【税務調査 後編】税務調査を過度に気にする必要はない何より大事なのは、ちゃんとお金を残すこと

青山アクセス税理士法人 代表社員 田中秀一郎氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]世良武史

調査官に誤解されるものは置かない

――お話しいただいた税務調査の中身も踏まえ、もし調査の対象になったら、どんな準備をしたらいいのでしょう?

田中 税務調査では、通常、過去3年分の申告について、調べられます。税務署から顧問税理士に連絡がある場合には、対応する総勘定元帳とかの帳簿や請求書、領収書などを用意しておくようにいわれるのが普通ですから、顧客にそれを伝え、しっかり揃えられるようお手伝いします。

僕は、税務署から連絡があったら、逆に「それ以外に見たいものはありますか?」と聞いたりもします。「何かそちらで資料を持ってるんですか?」とか。そうやって、相手が集中的に調べたいところがわかれば、当日慌てることも少なくなります。調査の現場で不意を突かれて動揺したりすれば、納税者にとってプラスになることはありませんから。

あとは、顧客にさきほどの調査の流れや、当日の対応の仕方などを説明して、当日に備えます。

――税務署から求められる書類などを用意する以外に、特に注意することはありますか?

田中 書類の調査などはオーソドックスに進みますが、調査官は、やはり見るところは見ます。ですから、事務所に余計なものは置いておかない、というのも大事なことです。

――「余計なもの」とは?

田中 気づきにくいところでは、辞めた社員の印鑑とか。引出しの中にそういうものがあると、調査官からは、「簿外預金があるのか?」と見えたりもするわけです。そういうことをきっかけに、調査の範囲が広がったりもします。ですから、仕事に関係のないものは、すべて廃棄するなり持ち帰るなりして、事務所内を整理しておいてください、ということは言いますね。

誤解してもらいたくないのですが、「まずいものは隠せ」ということではありません(笑)。あくまで、今の業務に不要なもの、税務署の誤解を招く可能性があるものは置いておかない、という意味です。

――それにしても、判子まで見ているというのは意外でした。

田中 税務署員時代、そういう判子があると、そのまま紙に押してみたりしたんですよ。印影の映り方で、よく使われているものかどうかの見当がつくわけです。で、書類を調べていたら、その判子が押されている外注先が見つかった。まあ、そんなに簡単に証拠が出てくるものではないのですが、そういうことで、実際に不正が発覚したこともあります。

ちなみに、不正が見つかるきっかけのことを、税務当局の専門用語で「端緒(たんちょ)」といいます。税務調査では、どこかに端緒はないか、調査官は神経を集中させているわけです。

余計なことは口にしない

――調査当日の対応の仕方については、どのような説明をするのですか?

田中 聞かれたことには、誠実に答える。嘘はつかない。わからなければ、「わかりません」と答える。これに尽きます。中には聞かれていないことをしゃべる方もいるのですが、これもやめたほうがいいです。

――やはり、調査官の誤解を招く可能性があるから。

田中 端緒という話をしましたが、税務調査には、「調査」だけでなく、不正や誤りがあればそれを見つけて、払うべき税金を払ってもらう、という目的があります。ストレートないい方をすれば、調査官は「お金を取りにきている」わけですね。そのことは、忘れないようにしてください。

とはいえ、繰り返しになりますが、調査には誠実に対応することが大切です。僕は税務調査があれば、自らの調査の経験も生かして顧客を守る立場で臨みます。しかし、税務署に協力しないというつもりは、毛頭ありません。指摘されたことについて、いうべきことはいいますが、明らかな間違いが見つかれば、素直に修正にも応じます。

――あまり非協力的だと、調査を受ける方にとってプラスにならない、という話も聞きます。

田中 税務署の調査官も人間です。あえてお話しすれば、調査に入る方も相当緊張するんですよ。怖い社長がいるんじゃないか、と(笑)。「申告のここが間違っています」「直してください」と言うのは、けっこう勇気が要ります。

――そうなんですね。

田中 個人的には、「別人格の僕」をつくって、いわせていたくらい。ただ、普通に受け答えしてもらえれば、そのうち調査官もリラックスして、いろいろと柔軟な対応も考えられるようになる。そんな感じです。

――調査の対象になるかならないかは“運”もある、というお話もありました。選ばれた場合には、ちゃんと準備をして、誠実に対応すべき、ということですね。

経費の「線引き」は

――ところで、調べられる申告の中身についていえば、所得隠しをしようという経営者は、そうはいないでしょう。ただ、経費が気になる人は多いと思うのです。経費にしていいのかどうか迷うような出費もできるだけ計上したいけれど、万が一税務調査になって、そこで否認されるのも怖い、と。

田中 税理士が答えづらいものを、「これは経費にして大丈夫ですか?」と聞いてこられるケースは、少なからずあります(笑)。一般的によく例に挙げられるのが、スーツ。仕事のときだけ着ていても、それが本当に業務に必要なものなのか?税務署に認められるかどうかは、ケースバイケースというしかありません。

こうしたものは、公の文書のどこを探しても、基準が載っていないのです。あまりに解釈の範囲が広すぎて載せられない、というのが正確でしょう。

――同じものでも、職業などによって必要性は変わりますよね。

田中 もちろん、そうです。例えば、ふつう個人で使う香水を経費で落とすのは難しい。でも、ホステスさんの香水代を家事按分(※)で計上した、という例を聞いたことがあります。確かに、「事業活動を行ううえで必要な費用」と主張することは、十分可能でしょう。

※家事按分 プライベートと業務を兼ねた支出があるとき、そのうち業務用の比率分を経費として計上すること。

――顧客から経費について問い合わせがあった場合、先生はどのように答えるのでしょう?

田中 「問題なし」「微妙」「絶対ダメ」のどれかでお伝えします。これは経営者とか一般的な考えとかでなく、税金上どう考えられやすいかのお話です。「ダメ」の場合は、「僕は、昔役所にいましたので、税務調査官だったら、全員ダメと考えるでしょうね」とか、わかりやすく言います(笑)。

――そういわれたら、諦めざるをえないでしょう(笑)。

田中 微妙なものについては、なぜ微妙なのかは説明しますけど、最終的にはご本人で判断というか決断していただくしかありません。

――グレーゾーンにあるものは、業務に使っているという実態や証拠を明確にすることも重要ですね。

人や時間をどこに使うのか

田中 ただ、そういうふうに、大きくても数十万円の経費処理について何度も聞いてくる社長さんが、1,000万円単位の架空取引に引っ掛かってしまった例がありました。そっちこそ、事前に相談してほしかったなんてこともありましたね。

――それは、税金とは比較にならない金額の損失になってしまいましたね。

田中 今のは極端な話かもしれませんが、前にも言ったように、税務調査をそんなに気にする必要はない、というのが僕の持論です。不正はいけませんが、申告書類に関しては、経費も含めた細かな間違いは起こりうるものです。

特に中小企業は、使える人も時間も限られているのですから、細部まで100%正確なものを作成できなくても仕方ないのではないでしょうか。お金の管理さえきちんとできていれば、という条件は付きますが。

――そこは、ある程度割り切ってもいい、と。

田中 なぜ、税理士ながらわざわざこんなことを言うのかというと、そういう労力は、何よりもしっかり売上を上げて、会社の利益を増やしていくことに振り向けてほしいからです。ベタな言い方ですが、会社は儲けてお金を持っていれば、何でもできます。逆に言えば、税務調査のことは、しっかり儲けてから考えればいいでしょう。

――税務調査を気にするあまり、本業と本末転倒にならないように、ということですね。

田中 お客さまにも、とにかく稼ぐことに力を注いでください。そのためのお手伝いをしますと話しています。

――とても参考になるお話を、ありがとうございました。最後に、貴社の今後の展望を聞かせてください。

田中 ここから事務所の規模を大幅に拡大したいと、といった目標などは特にありません。必要に応じて人員や仕事量を増やしていく、というスタンスで行きたいと考えています。おおげさですが、拡大よりも貢献度、利益、など弊社に関わる方の幸福を最大化できるように努めていきたいですね。ただ、弊社、非常にありがたいことに、設立来、売上高はずっと前期比プラスで来ているので、右肩上がりの基調は崩さないよう、頑張っていきたいですね。

――ご活躍を期待しています。

常にお客様の立場に立って、最善の結果を出すことをモットーに問題解決・改善提案型のコンサルティングサービスを提供。会計・税務に関する手続きに加え、税務調査対応、相続、起業・資金調達支援、非営利法人の税務に強い。

URL:https://www.acszeiri.com/

こちらもオススメ!