【税務調査 前編】税務調査を過度に気にする必要はない何より大事なのは、ちゃんとお金を残すこと
青山アクセス税理士法人 代表社員 田中秀一郎氏企業経営者でも個人事業主でも、できれば避けたいのが税務署による税務調査だ。回避する術はあるのか、万が一調査に入られた場合には、どのように対応したらいいのだろうか。今回は、国税調査官としての経歴も持つ青山アクセス税理士法人の田中秀一郎代表社員(公認会計士、税理士)に、話をうかがった。
記事では、「前編」で税務調査の現状や入られやすい会社、調査では何を見られるのか、「後編」では調査への対応、経営者としての心構えなどを中心に、まとめた。
調査の体制が変わりつつある
――最初に御社の概要を教えてください。
田中(敬称略) 事務所としては、私を含めたパートナーが3名、常勤とパートのスタッフを合わせて、現在12名の体制です。パートナーはそれぞれ得意分野が違うのですが、私は中小企業や起業したての会社のサポートが中心ですね。業種としては、不動産や建設、エステとか貿易関係とか、多岐にわたります。
――先生は、税務署にいらっしゃったんですよね。
田中 はい、かつて8年ほど勤務しました。在職中に公認会計士試験に合格し、退職してから30年くらいになりますが、そういう経験を持つ公認会計士・税理士は多くないので、弊社の事務所としています。
――本日は、そんな先生に税務調査について、うかがっていきたいと思います。まず、最近の調査の動向についてお聞きします。コロナ禍の最中は対面の調査ができなかったため、このところはその反動で調査件数が増えている、といわれますが。
田中 そうですね。私の事務所でも、お客さんのところに税務調査に入られるのは、年1件あるかないかくらいなのですが、今年はすでに数件来ていますから、そういう傾向があるのかもしれませんね。
ただ、このところの変化という点でいうと、コロナうんぬんよりも、税務調査に関連する役所の構えというか、体制が変わってきているように感じますね。あくまでも僕の印象にすぎませんが。
――どのように変わっているのですか?
田中 最近の税務署の調査では、若い経験の少ない調査官と、定年退職後に再雇用された大ベテランの調査官に会うことが多く、中堅の働き盛り調査官は少ない印象があります。あと審査する部門が税務署内ではなく、国税局が一定の範囲の税務署を統括するセンターを各地に設置しているようです。かつては、税務署に任されていたところも上部組織の国税局が直接的に管轄しているようなイメージでしょうか。
――それは、調査の効率化などを目的にしたものなのでしょうか?
田中 役所の詳しい意図はわかりませんけど、おそらく税務当局の人員が、調査対象となる法人や個人に対して増えておらず、人手不足なんだろうと思います。それを補うために、国税局に中堅のメンバーを集中させて、税務署は若い調査官が中心、調査の水準を確保するために、国税局での直接の管理を行う。そんなことなのかなあと、推測しています。いずれにしても、僕が在籍していた頃のような、統括がいて上席がいて先輩調査官がいて、内部には指導担当がいて、みたいな組織体制があるといった感じではなくなっているように思います。
税務調査の現場で、60歳で役所を定年退職して再雇用された大ベテランと新人が、ペアで調査に来るようなケースが珍しくないのも、そういう理由があるからかもしれません。
――そうやって、新人を指導している。
田中 そうでしょうね。で、これも当たり前ですが、大ベテランの方は、みなさんやたら詳しいわけです。再雇用だから、そんなにガツガツした感じでもなくて(笑)。一度、調査の帰り際に、「これだけ見ておいてください」と、いくつか付箋の付いた資料を渡されたんですよ。見たら、いっぱいある取引の中で、そこには全部見落としがちなミスがあって。さすがに勘所を外さないんだなと、とても関心したことがありました。
まあ、再雇用の人が活躍することも含めて、時代の流れというか、役所も一般の会社と同じなのです。僕らの頃は、仕事終わりに部門で上司や先輩と飲みにいくのは普通のことで、そこでさんざん説教されたりしたのも、当たり前の感覚でした(笑)。今はそういうのはNGで、あまりないんでしょうね。組織体制などについても、時代の変化に合わせて変わっていく、ということなのだと思います。
――役所の体制が変わっていることで、実際の税務調査に何か影響はあるのでしょうか?
田中 それは、あまりないと思いますね。当局の対応や調査のやり方自体は、従来と変わらないと考えていいでしょう。
調査に入られやすい会社はあるのか
――わかりました。ではその税務調査の方法について、お聞きしたいと思います。そもそも調査で狙われやすい会社というのは、あるのですか?
田中 税務調査には、税務署の行う任意調査と、国税局査察部、通称マルサの行う強制調査の2つがあります。マルサの調査は、巨額の脱税などの証拠をある程度押さえ、裁判所の令状を持って入りますから、そういうことをやっていたら、問答無用です。
今回のメインテーマの任意調査のほうは、例えば、急に売上が上がったとか、決算書の勘定科目の数字がおかしいとか。税務署から見て「目立つ」申告だった場合には、「ちょっと調べてみようか」ということになりやすいでしょう、あくまで一般論ですけどね。
過去の調査で不正や大きなミスなどが見つかった会社も、再度調べられる可能性は高いと思います。
――長年税務調査を受けていないところは、やはり気をつけるべきでしょうか?
田中 「長期未接触」というのは、調査先を選ぶ観点の1つになります。ただし、何年経ったら必ず入る、というものではないですよ。実際、何十年も税務調査を経験したことのない社長もいれば、3年後にまた来た、というようなケースも知っています。
あまり調査する側のことを詳しくは語れないのですが(笑)、税務署が来るか来ないかは、僕なりのいい方をすれば、“運”の部分が多分にあります。普通に経営していても、来るときには来ると考えてください。
――国税庁は、ネット関連をはじめとする新しい業態には、特に目を光らせているようです。
田中 そうですね。以前、全然売上も利益もない1人でやっている会社なのに、調査になってびっくりしたことがありました。どうして来たのが調査官に聞いたら、「いや、珍しい業種だったので」と。ほとんど利益が出ていなかったので、税務署の成果としてはゼロでしたが、そういう動機で調査に入ることもあるようです。
調査は、不正がないか→経費は適切か、が中心
――では、実際に税務調査の対象になった場合について、うかがいます。税務署の調査官が突然、会社や自宅にやってくるのではないか、と心配する人もいます。
田中 基本的には税理士のところに、まず連絡が来ます。そのうえで、調査の日時などを決め、必要な書類の準備などを行って当日に備える、という流れですね。
ただし、任意調査でも無予告で突然来ることもまれですが、あります。普段の現況を抑えた方がよいと考える、リスクの高い業種などです。まあ、そういうのはレアケースで、いきなり調査にやってくるということは、ほぼありません。また、任意調査には、税理士の同席が認められています。もし、突然入られた場合には、「顧問税理士が来るまで待ってください」という対応も可能です。
――実際に税務調査になった場合、何を見られるのか、というのも気になるところです。
田中 税務調査の流れと内容を、ざっくり説明しておきましょう。調査は、通常2日間行われます。1日目の午前中に、対面で「どんな仕事なのですか?」といった聞き取りが行われ、午後から書類の調査などに入ります。関などとの事前交渉も重要となります。
まず見るのが、売上とか仕入、さらには外注費とか人件費とか。要するにさきほどの売上の除外といった不正はないのかに目を凝らします。次に、数字の操作やミスの多い期ズレ。売上げなど、当期に計上されるべきものが正しくされているのか。それが終わると、交際費をはじめとする経費系ですね。おかしなものが紛れ込んでいないか、数字は正しいのか――。おおむねそういうふうにして、チェックを進めます。
――調査自体は、わりとオーソドックスというか。
田中 そうです。やたら税務調査を気にする人もいるのですが、普通にやっていれば、恐れたりする必要はありません。経営者には、もっと大切なことがあると思うのです。
「後編」では、「後編」では、そうしたことを含め、さらにお話をうかがいます。
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