【不動産賃貸業 後編】「自らもオーナー」だからこそわかる不動産賃貸業の税金、成功のポイントや注意点を解説
税理士法人資産経営パートナーズ 代表 加瀬直樹氏「1世帯1法人」の時代に。それだけに注意すべきこと
加瀬 ところで、法人化などについては、お客さまの状況を見ながら、こちらからお話しさせていただくわけですが、最近は、逆に「法人にしたいので、サポートしてください」といった依頼も増えているんですよ。ネットにいろんな記事がアップされていることもあって(笑)。
――ああ、なるほど(笑)。
加瀬 少し前まで、資産管理会社とか不動産賃貸の法人とかは、一部の資産家、事業オーナーに限った話だったのですけど、今はごく普通の会社員の方などが、法人で不動産を持つことも珍しくなくなりました。「1世帯1法人」というのが当たり前になりつつあるということを、この仕事をしていて実感します。
――ただ、おっしゃるようなネット情報に乗せられることには、危うさを感じませんか?
加瀬 けっこう“前のめり”になってしまう方もいますね。例えば、法人化すなわち会社設立に際しては、登記の費用とか、不動産取得税だとかのコストもかかります。前編でお話ししたように、個人で受けていた控除が受けられなくなったりもします。そういうプラス・マイナスも考えると、今の収入では法人化のメリットはないのに、突っ走ってしまうとか。
特に気をつけたいのは、ご高齢になってからそういう情報を目にして、急いで法人化するパターン。会社を設立し、そこに個人の持っていた不動産を売却するというやり方で法人化すると、不動産が現金や金融債権に変わったり、借金返済に充てられたりするわけですね。
子どもなどに資産を移転していく時間が取れればいいのですが、問題はそのまま短期間で相続になった場合です。結果的に、現金よりも割安で評価できる不動産のままのほうが相続税は少なくて済んだ、ということになりかねません。
――不動産は金額の張る資産ですから、そこは冷静に検討する必要がありそうです。
税務調査では、ここを見られる
――すでにいろいろご指摘がありましたが、不動産賃貸業の税務で気をつけるべき点について、あらためてうかがいます。例えば、税務調査になったときにチェックされる事柄には、どのようなものがありますか?
加瀬 不動産賃貸という事業の性質上、収入、支出は定型のものが多くなりますから、税務署に調べられる項目もだいたい決まっています。以下にまとめてみました。
物件購入時の経費処理
不動産会社に支払った仲介手数料や固定資産税清算金は、経費にはできません。簿記の感覚ではいたって通常の処理に思えますが、実際には不動産の取得費用に計上する必要があるのです。
「固定資産税清算金」とは、売買のあった年の固定資産税額を、買主が購入後の所有日数分負担するお金のことです。固定資産税は、その年の1月1日時点で不動産を所有している人に課せられる税のため、仮に1月2日に売却しても、売主が全額納めなくてはなりません。その負担を平等にするため、両者の合意に基づいて支払われる「清算金」で、税金ではないんですね。
修繕などをした際の修繕費と資本的支出の区分
物権の修繕を行った場合、その費用を修繕費として一度に経費で落とすか、資本的支出として資産に上げて減価償却していくのか、という処理が問題になることがあります。かかった費用や、目的は維持管理か資産価値向上などのためなのか、といった点が判断基準になります。
青色申告特別控除の事業的規模
これについては、前編で説明しました。中には、事業的規模の要件を満たしていないにもかかわらず、特別控除を適用して申告する例がみられます。
青色事業専従者給与者の専従の実態
不動産賃貸業に限らず、青色申告をしていれば、生計を一にする親族に従業員として給与を支払い、基本的にその全額を経費計上できます。ただし、「労務の対価として相当」であることが要件になることに、注意してください。
例えば、歯科クリニックとか美容院とかであれば、奥さんが何らかの形で仕事に従事している実態は、わかりやすいと思います。ただ、不動産賃貸業では、管理会社を使うことも多いですよね。税務署に「この人は、何をやっているのですか?」と突っ込まれたときに、きちんと事業に従事している実態を説明できることが、特に重要になるのです。
「経費」の事業関連性
これもこの業種に限った話ではないのですが、税務署の視点としては、あくまでも経費は直接事業と関連するものだけで、プライベートな出費は一切認められません。昨今、やはりYouTubeなどで、「あれもこれも経費にできる」のようなことも言われて、それを鵜呑みにするケースもあるのですが、経費率が膨らんでいれば当局の税務調査の対象になりやすいことも理解しておく必要があるでしょう。
譲渡所得税の計算
事業用の不動産を売却することもあると思います。その場合には、譲渡所得税という税金がかかります。売却価格からその不動産の取得費などを差し引いた譲渡所得に課税されるのですが、特に取得費の計算は複雑になることがあります。物件を所有していた期間が5年を越えていたかどうかで、税率がかわることにも注意が必要です。
消費税の計算
同じ不動産賃貸でも、例えば、賃貸アパートの家賃収入は消費税の非課税取引で、駐車場収入や店舗などの事業用途の収入は課税取引となっています。また、不動産を売買する場合、土地は消費税非課税ですが、建物には課税されます。そうした処理や金額は正しいのかも、調査の際には大きなポイントになります。
――なるほど。定型とはいえ、間違えやすい点が少なくないと感じます。そもそも不動産賃貸業というのは、税務調査の対象になりやすい業種なのでしょうか?
加瀬 家賃収入が数千万円に達するような規模のところには、定期的に調査に来たりしますが、特に狙われるといったことはありません。まあ、逆に赤字が大きいとか、不動産の売買を繰り返すとか、さきほどのように経費率が突出しているとか。そういうお客さんのところに来られやすいというのは、他の業種と同じだと思いますよ。
海外不動産は「やれば儲かる」状況にはない
――ところで、近年、海外不動産への投資熱が高まっています。そのメリットや注意点をお聞かせください。
加瀬 最初に述べた「エリアの差異」はありつつも、全体として国内の人口は減少傾向にあり、必然的に不動産ニーズの低下につながっています。他方、海外に目を向けると、地域によっては、放っておいても家賃が毎年当たり前のように上がっていく、あるいは不動産価格そのものが2割、3割値上がりしていく、といった景気のいい話が耳に入ってくるわけです。ならば海外不動産に投資してみようというのは、自然な流れと言うこともできるでしょう。
ただし、日本に住みながら海外の不動産を買うという行為には、必然的に情報格差がつきまとうことには、留意すべきだと思うのです。
――情報格差ですか。具体的にはどんなことでしょう?
加瀬 国内不動産の売買ならば、不動産会社も含めて、基本的に日本人同士の取引になります。対象の土地や建物を実際に見に行ったりすることも容易でしょう。
しかし、海外の物件を買うとなると、不動産販売会社は日本の会社でも、現地でワンクッション入ることになります。販売会社の利益を考えれば、提示される利回りの数字なども、「加工」の度合いが高くなるわけです。そうではなくて、生の情報を基に「原石」を取りに行こうとすれば、現地に不動産取引に詳しく、かつ信頼できるパートナーが必要になります。
――現実問題としては、かなりハードルが高いように感じますね。
加瀬 海外不動産についても、どうしても市場や相場の動向に目が行きがちですが、多くの場合、法律上の概念や制度が日本とは違うことも理解しておく必要があります。所有権や所有者責任の捉え方なども、国によってさまざまなんですね。
その結果、不動産を買ったのはいいけれど、テナントとトラブルになったとか、訴訟を抱えることになったとかいう事例も目にしました。単純に、思ったような利益が上がらなかった、という話も聞くことがあります。
――となると、これから海外不動産に投資するのは、難しいと考えるべきなのでしょうか?
加瀬 今は円安ですから、その点も投資環境としてはマイナス要因になっていますよね。
個人的には、まず利益ではなく、仕事などで以前住んでいて現地の状況がわかり、人的なコミュニケーションのあるところ。あるいは、将来住んでもいいな、と思っている国。理想は、そういう場所をターゲットに投資を行うことではないか、という気がします。
もちろん、販売会社を経由して、ある意味パッケージ化されたものに投資したりするのは一切やめるべき、と言うのではありません。それで利益を上げている方はたくさんいるし、お話ししたようなことをわかったうえで海外の物件に取り組まれているお客さまを多数サポートしております。
ただ、一部で言われるように、「海外不動産は、とにかくやれば儲かる」という状況にはありません。そのことは念頭に置くべきでしょう。
特化した専門家に相談するメリット
――不動産賃貸業のポイントについてうかがってきましたが、今ある物件をうまく運営するためにも、これから事業に乗り出す場合にも、やはりこの分野に詳しい専門家のサポートが必要だと感じます。
加瀬 不動産オーナーの意志決定は、大きく、「買う」「売る」「貸す」「建てる」の4つあると思います。それぞれに税務が絡んできますから、事前に、おっしゃるように事業に精通した税理士に相談すべきでしょう。専門の税理士ならば、財務など資金面でのアドバイスも受けられるはずです。手前味噌になりますが、当社のように同じ業種のお客さまが集約されていると、横串で傾向を見ることができます。申告で事業の生の状況がわかるのも、税理士ならでは。
そこは、管理会社も知ることができません(笑)。お客さまからすれば、それが不動産賃貸業に特化した税理士に依頼するメリットになると思います。
まだ設立6年目のこれからの事務所ですが、今後は日本全国のより多くの不動産オーナーや不動産会社のお客さまのお手伝いをさせていただき、「ここに頼めば安心だ」というブランドに育っていきたいと考えています。
――ご活躍を期待しています。本日は、有意義なお話をありがとうございました。
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