【税務調査 前編】“国税OB”が語る税務調査
「調査官はここを見る」「日頃から心得るべきこと」
税理士法人高津会計 代表社員 高津直人氏、西日暮里支店 所長 枝崎恵治氏 会社でも個人でも、事業を行っていれば気になるのが税務調査(※)だ。正しく申告しているつもりでも、ある日突然、税務署の調査官がやってきて、あれこれ調べられた上に追加で税金を取られる、といったイメージもあるのだが、実際にはどうなのだろうか? 今回は、ともに東京国税局のOBで、調査を担当した経験を持つ税理士法人高津会計(北海道根室市)の高津直人代表社員と、同社西日暮里支店(東京都荒川区)の枝崎恵治所長に、その経験も踏まえて話をうかがった。
記事は、「前編」でそもそも税務調査とはどういうものなのか、「後編」で調査対象になった場合の注意点などを中心にまとめた。
※税務調査 国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
税理士の大半が税務署OBの事務所
――貴社の概要からお聞かせください。
高津(敬称略) 本社は北海道の道東の根室にあり、札幌と東京・西日暮里に支店を置いています。人員面では、全社でパート含めて約40名、うち7名が税理士という体制です。
枝崎(敬称略) 西日暮里支店は、現在税理士2名、総勢4名です。
高津 根室本社は、漁業や酪農業、それに関連する水産加工業などのお客さまが比較的多く、札幌、西日暮里と都市の規模が大きくなるにつれて飲食業などのウエートが高くなる傾向はありますが、何かの業種に特化している、といったことはありません。法人、個人、さまざまなお客さまのサポートをさせていただいています。
当社の特徴を挙げれば、所属する税理士7名のうち6名が国税局、税務署のOBだということでしょう。ですから、申告はもとより、税務調査に対してより適切な対応が可能で、そこは大きな強みだと思っています。いろんな部署の出身者がいますから、必要に応じて事務所間の連携も取り合いながら、対処するようにしているんですよ。
――「調査に来る側」がどんなことを考えているのかというのは、読者にとってもとても気になるところです。今日は、そのあたりのリアルなお話も、ぜひ聞かせていただきたいと思います。
「コロナ明け」から調査は増えた
――先生の事務所では、税務調査は年に何件ぐらいあるのですか?
高津 本社と札幌支店を合わせて、7~8件というところでしょうか。お客さまは法人、個人合わせるとその100倍くらいになりますから、調査に入られたことのないところが大半です。
ただ、最初に申し上げておくと、税務調査のことを心配する人がいる半面、「申告を税理士に頼んでいるのだから、うちには税務署は来ないだろう」と思い込んでいる社長もいらっしゃるんですね。
しかし、決してそんなことはないんですね。税理士を通して申告していても、たとえそれが、私たちのような国税OBの事務所であっても、調査に来るときは来ます(笑)。
枝崎 税務調査というのは、不正が疑われる場合だけに行われるわけではありません。その名の通り、「この会社は何をやっているのだろう」といった調査のために入ったりすることもありますから、事業を営んでいる以上、その可能性はゼロではないと考えてください。
――コロナ禍が収まって以降、税務調査が急速に増えたといわれますが、そういう実感はお持ちですか?
高津 調査の件数が増えているのは、事実だと思います。私の感覚では、今の話にもあったように、事業規模の大小や、利益が出ている・いないなどにかかわらず、税務署が今まで接触したことのなかったところに、短日の調査に入るケースが以前より多いかな、という気がしますね。創業来、20年、30年税務調査がなかったような会社にも入っていると聞きます。
コロナ禍の最中には、対面の調査ができませんでしたから、やはりその反動というか、溜まっていた分を取り戻そう、という考えはあるのではないでしょうか。
――あえてうかがうと、税務署の調査官には、調査のノルマが課されている、という話も聞きます。実際にはどうなのでしょう?
枝崎 現役時代には、課税の公平性を担保するために必要な調査を行うという意味で、ある程度、調査件数の目標は設定されました。ただ、個々の調査官に「これだけの追徴を目指せ」といった金額的なノルマが与えられたりすることは、ないですね。
高津 調査の部署にいたら、どれだけ金額的な成果を上げたか、重加算税の対象になるような不正な事例を何件発見したのか、といったことは評価の指標になりますから、そういう面での競争はあるでしょう。しかし、それ自体は調査に携わっている以上当然のことで、「上からのノルマがあるから納税者に厳しく対応する」というようなストーリーは、根拠のないお話です。
「個人事業主に調査は来ない」は誤解
――「個人事業は所得が少ないので、税務調査はめったに来ない」という人もいます。この点はどうでしょう?
枝崎 結論をいえば、その認識は間違いです。税務署には、法人税担当と個人の所得税担当がいます。個人の担当は独自に動いていますから、個人事業主は調査対象にされないとか、後回しになるとかいうことはないのです。
ただし、法人と個人では分母が違います。個人事業主は圧倒的に数が多いですから、調査の確率を比べれば、法人に比べて低くなるということはいえるでしょう。
――個人だからバレないだろうと申告しないでいたり、間違った申告をしたりすれば、法人と同じく調査が行われ、ペナルティを課せられる可能性が十分あるわけですね。
高津 個人の場合は、問題が発覚して調査に入る、というケースが多いかもしれません。税務署はいろいろなところで資料の収集をしていますから、それらを集約していった結果、この人は申告漏れの収入があるのではないか、と。そういう場合には、やはり個人だからといってお目こぼしになることはありません。
税務署はさまざまな取引に目を光らせている
――収集している資料というのは、例えばどんなものでしょう?
高津 いろいろありますが、納税者からすると、「そんなことまで」と思われるようなところまで、「監視」されているといっていいと思います。例えば、最近私のお客さまの関連で、ネット上の商取引、いわゆるフリマアプリによる売買が問題になったことがありました。
――時々ニュースになったりもしますね。
高津 古着とか、使っていた家財道具だとか、あるいは趣味の品などを出品して売るのは基本的に自由です。でも、すごい量や回数の売買を繰り返していると、「これは趣味の範疇を超えていますね」という話になることがあるわけです。
最近は、初めから転売して利益を稼ぐのが目的の「せどり」も増えました。ちなみに、こうしたやり方で利益を得た場合、サラリーマンなどの給与所得者が副業で行ったときには、その所得が年間20万円を超えたら、超えた分は所得税の課税対象です。本業でやっているのなら、普通の個人事業主と同じ扱いになります。
――フリマアプリでは、匿名の売買が可能ですが、それでも税務署には取引の実態が把握される。
高津 国税局には、電子商取引専門調査チームという組織があって、日々ネット上の取引などを調査し、情報収集を行っているんですよ。「インターネットでやっているからわからないだろう」というのも誤解で、取引内容は、むしろ国税当局に“筒抜け”なのです。
枝崎 税務調査といっても、十年一日のごとく同じことをしているのではありません。ネット取引は典型ですが、世の中にはどんどん新しい取引形態やビジネスが生まれてきますから、さまざまな形でそうした情報を集め、常に目を光らせていると考えてください。
「後編」では、できるだけ税務調査を回避する方法はあるのか、もし入られた場合の対処法などについて、さらに語っていただきました。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
札幌・道東エリア・東京エリアを中心に、中小企業の黒字化支援・財務経営力の強化支援に取り組む税理士事務所。国税局、税務署のOBが多数在籍し、税務・会計・決算だけではなく、税務調査の立会い、相続の事前対策、経営相談まで幅広く対応する。
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