話し合いで決まる性格のものです。例えば、譲り受けた相続財産に対する納税額が同じなら平等なのか、それとも、現金と収益物件が建てられる土地とは「別物」と考えるのか。

仲のいい兄弟ほど、「遺産は平等に分けようね」と安心していたりするんですね。ところが、いざ相続になって、具体的な遺産分割の話になったとたんに、揉め事が始まってしまうというようなこともありますから、注意が必要なのです。

税務調査で問題になるのは「土地以外」が多い

塚本 ところで、広い土地が絡む相続にはトラブルがつきもの、といったイメージを持たれるかもしれませんが、お話ししてきたようなステップを踏んで必要な対策を講じていけば、相続は比較的スムーズに進むものです。

我々の仕事は、あくまでも相続税の節税や申告なので、今のように相談に来られた時点で揉め始めているようなケースについては、速やかに連携している司法書士や弁護士を紹介します。そうしたものを除き、担当した相続で遺産分割協議がまとまらずに申告期限を迎えてしまった、といった案件はほぼないんですよ。

一方、相談にいらっしゃる方が100%といっていいほど口にするのが、「税務調査は大丈夫でしょうか?」という不安です。私もこの事務所で15年ほど相続をやってきて、20件ほどの調査に立ち会いました。でも、やはり土地の評価が問題になったことは、1度もありません。

――そうなんですか。

塚本 以前の広大地や地積規模の大きな宅地の評価を使った申請についても、それが税務署に否認されたケースは皆無です。

税務調査の対象で圧倒的に多いのが、他の相続人が知らない贈与だとか、あるいは特定の相続人が管理していた被相続人の口座のお金の流れとか、要するに現金、預貯金の関連ですね。税務署は、被相続人と相続人の口座について、過去10年の入出金の状況を追うことができます。必要があれば、何日の何時何分にどこのATMからいくら引き出されたか、まで調べますから、不自然な動きがあれば、調査で説明を求められることになります。

――逆にいえば、そうしたところに問題がなければ、税務調査を過度に心配する必要はないということですね。

塚本 しっかりした専門家に依頼していれば、大丈夫だと思いますよ(笑)。

信頼できる専門家に依頼する

――財産に広い土地の含まれる相続を中心にお話をうかがってきましたが、不安や疑問がある場合などには、誰に相談すべきでしょうか?

塚本 不安になるのは、多くの場合、相続財産の実態がつかめないからだと思います。申し上げてきたように、現状で財産額や相続税額がどのくらいになるかの試算が必要で、それができるのは税理士です。ですから、まずは税理士に相談するのがいいでしょう。

一方、相続人同士の折り合いが悪いなど、揉め事が起こりそうなケースもあると思います。税理士にはトラブル処理はできませんから、状況によっては司法書士や弁護士への依頼を考えてください。

――あえていえば、すべての税理士さんが土地の評価に詳しいわけではないと思います。

塚本 そうですね。財産に不動産が含まれるような場合には、「安さ」を売りにした事務所は避けるのが無難かもしれません。料金が安いというのは、自信のなさの裏返しでもあります。そうした視点も含めて、信頼できる専門家を選んでほしいですね。

――わかりました。最後に貴事務所の今後の展望をお聞かせください。

塚本 少子高齢化が進んで、2040年には、私も含めた65歳以上が人口の1/3を超えるといわれています。介護・福祉分野への貢献、あるいは相続対策などにおいて、税理士に対するニーズは高まっていくと考えています。

ただし、従来以上に知識と経験が求められるのも事実。この部分を一層強化しながら、相談者の困りごと解消にお役に立てる事務所を目指したいと思います。

――ますますのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。

税務会計・経営相談だけではなく、相続対策、介護・福祉分野の実績が豊富な会計事務所。経営者が相談・信頼できるビジネスパートナーとして、多岐にわたる経営者のお悩みを解決する。

URL:https://www.tax-win-win.com/

こちらもオススメ!